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階層ゲーム

18 ビギニング3rd

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 自分が寝ている時に、配布されたのであろう一枚のプリントと赤いシールを巫さんから渡された。
「あ、一応言っておくとルール2までは終わらせておきました。」


      ビギニング3rd

1. ペアで協力して推理問題を作りましょう。
配布したペン、紙、バインダーを使ってください。
一枚の紙に問題を書き、もう一枚の紙に解答を書いてください。
問題は一問とします。
(作成制限時間は三十分です。)

2. 作り終えたペアは、後方に座る階層ゲームスタッフに許可をもらいに行き、許可が出れば赤いシールを胸の位置に貼ってください。
また、窓に貼付している数字が各ペアの番号です。

3. 三十分経過した時点で、赤いシールを貼っていないペアは失格とみなし、一人につき -10000スクイードずつ減点します。

4. この推理対戦はトーナメント制です。
また、スクイードが関係します。
どちらのペアが迅速に答えを導き出したかで勝敗が決まります。
回答する際は必ず手を挙げてから小声で回答してください。回答回数は一回です。
どちらのペアの挙手が早かったか、階層ゲームスタッフがジャッジします。

回答が同時でどちらも正解していた場合、その対戦は引き分けとします。

また、回答用紙は相手チームに見せないでください。見せた場合は失格とします。

相手のペアの推理問題に正解→win
相手のペアの推理問題に不正解→lose

   win  +2000スクイード
   lose  -1000スクイード
引き分けの場合はどちらのペアもwin扱い。

5. このバスには2チーム合わせて24ペア存在します。
この対戦で、チームは関係ありません。
どのペア同士でも対戦することができます。
ただし、一度対戦したペアとは対戦することができません。
対戦ペアは階層ゲームスタッフが調整します。
二回戦以降生存ペア数が奇数となった場合、3ペアで回して対戦を行なってもらうことがあります。
3ペアのうち2ペアが一度対戦済みの場合は、1ペアの問題を2ペアが解き、1ペアは2ペアのうち、どちらか一方を選んで問題を解きます。その中で一番早く回答したペアが勝利です。
そして、一度対戦したペアが残った場合、試合は引き分け終了となります。

6. 二回戦以降参加できないペア(負けたペア)は後方の座席に移動してもらいます。
移動の際は通路の混雑が予想されますので、指示を出された時だけ移動するようにしてください。
このバスの奇数の座席は、座席の向きを前後で変えることができます。
現在、自分が座っている座席番号が奇数の場合、座席を後ろ向きになるよう動かしてもらいます。
そうすることで、対戦ペアと向き合った状態で対戦することが可能になります。
一回戦目は、奇数が座席を動かし、向き合ったペアと対戦していただきます。
二回戦目以降は、座席はそのままで指示された座席へと移動していただきます。
また、解答制限時間は五分です。

7. この対戦で一番多くスクイードを獲得したペアは優勝報酬10000スクイードを授与します。

※補足※
スクイードがマイナスになった場合、それは各個人の借金となります。

ビギニング3rdでのルールはここまでです。

(バス車内での階層ゲームはd→s→q→oの組み合わせで進みます。d=ペア
特に、qが肝要。)


 今まで体験したことのない程頭が冴え、脳がじわじわと熱くなるのを感じる。
周りの声が脳神経に直接届くように聞こえ、視野が広くなったように感じる。
全ての事象を瞬時に理解することが出来る。
なんだ、この今まで味わった事のない戦意と気勢が湧き上がる感覚は。

「巫さん、理解しました。」
「どうやら、効いているようですね。」
「ええ、最高です」
「対戦中、私は傍観者になりますので、好きなように行動してください。」
「任せてください。」
「脳内シュミレーションは完了しました。」
「流石です、功治くん」
「あ、そういえば巫さんの作った問題は後でじっくり解きたいので今はまだ見ないようにします。」
「そうですか、分かりました!」

「それでは今から3rdを開始します。」
突然話し出すバスガイド。とうとう時間が来たようだ。
「全員、赤いシールを胸元に貼ってください。」
「階層ゲームスタッフが確認に参ります。」
黒いスーツに黒いネクタイをした階層ゲームスタッフが、何か書き留めながらこちらに向かってくる。それからしばらくして、またもやバスガイドが話し始めた。
「確認は完了しました。」
「見事、全員の胸元に赤シールが貼られていましたので、3rdでの失格者はゼロです。」
「それでは、窓に貼付されている番号が奇数のペアは、通路側に設置されている金具を引きながら座席を後方に押してください。」
自分の右側にある窓には19と表示されている。
金具を引きながら座席を後方に向けた。
なるほど、女子高生にプリントを回した時から違和感があった、この前席との異様な広さは、後席と向き合った状態にするためだったのか。
「それでは準備が整いましたので、3rdを開始いたします。」
「各ペアの問題用紙を対戦ペアに渡して、解答用紙はペアのどちらかが所持してください。」
「それではビギニング3rd開始です。」

「とうとう始まりましたね。功治くん頑張ってくださいよ!」
「はい、すぐ終わらせます。」
「あの、すごい気力ですね。」
女子高生が気を遣って話しかけてきた。
今のすこぶる覚醒している自分には分かる。
どうやら、女子高生は怯えているようだ。
あの様子からすると、さっき隠し持っていたスマホを脅しに使われ、答えを教えるよう脅迫してくるのではないかと考えているのだろう。
それもいいが、自分にはこの対戦での計画がある。
それに、この女子高生が作った問題など、今の自分には30秒もかからないだろう。
安心してくれという気持ちを込めてにっこり微笑んで見せると、面食らった表情を浮かべ、口角だけを上げて見せた。
「さてお手並み拝見しますか」

