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第15話 割れる意見
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「冗談じゃない! なんで知らない奴なんか助けないといけないんだよ!」
「優里の言うとおりよ! 人助けしてこっちが死んだらバカみたいじゃん!」
「俺も嫌だぜ。やるんならあんたらだけで勝手にやってくれ」
龍二と俺のやり取りを見聞きしていた三人が、自分たちはこの場に残ると言い出した。困った俺は残りの二人の意見も聞こうと、本間と瀬々に視線を向ける。
「ウチは別に構わんよ。いや、そりゃめちゃくちゃ怖いし、正直ウチなんかが助けに行ったところで役に立つんかな~? ってのが本音やねんけど。やっぱり見捨てるのはちょっと良心が痛むんよね」
「わ、私は、その……ごめんなさい。無理です。こ、怖いんです。それに、私のスキルでは、あの……戦えませんから」
たしかに貴重な回復役である瀬々をわざわざ危険に晒すわけにはいかない。
「四対三でこっちの勝ちじゃん。あの人には悪いけど、見捨てるってことでいいのよね? ならさっさとここから離れたほうがいいんじゃない?」
身を翻して渡り廊下とは逆方向に歩き出そうとする松本に、「待ってくれよ!」龍二は大音声を響かせた。
「なんだよ?」
反応したのは龍二の置き土産にグロッキー状態の五反田だ。彼は敵意をむき出しに、龍二に突っかかった。
しかし、龍二は一歩も引くことはなかった。土俵際ギリギリで踏ん張る力士のように、押し出しだけはされるものかと、反撃の機会をうかがっていた。
「まだ一人残っているだろ」
「は? ――いやいや、そいつは頭数に入らないだろ」
龍二は俺を――俺の背中にいるいのりを指さしていた。
「バカなんじゃないの? その人は戦うどころか、自分で歩くこともできないじゃん? そんな人の意見なんて聞く必要ないに決まってんじゃん」
「だけど、助けてもらったんだろ?」
龍二は怒るわけでもなく、ただ真摯に彼らと向かいあっていた。
「彼女がいなければ、少なくとも五反田だっけ? 君はとっくに死んでたわけだ」
「!?」
「だってそうだろ? さっきのヨッシィの説明では、君はゴブリンに襲われて動けなくなっていた。それを彼女が、いのりんが【チャージショット】で君を助けた。違ったか?」
「……っ」
「それはたしかにそうかもしれないけど」
苦虫を噛み潰したような顔で黙り込む五反田に代わり、不機嫌を隠そうともしない松本が吠えた。
「でも今は死に損ないじゃん! 正直足手まといでしかないじゃん!」
この野郎っ!
松本の一言に頭にきた俺が、文句のひとつでも言ってやろうと一歩前に踏み出せば、龍二が手を伸ばしてそれを制止してきた。
「有栖川アリス――二年生だった去年、剣道インターハイ全国優勝を成し遂げた天才剣士」
「なによ……いきなり?」
「渡り廊下で今も一人戦っている女の子のことだよ。ウチの学校、少なくとも二年以上なら誰でも知ってる有名人だ」
「それがなんだってのよ!」
「なら聞くけど、君たちは戦えるのか? 逃げてばかりの君たちだけで、ここから生きて出られるのかって聞いているんだ。君は今いのりんを死に損ないだと侮辱したけど、君はゴブリンを一体でも倒せるのか? 倒せたのか?」
「……それは」
「どうなんだ!」
龍二の大きな声に場は静まり返る。
「僕はいのりんを尊敬するよ。ゴブリンを倒しただけじゃなく、体を張って仲間を守った彼女は本当にすごい」
「龍二……」
「僕たちは生きるために、生き残るために最善を尽くさなければいけない。そして、今僕が考える最善、それは有栖川アリス先輩を仲間にすることだ!」
こいつは……マジですごいと思った。
出会ったばかりだが、誰よりも冷静に状況を見極めている。同時に俺は直感で感じていた。こいつは信用できると。
「でもさ、助けに行ってこっちに死人が出たら意味なくないか?」
「う~ん……」
渡辺の言っていることも一理ある。
龍二もこの意見には首を傾けて唸っていた。
「たしかにそうだな。よし、なら僕とヨッシィの二人で有栖川アリス先輩を助けに行く。ここから生きて脱出するためには、絶対にあの人は仲間にしておくべきだと思うんだ。だからみんなはここで待っていてくれ。ヨッシィもそれでいいかな?」
「俺はそれで構わない」
俺は龍二の提案に乗ることにした。
有栖川アリス先輩とやらが龍二のいうように本当に強いのなら、前衛を任せられる仲間は必ず必要だ。
「向井くんが行くならウチも行くで! これまでかて、ずっと一緒やったんやから」
本間の申し出は嬉しいが、俺は彼女の申し出を断った。
「なんでやっ! ウチじゃ足手まといやって言いたいんか?」
「逆だよ」
「え……逆? どういう意味やの、それ?」
「本間さんにはいのりの事を看ていてもらいたいんだ。さすがに背負ったままだと厳しいから」
「たしかにそれはそうやな。でもそれやったらあの子らに……」
本間は振り返り松本たちを見た。
俺は彼女にだけ聞こえるように、小さな声で言う。
「さすがに信用できない。この中でいのりの事を任せられらのは、本間さんしかいないだろ」
「え……」
本間は驚いたように目を見開いて、じっと俺の目を見つめるてくる。
気のせいだろうか、本間の頬が少し赤い。
「つまり、その……そういう事って事でええんかな?」
「ん……?」
そういう事って事とはどういう事だ?
