無能と呼ばれた鍛冶師の神〜能力値向上のチート装備を村人たちに持たせて最強の国を築く!!

七色夏樹

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第2話 女神アテナとトリートーン

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 あれからすぐに着替えて翼馬車に乗り込み、俺はミカエルを伴ってゼウスのいる神都、大神殿オリュムポスへと向かった。

「相変わらず威圧感ハンパない建物だな」
「緊張しますね、ウゥル様」

 無理もない。一介の天使が主神に謁見するのだから、そりゃガチガチになって当然だ。
 実際、俺も緊張していたりする。

 最後に親父と会ったのは、もう百年以上も前のこと。
 ただ会ったってだけで、一言も交わしていない。
 最後に言葉を交わしたのなんて……正直もう記憶にすらない。

 それが突然の呼び出し。
 これを不吉と呼ばずしてなんという。

 はるか昔に呼び出された時は、たしか俺の領土を1/10に縮小するというものだった……はず。元々小さかったのにも関わらずだ。
 次男でありながら俺の領土は一族のなかでもダントツに狭い。
 なんならこの国の神のなかで一番小さい。

 ただでさえ小さい領土なのに、これ以上小さくすると言われたらどうしよう。不安だ。

 そんなことを思案しながら長く伸びた大理石の廊下を進み、レリーフが施された両扉を開ける。そのまま主神の前で跪く。
 後ろに控えるミカエルも同様だ。

「お久しぶりでございます、父上。本日はお招きいただき―――」
「貴様の見え透いた追従などに興味はない。聞くだけ時間の無駄だ」
「…………」
「我は貴様に父と呼ばれることも、その顔も見たくないのだ。穢らわしい」

 見上げるほどに天高く伸びた階段。その最上から厳かな声音が降ってくる。
 神座に深く腰かけ、立派すぎる白髭を蓄えた老人――主神ゼウス。
 見下ろすその眼は蔑みに満ちている。

 すべてを見透かすようなあの眼が俺は苦手だった。その眼に射竦められると、心臓に矢が突き刺さったように息苦しさを覚える。
 無意識に胸の辺りをぎゅっと握りしめた。

 そんな時、俺は決まって瞳を閉じ、心のなかで3つ数える。
 すると、優しい声音が聞こえてくる。

『ウゥルカーヌスよ、辛く苦しい時こそ笑うのです。さすれば不運の方から去っていくものです』

 大切な教えを宝物のように握りしめ、自らを鼓舞する。
 俺はいつものように口角を引きあげた。

「本日はなぜ、わたくしなどが大神殿オリュムポスにお招き頂けたのでしょうか」
「勘違いするでない。我が目障りな貴様を呼び出すとでも思うたか」
「……と、申しますと?」

 どういうことだと首をかしげたのも束の間、抜けるような声音が主神の間に響き渡った。

「わたくしがお呼びしたんですのよ、お兄様」
「アテナ!?」

 ゼウスの影からひょっこり姿を現したのは、美しい金髪をハーフアップに編み込んだ少女。
 聖女を彷彿とさせる純白のワンピースに身を包んだ彼女は、ゼウス8番目の子供にして六女――アテナ。
 ゼウスのお気に入りだ。

「お久しぶりですね♪ お元気にされていましたか? 脚の方はもうよろしいのですか? 兄妹なのに中々お会いできなくて、わたくし常々寂しいと思っていたのですよ」

 駆けるように階段を下りてきたアテナは、芝居っ気たっぷりの仕草や表情で白々しく口にする。

「あら、そちらは新しくお雇いになられた天使メイドさんですか? まぁー! お可愛らしい! お名前はなんと言いますの? スカートの丈が少し短くはありませんか? うふふ。きっとお兄様の御趣味なのでしょうね! 黒のストッキングは殿方に人気のアイテムらしいですね! 履き心地はどうですか? わたくしは履いたことがなくて……。あっ! わたくしのことはアテナと呼んでくださいね」