〈ペア番号20〉
:問題:
高校生の武くん、蓮くん、美咲さん、の三人の誰かが、近所の小学生海くんを殺しました。
それを占い師と探偵が事情聴取しています。

探偵:「誰が海くんを殺したんだ?」

蓮:「美咲さんが、金槌で海くんの頭割って殺してるの見たよ。」

武:「あ、思い出した!」

美咲:「そういえば、」

その後、武くんと美咲さんもある発言をしました。
探偵:「全員言ってることが違うぞ」

そうすると、占い師が占いを始めました。

占い師:「どうやらこの中に嘘をついている者が二人、真実を言っている者が一人いるようだね。」

占い師:「それに、真実を言っている者が犯人だね。」

さて、犯人は武くん、蓮くん、美咲さんのうち誰でしょう。

:問題終了:

「なるほど、こういう感じか」
「どうして?」
「もしかして、もう解けたの?」
「解けたよ。」
「まだ読み始めて十秒も経っていないのに、」
「君の方はどうだい?」
「何この問題全く分からないわ」
「流石、巫さん」
「後で解くのが楽しみだなー」
「あ、自分まだ答え聞いてないから分かったら巫さんに判定してもらってね!」
「分かるわけないでしょ、こんなムズイ問題」
「ギブだったら言ってね。」
「なんで?」
「あなた、私の問題分かったのなら早く挙手して答えればいいじゃない。」
「いやいや、君を待ってるんだよ。」
「なぜ?」
女子高生の隣に座るフードを被った男は死んだように爆睡している。
「いや、少し事情があってね」
「事情って何よ、答えなさいよ」
「まぁ、後で説明するよ。」
「とにかく、自分が望んでいることは、この対戦を引き分けにすること」
「そして、第二回戦以降も君を勝たせ続け、引き分けで君と自分のペアが優勝すること」
「なんで、そんなこと」
「だから、理由は後で説明するって言ったろ」
「そんな怪しい条件鵜呑みに出来ないわ」
「あんた、何か企んでるでしょ」
「いやいや、企んでなんかないよ」
「ただ、優しさで言ってるだけ」
「嘘ばっかり」
「本当は答えも分かってないんじゃないの?」
「分かってるよ、海くんを殺したのは武くんだろ?」
「あんなの簡単だよ、占い師が最後に言った一言で犯人特定だよ。」
「え、今答えた、」
「大丈夫、まだ挙手してないから、解答したことにはなってない。」
「でも、そんな陰謀に私は絶対手を貸さないわ」
「私、本当にお金が必要なの」
「だから、階層ゲームでは安全な選択を選び300万を手に入れる。」
「だから、今ここでバカな真似して失格したくはないの」
「おっと、そうか」
「そうくるか」
「よし、じゃ魔法の三文字」
「ス・マ・ホ」
「え、」
「私は何をすればいい?」
口角だけが上がった張り付いた笑顔でこちらを見てくる。
「そうこなくっちゃ」
「今から巫さんが君に答えを教え、自分と君は同じ速度で挙手をする。」
「そして同じタイミングで答えを言えば引き分けになる。」
「え、ちょっと待って。」
「答え教えたら失格じゃ」
「そんなことどこに書いてた?」
「解答用紙を対戦ペアに見せれば失格だが、口で教えても失格にはならない。」
「え、そうなの」
「そうだよ」
「あ、そう、それで続きなんだけど」
「第二回戦以降の対戦全ての問題を自分のところに持ってきて欲しい。」
「その持ってきた問題全て自分が解いて、答え教えるからその答えを相手ペアより早く答えて」
「OK?」
「持って行くって、私たち二回戦以降は席離れるでしょ?」
「うん、離れるね」
「もしかして、相手の問題用紙持ってバス車内を立ち歩くの?」
「そうそう、そういうこと!」
「そういうことじゃないわよ」
「そんなの失格になるじゃない」
「失格になる?」
「どこに書いてた?」
「いや、書いてはないけど普通そうじゃない」
「いやいや、ルールに失格対象と書いてないならそれは手段の一つだよ」
「とにかく、今言ったことを絶対守って分かった?」
「え、んー」
「ス・マ」「分かったわよ!」
「よし、じゃ決まりで」
「巫さん、この子に答え教えてあげてください」
「分かりました。功治くん」
それにしても、頭が冴える。気分が向上して興奮が止まらない。
凄いなあの立方体。いや、こんな能力を秘めていた自分が凄いのか。思わずニヤついてしまった。
巫さん、答え言い合う時、自分の耳押さえてもらっていいですか。自分答え聞こえたら嫌なんで。
「よし、じゃ解答し合うか」
「じゃ、せーので手挙げるよ」
「せーの」
女子高生と自分の手が同じタイミングで上がっていく。
「よし、じゃ、せーの」
巫さんに耳を塞がれていたため声が一致していたかは分からないが、口の動きからして同時であったと思う。

それに続いて巫さんと女子高生が発した。

「正解!」「正解!」
そうすると、隣にいた階層ゲームスタッフが話し始めた。
「No.19、No.20の対戦は引き分けとする。」
「よって、両ペアの各個人に+2000スクイード」
女子高生は、本心から笑みを浮かべているように見えた。




















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