さっぱり意味がわからなかったけど、俺は「たぶんそうだと思う」と答えた。
「わ、わかった。その話はここではなんやから、生きてここを脱出できた時にゆっくり話すとしよか」
「話……?」
一体何の話だろ?
彼女が俺と何を話したいのかわからないが、今は有栖川アリスを助けることに集中しよう。
「すぐに戻ってくるからな、いのり」
「……よし、の」
俺はいのりを本間の背中に移動させる。
「大丈夫やで、須藤さん。ウチが付いとるから」
マジで頼むぞと、パワーを送る気持ちで本間を見ていたら「もう、わかったから」みんな見てるからと、赤くなってそっぽを向いてしまった。みんな見てたらなんでダメなのだろう? わからん。
「あっ、あの……お、お気を付けて」
「うん。瀬々さんも」
「行くぞ、ヨッシィ」
見た目に反して軽快な足取りで走り出した龍二のあとに続き、俺も廊下を蹴り上げた。
「優里の言うとおりよ! 人助けしてこっちが死んだらバカみたいじゃん!」
「俺も嫌だぜ。やるんならあんたらだけで勝手にやってくれ」
龍二と俺のやり取りを見聞きしていた三人が、自分たちはこの場に残ると言い出した。困った俺は残りの二人の意見も聞こうと、本間と瀬々に視線を向ける。
「ウチは別に構わんよ。いや、そりゃめちゃくちゃ怖いし、正直ウチなんかが助けに行ったところで役に立つんかな~? ってのが本音やねんけど。やっぱり見捨てるのはちょっと良心が痛むんよね」
「わ、私は、その……ごめんなさい。無理です。こ、怖いんです。それに、私のスキルでは、あの……戦えませんから」
たしかに貴重な回復役である瀬々をわざわざ危険に晒すわけにはいかない。
「四対三でこっちの勝ちじゃん。あの人には悪いけど、見捨てるってことでいいのよね? ならさっさとここから離れたほうがいいんじゃない?」
身を翻して渡り廊下とは逆方向に歩き出そうとする松本に、「待ってくれよ!」龍二は大音声を響かせた。
「なんだよ?」
反応したのは龍二の置き土産にグロッキー状態の五反田だ。彼は敵意をむき出しに、龍二に突っかかった。
しかし、龍二は一歩も引くことはなかった。土俵際ギリギリで踏ん張る力士のように、押し出しだけはされるものかと、反撃の機会をうかがっていた。
「まだ一人残っているだろ」
「は? ――いやいや、そいつは頭数に入らないだろ」
龍二は俺を――俺の背中にいるいのりを指さしていた。
「バカなんじゃないの? その人は戦うどころか、自分で歩くこともできないじゃん? そんな人の意見なんて聞く必要ないに決まってんじゃん」
「だけど、助けてもらったんだろ?」
龍二は怒るわけでもなく、ただ真摯に彼らと向かいあっていた。
「彼女がいなければ、少なくとも五反田だっけ? 君はとっくに死んでたわけだ」
「!?」
「だってそうだろ? さっきのヨッシィの説明では、君はゴブリンに襲われて動けなくなっていた。それを彼女が、いのりんが【チャージショット】で君を助けた。違ったか?」
「……っ」
「それはたしかにそうかもしれないけど」
苦虫を噛み潰したような顔で黙り込む五反田に代わり、不機嫌を隠そうともしない松本が吠えた。
「でも今は死に損ないじゃん! 正直足手まといでしかないじゃん!」
この野郎っ!