 突然の女神アテナの登場に戸惑いを隠せないミカエルが、怯えきった小動物のように銀朱の瞳を右往左往と動かしている。

「はぁ……」

 俺は深くため息を吐き出した。

「彼女はミカエル。アテナの言う通り、最近雇い入れたばかりの使用人だ。まだ不慣れな新人なので、そう質問攻めにしてやらないでもらえると助かる」

 ザッとこちらに向き直ったアテナが、一瞬俺を見据える。
 一体誰に指図している……目がそう言っている気がした。
 だけどそれも一弾指、アテナはすぐにいつもの嘘くさい笑顔を顔に貼り付けていた。

「ところで……父上ではなくアテナが俺を?」
「はい! 今日はお兄様に折り入ってお願いがございまして、こうしてわざわざ御足労いただいたのです!」
「お願い……?」

 アテナが俺にお願いだと!?
 それもわざわざ神都である大神殿オリュムポスに俺を呼び出して? ……すっげぇー嫌な予感しかしないのは気のせいだろうか。
 神の予感って……意外と当たるんだよな。

「はい! お兄様に是非っ! ゴッドゲームに参加して頂きたいのです!」
「――――!?」

 ゴッドゲームだと!?
 な、なに言ってんだこいつッ!?
 なんでわざわざ狭い領地を賭けて俺がゴッドゲームなんぞせにゃならんのだ!?
 そんなアホなこと誰がするか、ばかたれッ!

「ゴッ……ゴッドゲーム? ど、どうして俺が?」

 焦るな、俺。
 ここは落ちついて慎重に相手の思惑を探り、その上で躱すのだ。

「先日の神の宴パーティでトリートーンから正式に領地を賭けた神々の戦いゴッドゲームを申し込まれたのです」

 一度咳払いをしてから、それと俺に一体どんな関係があるのかと問う。
 トリートーンがゴッドゲームを申し込んだ相手は俺ではなくアテナなのだろう。
 であるならば、俺ではなくアテナが参加戦うのが筋である。

 ルール上代理は認められているが、アテナと俺の実力差を鑑みれば、彼女が俺に代理を要請することなどまずありえない。
 これはあきらかに不自然。

 天界において領土とは領民――すなわち天使の数に直結する。
 天界での争いは禁じられているが、その掟だっていつまで続くかは誰にもわからない。
 終末の日ラグナロクが来てしまった時のことを踏まえ、神々は今も戦力を整えている。

 天使≒戦力である以上、神にとって領土拡大は最優先事項。
 たとえこのまま終末の日ラグナロクを回避できたとしても、もう一つの争いは絶対に避けられない。

 主神継承争いだ。

 現在継承順位第一位は長男アレース。
 兄上が継承権一位の座に就いている理由は、広大な領土を有するからである。

 席番は基本的に支配領地の規模によって定められている。
 支配領地が広ければ広いほど、天使国民からの支持を得られるのはの至極当然。
 逆に領土が狭い力のない神が神座に就こうものなら、天使たちからの反発も免れない。

 国内での混乱を避けるためにも、わかりやすく力を数値化する領地面積は都合がいいのだ。
 かつて親父が俺の領地を縮小したのも、すべてはこのことが関係していたからだ。

 領土を拡大すれば俺にもまだ神座に就く可能性が残されていると思われがちだが、現実はそう甘くはない。
 ゴッドゲームをするためにはお互いの領地をチップとして賭けるベットする必要がある。

 言い換えれば、これは互いに納得できるだけの領地を賭ける必要あるってこと。
 俺の小さな領地をすべて賭けたところで、大抵の神は時間の無駄だと見向きもしない。
 ローリスクローリターンな賭けほどつまらないものはないからだ。

 俺としても領地を賭けてまで、領土拡大は望まない。
 そもそも俺の小さな領地面積ではゴッドゲームでは絶対に勝てない。
 なにより領土を失ったモノは神の資質を問われることになる。

 神の審判だ。

 神としての存在価値があると認められたモノは、認めてくれた神から領地を分け与えられる。
 晴れて神様復帰となるのだが、これは同時にその神の臣下に下るということでもある。
 それがゼウス一族ならば、臣籍降下ということになる。そうなれば当然継承権は剥奪となる。

