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第14話 相棒登場?

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「アカン、こっちも行き止まりや」

 移動を開始して間もなく、俺たちは二度目の行き止まりに足を止めていた。

「さっ、さっきは通れたのに……」

 先程瀬々たちはこの廊下を通ってきたらしいのだが、その道はすでに瓦礫で塞がっていた。見れば天井が崩れて道を塞いでいる。

「一体誰が破壊しとんねん」
「たぶんみんなだと思う」
「みんな……? みんなってぇ?」

 周囲を見渡した俺は、建物の破壊は生徒によるものではないのかと考えていた。

 というのも、これが仮に上位個体による犯行だとしたら、もっと悲惨な状況になっていると思うのだが、パッと見た限り死体は確認できない。

 瓦礫に埋もれている可能性はあるものの、やはり不自然だと思う。生徒がスキルを使用した結果こうなった。そう考えたほうがしっくりくる。

「でもさ、わざわざ天井を壊す意味ってあるか?」

 槍士な彼が答えると、同意するようにうなずく罠師なギャル。

「意味分かんないよねー」
「天井じゃなくて、床を破壊したんじゃないか?」
「床……?」

 海賊王が俺の言葉に大袈裟に反応する。

「誰かが三階でモンスターと戦っていて、その戦闘時に誤って床を破壊したんだと思う」
「それは十分あり得るわ!」

 といったところで、モップを肩に掛けたイケメン風の槍士な彼が、「んっなの分かったところで何か意味あるのかよ?」会話の流れを断ち切った。

「………」

 俺たちは口を閉ざし、別のルートを探そうと踵を返す。

「どこから一階に下りるん? もう道あらへんよ」
「一度三階に戻ってから、別の階段で一階に下りよう」
「やっぱりそれしかないか――って、またあの死体の山を歩くんか。うんざりするわ」
「し、死体の山!?」

 俺たちの会話を聞いていた瀬々が驚愕に声を震わせると、残りの三人も顔を引きつらせてしまう。

 そりゃ俺だってできれば見たくないし、通りたくない気持ちは同じだ。
 だが、そんなことも言っていられない。

 結局俺たちは最初に下りてきた階段から、三階に戻ってきた。

「ゔぅぇっ―――」

 槍士の五反田は壁に手をつき、盛大に吐瀉物をぶちまけていた。瀬々を含めた残りの三人も口元を押さえていたが、吐いてはいなかった。本間に関しては二回目なので反応もほとんどなかったと思う。

 予想外だったのは、前衛を任せたい五反田が精神的に一番弱そうなことだ。そういった意味では、海賊王な渡辺は図太い神経をしている。自分を好いていた友人を間接的に死に追いやったにも関わらず、彼はこれっぽっちも気にする素振りを見せていない。

 そんな彼を毛嫌いし、睨みつける罠師の松本。正直かなりめんどくさいチームだと思う。
 瀬々はよくこんな連中と一緒にいたなと思い尋ねてみれば、

「ま、松本さんたちとは、その……に、逃げてる時にたまたま一緒になって」

 通りで一人だけ雰囲気が違うと思った。

「優里どこ行くの?」
「ちょっと口を注ぎたいから」

 五反田に付き添う形で、松本も近くの男子トイレに入っていく。渡辺と一緒にいるのが余程嫌なのだろう。

「くっさぁっ!?」
「うっ……ゔぅぇっ」

 男子トイレに入ったと思った矢先、松本が叫びながら飛び出してきた。そのあとに、吐き散らす不快な音が聞こえてくる。五反田は吐き癖でもあるのかと疑ってしまう。

「どうしたんだよ?」
「ダメッ―――絶対に近付かないほうがいいから!」

 青ざめた表情で壁に背中をくっつけた松本が、こちらに来るなと手のひらを突きだし、逆の手で鼻をつまんでいた。

「「「「?」」」」

 俺に本間、瀬々と渡辺は意味がわからず首を傾げる。そこに男子トイレから見知らぬ男子生徒がベルトを締めながら現れた。

「便所は糞するための場所なんだから、そりゃ臭いに決まってるだろ! つーか失礼過ぎるだろ。一人吐いてるしさ」

 男子トイレから現れたのは、身長160cm程の巨漢。丸々と太った酒樽体型の男子生徒だ。

「にしても臭過ぎんのよ! 一体何食ったらこんな殺人的な臭いになんのよ!」
「仕方ないだろ。水が流れなくて放置中なんだから。おまけにこの暑さだしさ」
「ちゃんと流しなさいよ!」
「だから水が出なくて流れないって言ってんだよ!」