松本の一言に頭にきた俺が、文句のひとつでも言ってやろうと一歩前に踏み出せば、龍二が手を伸ばしてそれを制止してきた。
「有栖川アリス――二年生だった去年、剣道インターハイ全国優勝を成し遂げた天才剣士」
「なによ……いきなり?」
「渡り廊下で今も一人戦っている女の子のことだよ。ウチの学校、少なくとも二年以上なら誰でも知ってる有名人だ」
「それがなんだってのよ!」
「なら聞くけど、君たちは戦えるのか? 逃げてばかりの君たちだけで、ここから生きて出られるのかって聞いているんだ。君は今いのりんを死に損ないだと侮辱したけど、君はゴブリンを一体でも倒せるのか? 倒せたのか?」
「……それは」
「どうなんだ!」
龍二の大きな声に場は静まり返る。
「僕はいのりんを尊敬するよ。ゴブリンを倒しただけじゃなく、体を張って仲間を守った彼女は本当にすごい」
「龍二……」
「僕たちは生きるために、生き残るために最善を尽くさなければいけない。そして、今僕が考える最善、それは有栖川アリス先輩を仲間にすることだ!」
こいつは……マジですごいと思った。
出会ったばかりだが、誰よりも冷静に状況を見極めている。同時に俺は直感で感じていた。こいつは信用できると。
「でもさ、助けに行ってこっちに死人が出たら意味なくないか?」
「う~ん……」
渡辺の言っていることも一理ある。
龍二もこの意見には首を傾けて唸っていた。
「たしかにそうだな。よし、なら僕とヨッシィの二人で有栖川アリス先輩を助けに行く。ここから生きて脱出するためには、絶対にあの人は仲間にしておくべきだと思うんだ。だからみんなはここで待っていてくれ。ヨッシィもそれでいいかな?」
「俺はそれで構わない」
俺は龍二の提案に乗ることにした。
有栖川アリス先輩とやらが龍二のいうように本当に強いのなら、前衛を任せられる仲間は必ず必要だ。
「向井くんが行くならウチも行くで! これまでかて、ずっと一緒やったんやから」
本間の申し出は嬉しいが、俺は彼女の申し出を断った。
「なんでやっ! ウチじゃ足手まといやって言いたいんか?」
「逆だよ」
「え……逆? どういう意味やの、それ?」
「本間さんにはいのりの事を看ていてもらいたいんだ。さすがに背負ったままだと厳しいから」
「たしかにそれはそうやな。でもそれやったらあの子らに……」
本間は振り返り松本たちを見た。
俺は彼女にだけ聞こえるように、小さな声で言う。
「さすがに信用できない。この中でいのりの事を任せられらのは、本間さんしかいないだろ」
「え……」
本間は驚いたように目を見開いて、じっと俺の目を見つめるてくる。
気のせいだろうか、本間の頬が少し赤い。
「つまり、その……そういう事って事でええんかな?」
「ん……?」
そういう事って事とはどういう事だ?
さっぱり意味がわからなかったけど、俺は「たぶんそうだと思う」と答えた。
「わ、わかった。その話はここではなんやから、生きてここを脱出できた時にゆっくり話すとしよか」
「話……?」
一体何の話だろ?
彼女が俺と何を話したいのかわからないが、今は有栖川アリスを助けることに集中しよう。
「すぐに戻ってくるからな、いのり」
「……よし、の」
俺はいのりを本間の背中に移動させる。
「大丈夫やで、須藤さん。ウチが付いとるから」
マジで頼むぞと、パワーを送る気持ちで本間を見ていたら「もう、わかったから」みんな見てるからと、赤くなってそっぽを向いてしまった。みんな見てたらなんでダメなのだろう? わからん。
「あっ、あの……お、お気を付けて」
「うん。瀬々さんも」
「行くぞ、ヨッシィ」
見た目に反して軽快な足取りで走り出した龍二のあとに続き、俺も廊下を蹴り上げた。
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