 そして一番の問題は、神として価値がないと烙印を押された神の末路だ。
 天界からの追放。
 つまりは強制輪廻転生の執行である。
 これは人間たちでいうところの死刑に値する。

 以上の理由からも分かる通り、俺にとってゴッドゲームはメリットよりもデメリットの方がはるかに大きい。
 それになにより、アテナが俺をゴッドゲームの代理に選ぶ意味がわからない。

 と、ここまで思案した俺は、できるだけ平静を装い微笑んだ。

「代理か、とても光栄なことだが……うん。やはりここは辞退させてもらおう。仮に万が一が起きて、かわいい妹の領土が縮小したなんてことになったら、兄としては非常に心苦しいからな」

 決して臆したわけではないことをアピールしつつ、当たり障りなく回避する。
 躱せたと思ったのだが――

「……うふふ。嫌だわ、お兄様ったら」

 俺の顔をまじまじと数秒間見つめたアテナが、やがて愉快そうに肩を揺らす。

「わたくしのゴッドゲームにお兄様を代理に立てるなんて……うふふ。わたくしそこまで愚かではございません」

 ――なっ!?
 こいつかわいい顔してなんちゅうことをさらっと言ってくれてんだよ。
 エニュオ四女に続いてアテナ六女にまで小馬鹿にされる俺を見て、ミカエルは悲しそうな表情を浮かべた。

 そうだよな。自分が仕えるがこんなだったら……そりゃそんな顔にもなるよな。
 なんだか申し訳ない気持ちになってしまったが、落ち込んでいる場合ではない。

 アテナがゴッドゲームに俺を代理として参加させないのであれば……先程の彼女の発言、その真意がまるでわからない。

 彼女は先日の神の宴パーティとやらでトリートーンから正式にゴッドゲームを申し込まれたと言った。

 ちなみにその神の宴パーティとやらに俺は招待されていないから詳細は不明だが(というかパーティなんてもう随分長いこと呼ばれた記憶がない)、アテナは俺にゴッドゲームに出てくれと口にした――にも関わらず屈辱的な愚か者発言。
 ……意味不明すぎる。

「トリートーンがゴッドゲームに申し込んだお相手は、お兄様なのです!」
「…………は?」

 妹の言っている言葉の意味が理解できず、というか数瞬思考が停止してしまった。

 呆然とぱちくり睫毛を鳴らす俺に、アテナは愛らしい顔で微笑をたたえる。

「はぁぁああああああああああああああああああああああああッ――――!?!?」

 再起動と共に大絶叫。

「――ちょっと待てっ!!」

 俺はここが大神殿オリュムポスであることも、親父が見ていることも忘れて眼前の女に掴みかかった。

「トリートーンにゴッドゲームを挑まれたのはお前だろっ!? なんで俺になってんだよ! つーか百億万歩譲って俺だったとしてもだっ! なんでお前が勝手に俺への申し出を受けてんだよ! そんなバカなことあるわけねぇだろ!」
「ですから、こうしてわざわざ出向き、直接謝っているではありませんか?」
「は……?」

 謝る……?
 これまでの会話のどこに謝罪なんてあったんだよ。そもそも暴力女に襲われて、いやいや出向いたのは俺の方だろがァッ!
 てか、この際そんなことはどうでもいい。

 問題はトリートーンが俺に申し込んだゴッドゲームを、このバカが勝手に受けたということ。

「ちゃんと説明しろ。なんで俺へのゴッドゲームの申し出をお前が受けたんだ。そもそもトリートーンだってなんで俺に直接申し込まず、お前に言うんだよ。筋が通らないだろ」
「話せば少しばかり長くなってしまうのですが……」
「いいから話してくれ。俺には知る権利があるし、お前には話す義務があるだろ?」
「まぁ……面倒くさいですが、仕方ありませんね」
「――なっ!」

 盛大に嘆息する妹に怒りを覚えながらも、わずかに残っていた理性で思い留まった。
 俺はアテナの話に耳をかたむけた。
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