階層

海豹

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階層ゲーム

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 嫌な予感がする。巫さんの言っていることは意味不明だが、少し思い当たることもある。
確かに、自分は中学時代の記憶というものを思い出すことができない。それを詮索したこともなければ、思い出そうと頭を捻ったこともない。
ただ、その記憶を思い出すことに、全身の強い拒絶を感じる。
もっと言うと、そのことについて考えるだけでも、気分が悪くなる。
二人の間に不穏な空気が流れる中、バスガイドが話し始めた。

「それでは三十分経過いたしましたので1st &2ndを終了とします。」
「今から30分間休憩です。その後3rdを開始いたします。」

重いまぶたを持ち上げる気力も無く、目を閉じた。そして、脳が現実逃避しようと睡魔を放つ。駄目だ今寝たら。

広大な大地、雲一つない晴天に遠くを眺めると地平線が微かに見える。
どこまでも続く野原、暖かくて心地よい颯々たる風の音。
ほのかな甘い匂い。
この匂いどこかで嗅いだことがある。
いや、高校時代日常的に嗅いでいたような。
そうだ思い出した。金木犀。そう、あの特徴的な甘い匂い間違いない。
でも、高校時代どこで嗅いでいただろうか。思い出せない。
それにしても、ここはどこだ。凄く心が朗らかになる。体の芯から温まっていくこの感じ。
自分は死んだのか。本当に天国のような場所だ。
なんだあれは?遠くの方に動くものが見える。
そして、その動くものに、引き寄せられるように近づいて行く。
あれは、犬?いや、違う。何かの動物だろうが、それが何か無性に気になる。
あれは、、狐か、
どうやら、数匹の狐が遊んでいるようだ。
近くで見たくて、少しずつ近づいて行く。
すると、足元に白くて美しいマーガレットの花が境界線のように横一直線に咲き誇っているのだ。
だが、ここをまたがなければ狐のところへは行けない。
恐る恐る足を上げ、マーガレットの向こう側の地へと足を下ろした。
その瞬間、暖かくて幻想的な野原が一瞬にして、冷たい寒冷地へと変わった。吹雪が吹き荒れる。凍えるほど寒く、吐く息が白く変化する。
周りには無数のソーラーライトのようなものが地に突き刺さっている。
何が起こったのか理解できず、狼狽えながら雪に埋まった重い足を引き上げる。
ふと、横を見ると数匹の狐は姿を消しており、子狐が一匹こちらを眺めている。
ただ、その子狐は、野原で群れていた狐と違い赤い目をしている。そして、自分をその目で凝視してくる。
何故かわからないが自分はその狐に興味を持ってしまっていた。いや、惹かれていたと言ったほうがいいのかもしれない。
ただ、その狐の首には金属のようなものが取り付けられている。それが何か気になり、少しずつ距離を縮める。
一瞬首輪かと思ったが、そんな優しいものではなかった。赤いランプが首の装置から点滅している。
まさか、もう一度周りのソーラーライトのようなものを確認する。
やはり、それはソーラーライトではなく赤外線を放つセンサーであった。そして、狐の首に装着されているものは、小型爆弾に違いない。子狐がある一定の範囲から逃げようとすると作動するよう設定されているのだろう。
でも、誰がこんなことをするのか疑問に思い、辺りを見渡すが誰もいない。
そうしていると、子狐が動き出した。
なぜか、子狐について行くことが最善の選択だと思い、自分も後をつけた。
少し歩くと、洞窟のようなものが見えてきた。
中から、とてつもない閃光を発しており思わず目を伏せた。
洞窟の中には、狐の心臓であろうものが装飾され、ぎっしりと壁側を埋め尽くし、灯籠と行灯が等間隔で並んでいる。
あまりに不快で、引き返そうと思ったその時、前を歩いていた子狐がこちらを振り返りまたもや、じっと自分を見つめてくる。
その目からは何とも言えない哀れみを感じた。そして、自分は後に引けなくなってしまい、再び後をつけた。
そうして、歩いていると辺りが暗く変化し、蛍光している鍾乳洞がいくつも連なっている神秘的な空間が現れた。
歩くたびに、地に被さる浅い水面が波紋を広げている。
それをぬけると、薄暗い空間に石でできた鳥居が現れ、その奥に、二重螺旋構造の形をした光る物体が宙を浮いている。
鳥居をくぐり光る物体へと近づく。
子狐は光る物体の前まで行き、自分を見つめた。
その物体は、多彩な色で構成された粒子のようなものが入り乱れ、形や色を変化させている。
その物体に少しずつ手を伸ばした。
そうすると、子狐は少し微笑んだように首を傾げる。
光る物体の粒子が自分の手の細胞に侵食していくのがわかる。そして、その粒子は体全体へと分離し移動する。何ひとつとして痛みはなく、むしろ心地よい。
体が冷たい水に溶け込んでいくような、融合していくような感覚。
目を開けるとそこは一面真っ白な無音の空間。全身が痺れるような感覚を覚える。

その瞬間、懐かしい声が背後から聞こえた。











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