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第6話 勇者な本能
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教室を出た俺たちの前方には、薄汚れた緑色の怪物――ゴブリンがいた。
「ひどい……」
「な、なんやねんあいつ」
俺は止まれと言う意味を込めて、二人に手を伸ばした。
血だらけの包丁を手にするゴブリンは、泣き叫ぶ女子生徒の髪を引きずりながらこちらに向かってくる。引きずられた女子生徒が通った廊下には、ナメクジが移動したような血の跡がべっとりと続いていた。
「ゴブゥゴブゥウウウウッ―――!」
こちらに気づいたゴブリンはかなり興奮している様子で、唾を撒き散らしながら威嚇を繰り返す。
「だずぅ、げぇでぇ……ゔぅっ―――あああああああああああああああああ」
ゴブリンはまるで俺たちを脅迫するように、女子生徒の腹に包丁を突き刺した。何度も何度も振り下ろすたび、女子生徒の体からは夥しい量の血液が溢れ出る。
「ひっ、ひど過ぎるよ」
「もうやめろやァッ―――」
「――よせっ!」
怒りに我を忘れた本間が俺の制止を振り切り、ゴブリンへと突進していく。
しかしその直後、彼女の足が止まる。
「……あ゛ぁ゛ぁ゛、そんなっ、なんでぇ、なんでこんな酷いことができるんやぁあああっ」
本間はその場で泣き崩れてしまった。彼女の眼前には、切り離された女子生徒の頭部が転がっていた。
「本間さん、見ちゃダメだよ」
いのりは本間に駆け寄り、彼女を抱きしめた。その間も、ゴブリンは女子生徒の体を解体していた。
「……くっ」
ゴブリンは馬鹿だが間抜けじゃない。奴らは人間の弱さを理解している、とても狡猾な生き物だ。ゴブリンはいのりと本間の心をへし折るべく、あえて犯そうとしていた女子生徒を目の前で殺してみせた。女子生徒の首を切断したのも、それをこちらに投げたのも、すべては人間を効率よく狩るための手段。
今もああして女子生徒の体をバラしているのは、人間に恐怖心を植えつけるため。
いのりも本間もパシッブスキル恐怖耐性により、ある程度は恐怖心が緩和されているが、完全に恐怖心を取り除くことはできない。
現に抱き合う二人の身体は、小刻みに震えていた。
そんな二人に向かって、ゴブリンは女子生徒の臓物を投げつける。
血の海と化した廊下は、鉄の臭いと獣臭が混ざりあった、なんとも言い難い悪臭に包まれていく。
俺は久しぶりに胸くそ悪い気分に侵されていた。こんな気分になったのは、異世界でとある村を訪れた時以来だった。
あの日も今日みたく、俺の目の前で女の子がゴブリンに殺された。
殺された女の子の妹は今の本間のように泣き叫んでいた。俺は勇者なのに彼女を救えなかった自分自身を責めた。
その後、村を襲ったゴブリンをすべて倒した俺に、殺された女の子の妹が放った一言が今も忘れられない。
「助けてくれてありがとう、勇者様」
あれは本心だったのだろうか、それとも俺が勇者だったから、彼女は言わなければと思い、心にもない言葉を言ったのだろうか。今となっては分からないけど、思い出すと胸が痛い。
「誰も助けられないくせに、なにが勇者だよ……」
小さく抱き合う二人を見つめ、俺は痛いくらいに拳を握りしめた。
「――――っ!?」
刹那、ゴブリンがいのりと本間に向かって駆け出した。
「ゴブッゴブゥウウウ―――」
ゴブリンの手にはべっとり血のついた包丁が握りしめられている。
俺はすぐに逃げるよう二人に声をかけるが、泣きじゃくって動けない本間を庇うように、いのりは彼女の頭を胸に抱き寄せる。それから力強い眼差しで俺を見た。
「吉野は逃げてぇッ!」
「ホンマにごめんやで、須藤さん……」
自分を犠牲にしてでも友達を、俺を守ろうとしてくれるいのりの姿に、俺の中で忘れかけていた何かにバチッと火がついた。
全身にざわざわと鳥肌が立ち、俺は気がつくとゴブリンに指先を向けていた。
無意識に作り上げた指鉄砲でゴブリンに照準を合わせ、俺は息をするみたいにウォーターボールを放つ。
「――――」
指先から放たれた水の弾丸はゴブリンの頭部を一瞬で粉砕、跡形なく消し去っていく。
頭部を失ったゴブリンは彷徨うようにトテトテと減速、やがていのりたちの前で音を立てて崩れ落ちた。
「……よし、の?」
「――ひぃっ!? む、向井くん……す、すごすぎやろ」
俺は自分の指先を凝視する。
微かに水蒸気の上がる指先からは、わずかだが魔力の波動を感じる。
スキルを習得したことで、異世界同様イメージすることで魔法を発動することが可能となっていたようだ。
【レベルアップ――ステータスが上昇しました】
「……ん?」
眼前にステータス画面が浮かび上がる。
けれど今はそんなことはどうでもよくて、俺は流し目で確認することにした。
ムカイヨシノ 呪い
Level:2
HP:6/6 → 9/9
MP:00/00
腕力:1
耐久:1
俊敏:1 → 3
魔力:00 → 00
知識:00
S P:0 → 2
J P:0 → 1
職業:術士
スキル:肉体強化/水魔法
EXスキル:女神通信
