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階層ゲーム前
8 謎、怪しき女
しおりを挟むさっきから一つ気になっていることがある。この喫茶店は自分が入った時から客の変化がない。誰一人として来店しなければ誰一人として退店しない。唯一外へ出たのは店を出て行ったきり返ってこない女店員だけだ。
さらに、公園に向かう時から感じていた喫茶店の窓際から感じる気配。自分の第六感が疼いている。身体中に神経を巡らせ振り返った。
その瞬間 ゴゴォーーーン パチン
鼓膜を突き刺さすような大きな雷が落ち喫茶店内が一瞬にして暗闇へと変わった。
暗くて前が良く見えないが、藤森の焦る声が聞こえる。
「店長!」「店長!」
「しっかりしろ」
どうやら、店長が倒れたらしい。藤森が必死で叫んでいる。
「救急車を頼む」
スマホを出そうと探していると、手から滑りカウンターの下に入り込んでしまった。体勢を低くしてスマホを掴むと、停電していた電気が戻った。強い光で視界がぼやける。視力が次第に戻っていき、はっきりと店内を見渡せるようになった。
「あれ、客がいない、」
停電前まで満員近くいた客が誰一人として姿が見えなくなっていた。超常現象を信じたことはないが、その時だけは信じざるをえなかった。まさか、近くにいた藤森と倒れた店長までいなくなるとは。その時またしても妙な視線を窓のあたりから感じた。恐る恐る振り返るが誰もいない。
時計を見ると、午後七時四十分。とにかくこの店から出よう。
誰もいない静まり返った店から外に出ようと試みたその時。女の高い笑い声が聞こえた。声のする方に視線を向けると、土砂降りの雨でずぶ濡れになった女店員と、宮木友恵が口を大きく開け白い歯を見せながら目を見開き、窓の外から笑っている。
「え、」
「宮木さん、?」
いや、そんなはずはない。確か宮木友恵はこの時間バイト先にいるはず。しかし、何度見ても宮木友恵にしか見えない。それにしてもおかしい、なぜずっと笑ってるんだ。それに、隣の女店員の形相が明らかに狂っており、頬を大きく擦りむき、制服は泥まみれになっていた。何かの間違いかと思い、一度下を見た。もう一度慎重に顔を上げるとそこには誰の姿も見えなかった。
「なんだったんだ、今のは、」
静寂に包まれた喫茶店に数分間突っ立っていたが、ようやく我に帰り店を出た。
傘を持ってきていなかったので喫茶店に置いてあった他人の傘を使って雨を凌ぎ駅へと向かった。階層ゲームの会場へ行く前に、集合場所でスマホや財布などの私物は回収されるらしい。ただ、本とサバイバルナイフだけは会場で返される。
もうすぐ始まろうとしている階層ゲームとさっきまでの怪奇な事象に緊張と興奮が入り乱れ呼吸と心拍数が早くなるのを感じた。
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