 丸々と太った彼は、大が流れないからトイレから出られなかったらしい。ちなみに今も流れていないそうだ。

「とりあえず先生に言って何とかしてもらうことにするよ」
「え?」

 まさかの発言に、俺たちは一瞬固まってしまった。

「もしかしてだけど、状況わかってないのか?」
「状況……?」

 俺の前で立ち止まった彼は身を翻し、男子トイレに顔を向けながらポケットに手を突っ込む。そこから一台のスマホを取り出した。

「さっきも言ったけど水が出ないんだ。学校に電話して先生を呼ぶことも考えたんだけど、なぜか回線が混み合っててどこにも繋がらない」

 酒樽体型な彼がスマホの画面を見せてくる。スマホが使えないことをアピールしていた。

「いや、そういうことじゃなくて」
「……? ならなんだって言うんだよ?」

 俺は落ち着いて聞くように言い、ここまでの話をできるだけ手短に説明した。
 すると、話を聞いていた彼は途端に目を輝かせ、

「現代ファンタジーキタ―――――」

 拳を突き上げ歓喜の雄叫びを響かせていた。
 突拍子もない彼の言動に、俺たちは2、3秒程フリーズしてしまう。

「あのとき女神のメッセージが聞こえただろ! もしかしたらって思ったんだ。あっ、みんなはもうステータスを確認したかい? 職業はできるだけ役割を考えた上で選んだ方がいい。剣道とか格闘技系をやってる人はかなり有利だと思う。ちなみに僕は昔から相撲をやっていたから足腰には自信があるんだ。だから【盾士】ってのを選択してるけど、君は……えーと、ごめん、名前なんだっけ?」

 水を得た魚のように饒舌になった彼に、俺は落ち着くように声をかけてから自己紹介をした。ついでにみんなのことも紹介しておいた。

「僕は高見盛龍二。たかみーやロボコップの愛称で慕われた力士、高見盛精彦の高見盛に、現在九重部屋の師匠を務める千代大海龍二の龍二。ふたつを合体させた名前だからすっごく覚えやすいと思うよ」
「……高見盛」
「ん、なんだい?」
「あ……いや、なんでもない」

 なぜだか彼に対し、すごく親近感が湧いていた。

「あっ、そ、そっちは行かないほうが……」

 階段へ向かって歩く高見盛を、おどおどした瀬々が声をかけるも、彼は気にせず歩みを進める。俺は見ないほうがいいぞと、一応声をかけておいた。

「ヨッシィの言うとおり、これは酷いな」

 階段踊り場を見下ろした高見盛はその場で合掌。

「ちゃんと成仏してくれよ」

 意外にも、高見盛は死体を見ても動じることがなかった。それどころか、顔色ひとつ変えなかったのだ。

「高見盛は、その……平気なのか?」
「龍二、そう呼んでくれよ、相棒」
「え……あ、ああ」

 一体いつから俺は彼の相棒になったのだろう。気になったが今は置いておこう。

「で、平気なのか? 気持ち悪くなったりは?」
「全然」

 こいつ、精神面がかなり強いな。俺だって異世界ではじめて死体を見たときは、数日はまともに肉が食えなかったのに。

「昔からさ、いつ異世界召喚されてもいいように、ヤバいサイトでグロ写真やグロ映像を観続けてきたんだ。だからある程度は耐性あるつもりかな」
「……そうなのか」

 すごく変わったやつだと思ったが、ひょっとして一番頼もしいのではないかとも思った。改めて人は見かけによらないものだなと。

「街中にモンスターがあふれた影響で、水道管が破裂したってことなのかもな」

 ぶつぶつ言いながら、龍二は窓のほうに移動する。そこから確認するように街を見渡していた。

「建物などの被害はまだそんなにないっぽいけど、ライフラインは時間の問題で使えなくなるかもな」
「せやけど、数日で復旧するんやない? 大きな地震が起きた時も数日で戻るやん。そういった日本の技術力って世界一っていうし」
「柑奈だったけ?」
「せやよ」

 いきなり呼び捨てだと!?
 俺は二人の会話もそっちのけで、驚いてしまった。

 本間も全然気にしてなさそうだし、龍二はああ見えて女慣れしてるのかもな。いや、俺だって一ヶ月だけだったけど、異世界でブイブイ言わせたんだ。

「これは自然災害じゃない。日本中、世界中でここと同様のことが起きていると考えたほうがいい。そうなると、いくら政府や自衛隊でも、この混乱を抑え込むのは不可能だと思うよ」
「せやったら、ウチらはずっとこのままいうこと?」
「それはまだ分からないよ。ただ、覚悟はして置くべきだろうね―――!?」

 自身の考えを述べていた龍二が突然、窓を開けて身を乗り出した。

「ヨッシィ! 人がゴブリンらしき緑色のモンスターに襲われてる!」
「え、マジかよ!?」

 俺たちは次々と窓を開け、龍二と同じように身を乗り出した。
 彼が見据える方角――渡り廊下には、鮮やかな金髪を後頭部で結った色白な女子生徒の姿があった。木刀を構える彼女の周りにはゴブリンたちの姿がある。
 囲まれている!?

「早くここを離れよう!」

 ゴブリンの群れがこちらに近づいて来るかもしれないことを懸念した五反田たちは、すぐにここから移動すべきだと声を上げた。
 それとは逆に――

「何言ってんだよ! 見殺しになんてできるだけわけないだろ! 助けよう、ヨッシィ!」

 龍二は迷うことなく、見ず知らずの彼女を助けるべきだと言った。

「――――」

 なぜだかわからないけど、龍二の呼びかけに、俺の胸にはグワァーって熱い何かがこみ上げてくる。忘れかけていた何かが、またドクンドクンと騒ぎ出したような感覚になる。
 気がつくと俺は――

「助けよう!」

 龍二と見つめ合い、力強くうなずいていた。
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