腕力値と耐久値は相変わらず悲惨な状況のようだ。どのような基準でステータスが上昇するのか知りたいところだが、今は目の前の二人を優先する。
「大丈夫か、二人とも」
「ひどい……」
「な、なんやねんあいつ」
俺は止まれと言う意味を込めて、二人に手を伸ばした。
血だらけの包丁を手にするゴブリンは、泣き叫ぶ女子生徒の髪を引きずりながらこちらに向かってくる。引きずられた女子生徒が通った廊下には、ナメクジが移動したような血の跡がべっとりと続いていた。
「ゴブゥゴブゥウウウウッ―――!」
こちらに気づいたゴブリンはかなり興奮している様子で、唾を撒き散らしながら威嚇を繰り返す。
「だずぅ、げぇでぇ……ゔぅっ―――あああああああああああああああああ」
ゴブリンはまるで俺たちを脅迫するように、女子生徒の腹に包丁を突き刺した。何度も何度も振り下ろすたび、女子生徒の体からは夥しい量の血液が溢れ出る。
「ひっ、ひど過ぎるよ」
「もうやめろやァッ―――」
「――よせっ!」
怒りに我を忘れた本間が俺の制止を振り切り、ゴブリンへと突進していく。
しかしその直後、彼女の足が止まる。
「……あ゛ぁ゛ぁ゛、そんなっ、なんでぇ、なんでこんな酷いことができるんやぁあああっ」
本間はその場で泣き崩れてしまった。彼女の眼前には、切り離された女子生徒の頭部が転がっていた。
「本間さん、見ちゃダメだよ」
いのりは本間に駆け寄り、彼女を抱きしめた。その間も、ゴブリンは女子生徒の体を解体していた。
「……くっ」
ゴブリンは馬鹿だが間抜けじゃない。奴らは人間の弱さを理解している、とても狡猾な生き物だ。ゴブリンはいのりと本間の心をへし折るべく、あえて犯そうとしていた女子生徒を目の前で殺してみせた。女子生徒の首を切断したのも、それをこちらに投げたのも、すべては人間を効率よく狩るための手段。
今もああして女子生徒の体をバラしているのは、人間に恐怖心を植えつけるため。
いのりも本間もパシッブスキル恐怖耐性により、ある程度は恐怖心が緩和されているが、完全に恐怖心を取り除くことはできない。
現に抱き合う二人の身体は、小刻みに震えていた。
そんな二人に向かって、ゴブリンは女子生徒の臓物を投げつける。
血の海と化した廊下は、鉄の臭いと獣臭が混ざりあった、なんとも言い難い悪臭に包まれていく。
俺は久しぶりに胸くそ悪い気分に侵されていた。こんな気分になったのは、異世界でとある村を訪れた時以来だった。
あの日も今日みたく、俺の目の前で女の子がゴブリンに殺された。
殺された女の子の妹は今の本間のように泣き叫んでいた。俺は勇者なのに彼女を救えなかった自分自身を責めた。
その後、村を襲ったゴブリンをすべて倒した俺に、殺された女の子の妹が放った一言が今も忘れられない。
「助けてくれてありがとう、勇者様」
あれは本心だったのだろうか、それとも俺が勇者だったから、彼女は言わなければと思い、心にもない言葉を言ったのだろうか。今となっては分からないけど、思い出すと胸が痛い。
「誰も助けられないくせに、なにが勇者だよ……」
小さく抱き合う二人を見つめ、俺は痛いくらいに拳を握りしめた。
「――――っ!?」
刹那、ゴブリンがいのりと本間に向かって駆け出した。
「ゴブッゴブゥウウウ―――」
ゴブリンの手にはべっとり血のついた包丁が握りしめられている。
俺はすぐに逃げるよう二人に声をかけるが、泣きじゃくって動けない本間を庇うように、いのりは彼女の頭を胸に抱き寄せる。それから力強い眼差しで俺を見た。
「吉野は逃げてぇッ!」
「ホンマにごめんやで、須藤さん……」
自分を犠牲にしてでも友達を、俺を守ろうとしてくれるいのりの姿に、俺の中で忘れかけていた何かにバチッと火がついた。
全身にざわざわと鳥肌が立ち、俺は気がつくとゴブリンに指先を向けていた。
無意識に作り上げた指鉄砲でゴブリンに照準を合わせ、俺は息をするみたいにウォーターボールを放つ。
「――――」
指先から放たれた水の弾丸はゴブリンの頭部を一瞬で粉砕、跡形なく消し去っていく。
頭部を失ったゴブリンは彷徨うようにトテトテと減速、やがていのりたちの前で音を立てて崩れ落ちた。
「……よし、の?」
「――ひぃっ!? む、向井くん……す、すごすぎやろ」
俺は自分の指先を凝視する。
微かに水蒸気の上がる指先からは、わずかだが魔力の波動を感じる。
スキルを習得したことで、異世界同様イメージすることで魔法を発動することが可能となっていたようだ。
【レベルアップ――ステータスが上昇しました】
「……ん?」
眼前にステータス画面が浮かび上がる。
けれど今はそんなことはどうでもよくて、俺は流し目で確認することにした。
ムカイヨシノ 呪い
Level:2
HP:6/6 → 9/9
MP:00/00
腕力:1
耐久:1
俊敏:1 → 3
魔力:00 → 00
知識:00
S P:0 → 2
J P:0 → 1
職業:術士
スキル:肉体強化/水魔法
EXスキル:女神通信
腕力値と耐久値は相変わらず悲惨な状況のようだ。どのような基準でステータスが上昇するのか知りたいところだが、今は目の前の二人を優先する。
「大丈夫か、二人とも」
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