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階層
21 透明の液体
しおりを挟む自分が見てきた世界とはかけ離れた世界。
人を人だと認めない世界。
有象無象の一人として扱われ、他者から認識さえされない世界。
高校時代から、そんな世界が怖くて、自分は社会に必要な存在なのだと証明するため、愛想を振り撒き、媚を売って偽善者を装った。
本心では、他人と接することを好むどころか、嫌悪までも感じている。
外面の性格は、 意識領域でありいくらでも取り繕えるが、内面の性格、いわば無意識領域はふとした時に現れるため、改善の余地はない。
だから、大学を卒業した今もなお就職することなくフリーターとなり、他者となるべく関わらないようにしてきた。
そんな中、唯一心を開く事ができる人がいた。
その人は、頭の回転が早く物事の本質をすぐに見抜く。
だから、嘘をついてもすぐに勘づかれた。
それに、その人の前だけは自分を装う事なく自然にいる事ができた。
そんな、自分が最も信頼していた人が非現実的な空間の中に、非現実的な組織の一員として自分を見下ろしている。
とても裏切られたような感情になり、驚きよりも失望を覚えた。
「佐海くん、君の心は清純?」
「え、?」
「君はまだ自分自身を見つけられていないようだね。」
「安心して、あなたがここを出る時、あなたは自らの邪気を消滅させる。」
「そして、悟りを開き開眼戦士としてその命を燃やすの」
「何、?」
「開眼戦士?」
「もう、嫌だ階層ゲームに参加してからおかしな事ばかりなんだ」
「もういい、頼むから家に帰らせてくれ」
「それは駄目」
「は、?」
「残念だけど家にはまだ帰らせない。」
「あなたにはやるべき使命がある。」
「それを果たすまでは今までの日常には戻れないわけ」
「そんなの監禁じゃないか、どういうつもりなんだよ」
「そう慌てないで。」
「あなたは見失ってるだけ。」
「私達ガベラは人々が見失った物を取り戻すための手助けをする組織。」
ガベラとはなんだ。
やはり、ここは階層ゲーム本会場ではないのか。
そんなことより嫌な予感がする。ここから早く出ないと。
「もういい、宮木さん。」
「今解放するなら警察にも通報しないから」
「警察?」
宮木さんの目と声が変わった。
「だから見失うんだろ」
「いつまで経っても人に頼ってばかりいるから悟りが開けないんだろ」
「いい加減気づけよ戯けが」
「え、」
自分がなぜ責められているのか、一体何を見失ったというのか理解ができない。
「聖水を使え」
「え、何?聖水?」
大男が自分の背後に周り凄い力で腕を押さえる。
そして、隣にいた前髪の長い女がスーツケースから透明の液体の入った瓶を取り出す。
「放せ、触るな」
「なんだよそれ」
「おい、まさか」
前髪の長い女が透明の液体を注射器に移していく。
「これを打てば、一定時間お前はイデアへと引きずり込まれる。」
「そこで自分の存在について再認識しろ。」
「ちょっと待て、話をしよう」
「分かった、分かったから」
自分の言葉を聞き入れることなく、血管目掛けて針を突き刺す。
「がぁ、ああああ」
痺れるような痛みが腕に走る。
「ぐぁ、痛え」
「なんだ、これは」
「何を打った!」
「心配することはない。」
「神によって与えられた貴重な葉っぱだ」
「嘘だろ、そんな」
「今日はもう遅い少し休め。」
「明日の朝、教祖様による集会を行う。」
「おい、今は何日の何時なんだ、?」
「まだそれを知る必要はない。」
「時は自己に焦りを生み、自己革命を遅らせる。」
「くそが、」
駄目だ、頭がふわふわする。
眠気がなくなり心拍数が上がっている。
間違いなくさっきの液体は薬物だ。
蛍光灯の光が眩しくて目がまともに開かなくなってきた。
「一つ言っておきたい。」
大男の声であろう低い声が聞こえた。
「あの時はいい判断だった」
「まさか、お前が最高クラスのDNAの持ち主だったとはな」
「これは鍛えがいがありそうだ。」
「じゃあな、田中くん」
エレベータの金属音と共に低い笑い声が聞こえる。
「くそ、二度とその名で呼ぶな!」
興奮して、今にも暴れ出しそうな体を抑える。
それから数分間耐えたが、我慢できずアスファルトの部屋の中を一人暴れ回った。
「ちょっと、」
「ちょっと!」
「落ち着いて!」
意識が朦朧とする。
体感四時間ほど一人で暴れ回っていたからか、体が鉛のように重く、呼吸が上手くできない。
「あなた、大丈夫?」
「今、水入れてくるから」
手洗いに付属で付いている、金属のコップに水を汲んできた20代くらいのショートカットの女が自分を心配そうに見つめている。
「あ、ありがと」
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