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階層
35 告白
しおりを挟む「なんなんですかここ。」
「まるで蟻の巣ですね。」
「ここ左に曲がってみますか?」
「ええ、」
カーペットが敷き詰められたいくつもの薄暗い通路が現れ、緊迫感を感じながらひたすらに進む。
階段を登ってから薄暗くなったせいか、柊さんがよりいっそうナーヴァスになっている。そして、自分はその姿を横目で定期的に確認するのであった。
「あの、」
「これどこまで続いているのですかね?」
「さぁ、」
さっきから口数が少なくなりずっと俯いている柊さん。
ただ、柊さんの目線が脇で抱える教祖の女の見開いた目を見つめていることに気がつき顔がこわばる自分。
しかし、何一つとして罪悪感を感じてはいなかった。
むしろ、これからどうなるのかという期待に胸を膨らませているような心情であった。
「一つ聞いていいですか?」
「ええ、」
「自分達が初めて会った部屋で、父親と喧嘩したのが原因で階層ゲームに参加したって言ってましたよね。」
「ええ、」
「それってどういう理由で喧嘩したのですか?」
「あー、そういえばそんな話しましたね。」
「理由がそんなに聞きたいのですか?」
「はい、少し気になって。」
「まぁ、いいですよ。今更隠す必要もないですし。」
そう言って教祖の女の口を開いたり閉じたりしながら遊ぶ柊さん。
「巫結芽と私は高校から仲が良かったんです。」
「家族と言っても過言ではないくらい。」
「ただ、彼女との間には一つ問題がありました。」
「問題?」
「ええ、彼女の父親はろくに働かず、生活保護を受けていたんです。」
「ただ、生活保護で得たお金をほとんどパチンコや薬物で使い、ゆめちゃんは食事すらろくに与えてもらえなかったんです。」
「というか元々、彼女は養子で、幼い頃にとある夫婦に引き取られたんです。」
「しかし、引き取られて数年で養母が亡くなってしまい、そのショックでキチガイになった養父が高校までゆめちゃんに付き纏ったんです。」
「それを知った私の父親が同情心から高校三年間、彼女を金銭的にも精神的にも支援しました。」
「ほぼ毎日と言っていいほどゆめちゃんは父子家庭の私の家に通って、当時は家族同然の存在でした。」
「そう、姉妹のように毎日同じ食卓を囲んでいました。」
「ただ、高校を卒業してからすぐに彼女は姿を消したのです。」
「当時ずば抜けて頭は良かったのですが、昨日まで特待生で大学に行っていたなんて知る由もありませんでした。」
「しかし、当時の私は三年間も養って貰っておいて連絡一つなく消え去るのは許せませんでした。」
「どうやっても鬱憤が抑えられずにいたんです。」
「そして、その怒りの矛先を動物へと向けてしまい、父に隠して屠殺業でアルバイトをしながら狩猟免許を取りました。」
「それからというもの、私はあらゆる近接格闘術を身につけ、素手でイノシシや鹿、猿や熊などを狩り続けました。」
「そこまでは良かったんですが、、、」
「ただ、二ヶ月前事件は起こったんです。」
「それは、父親が大事な研究で家に居ない時でした。」
「深夜の二時に突然インターホンが鳴ったんです。」
「恐る恐る近づくとインターホンの画面にはフードを被った男が挙動不審な様子で立っていました。」
「私は迷うことなく、自分のコレクションである数十ものナイフから最も切れ味の良いものを手に取り玄関へと向かいました。」
「距離を保ちながらゆっくりと扉を開けると、なんとそこには巫結芽の養父が立っていたのです。」
「薬物のせいか、細く痩せ細り、顔色は悪くげっそりとして、大きな隈を作っていました。」
「私は驚きのあまり声が出ませんでした。」
「これは絶好の機会ではないかと。」
「ずっと前から動物だけでは物足りなかったのです。」
「私の洗練された技を人に試したかったのです。」
「ただ、理由もなしに人に襲いかかるのは法律のせいで諦めざる得なかった。」
「しかし、その時の現状は正当防衛だと言い切れるシチュエーションであり、絶好のチャンスでもあったのです。」
「喜びのあまり、微笑みながら出迎えると、玄関で突然、養父は泣き出しました。」
小さな口を一所懸命動かして、当時の鮮明な記憶を深刻そうに語る柊さん。
「その時私は全く理解でき無かったんです。」
「なぜ、ゆめちゃんの養父が泣いているのか。」
「私は彼をリビングへと招き入れました。」
「彼は何度も何度もお辞儀をして、その姿はひどく行儀が良いのです。」
「高校時代、彼は私の父親にも私にも無愛想で娘に関わるなと怒鳴りつけて来たこともあったからです。」
「そんな豹変した彼の態度に私は異常なほどの憤りを覚えました。」
「しかし、彼がなぜ私の家を訪ねて来たのか聞くまでは、溢れかえりそうな怒りをなんとか耐え忍び冷静を装いました。」
そう話していると、突然声のトーンを変えてじっと目を見つめくる柊さん。
「ねぇ、佐海くん。彼が何のために私の家にやって来たのかわかる?」
「え、分からないです。」
「いいから、自分が思ったように答えて。」
「えっと、お金に困ったから?」
タレ目の彼女は小さな口をほんの少し開けてこう答える。
「いいえ、違うわ。」
「彼はこう言ったの、、、」
それからニヤリと口角を上げて口を開く。
「君のことが好きだって。」
「???」
「え、?それどういう意味、?」
「そのままの意味よ。」
「彼、六年の間に娘のゆめちゃんのことも、娘の親友の私のこともすっかり忘れていたの。」
「それで私、知らない人のふりして聞いたんだ、なぜこの家に住んでるのが分かったのかって。」
「そしたら自信満々にこう答えたわ。」
「私がバイトから帰宅する姿を見つけて、毎日つけてたって。」
「私のことを一目惚れして、やっと会えたから嬉しくて泣いたんだって。」
「その時確信したの。」
「この人は生かしておいてはいけない人なんだって。」
「功治くん。社会にはさ、生かしておいても害しか齎さない雑菌がいるんだよ。」
「そういう人たちはさ、魂が穢れてるから天へと還して浄化して貰わなきゃいけない。」
「だから私、殺したんだ。」
「巫結芽の"父親"を。」
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