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墓地
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アスターの街に、弔いの鐘が響き渡った。男は一回、女は二回。少し遅れて、死者の年齢分だけ鳴らされる。殺人事件の噂はもう出回っているから、これから弔われる死者がラクストだと気づく者もいるだろう。
新たな穴が掘られたせいで、墓場は土の臭いを濃くしていた。
棺桶に、持ち手代りの棒が三本括りつけられていた。左右に分かれた男たちが棒をかつぎ、棺桶を運んでくる。
アシェルは、墓穴から少し離れた場所でその様子を見ていた。喪服でなくても制服姿なので、近くに行っても失礼にはあたらないのだが、こういった場合、ある程度遠くから全体を見た方が色々と気づくことがある。
フェリカは両手で顔を隠してうつむき、レリーザがそれを慰めている。ファーラの言う通り、その悲しみは演技には見えなかった。
ラクストの知り合いは本当に少なかったようで、来ている者といえば彼女たちとディウィンだけだ。
墓穴の横に棺が置かれる。棒が外され、縄で墓穴に下ろされる。最後にその縄も取り除かれ、神父の祈りとともに少しずつ土がかけられて行く。これで、ラクストは永遠に土の中の住民となった。
埋葬に立ち会う人に遠慮するようにして、少し離れた場所に見慣れない老人が立っているのにアシェルは気がついた。シワだらけの顔からして、かなり歳はいっているようだが、そのわりには体が頑丈そうで、腰も曲がっていない。そして喪服ではなく濃い茶色のローブを着ている。そして薬草や薬品を扱っている証拠の、黒っぽく変色した指先。
(あの老人も錬金術師? ラクストの関係者か?)
埋葬が終わったのを見計らって、アシェルは老人に近づいていった。
アシェルの姿に気がつくと、老人は重ねた年月で少し曇った金色の目を細めた。
「ああ、ストレングス部隊の方。来ると思っていましたよ。私はザナと申します」
少し異国風の名前だ。
「『来ると思っていた』とは、どういう?」
職業がら、犯した悪事がばれることを予想していたのかと勘繰ってしまう。
「なんでも、ラクスト君は殺されたそうではないですか、労(いたわ)しい。そういうことなら、私にもストレングス部隊の方が話を聞きに来るかと思いまして」
自分が疑われているのではないかという怯えや不快感のない、穏やかな声だった。
「それで、ラクストとはどういった関係で?」
「そうですね、一般的には『私の弟子です』と言って良いでしょう。私は少し錬金術について知っていることがあるのですよ。もっとも、私が彼に教えられることも多かったですけど」
「教えられること?」
「いえ、知識は私の方がありました。しかし、熱意や夢を見る心。そういったものを、改めて彼に教えられたものです」
「ああ、そういう……悪いですが、当日のことやラクストの生前の関係など、話を聞かせてもらえますか」
「ええ、構いませんよ。よければ私のよりあばら家にいらっしゃいませんか」
一瞬、アシェルは戸惑った。犯人が自分を探りに来た隊員をこっそり始末、という話を聞いたことがないわけではない。できるかぎり、こう言った誘いには乗らない方が無難だ。だが、どうしても話を聞く必要がある。
それに何より、錬金術師の家というのに興味があった。
「ええ、そうさせてもらいます」
アシェルは微笑んでみせた。
新たな穴が掘られたせいで、墓場は土の臭いを濃くしていた。
棺桶に、持ち手代りの棒が三本括りつけられていた。左右に分かれた男たちが棒をかつぎ、棺桶を運んでくる。
アシェルは、墓穴から少し離れた場所でその様子を見ていた。喪服でなくても制服姿なので、近くに行っても失礼にはあたらないのだが、こういった場合、ある程度遠くから全体を見た方が色々と気づくことがある。
フェリカは両手で顔を隠してうつむき、レリーザがそれを慰めている。ファーラの言う通り、その悲しみは演技には見えなかった。
ラクストの知り合いは本当に少なかったようで、来ている者といえば彼女たちとディウィンだけだ。
墓穴の横に棺が置かれる。棒が外され、縄で墓穴に下ろされる。最後にその縄も取り除かれ、神父の祈りとともに少しずつ土がかけられて行く。これで、ラクストは永遠に土の中の住民となった。
埋葬に立ち会う人に遠慮するようにして、少し離れた場所に見慣れない老人が立っているのにアシェルは気がついた。シワだらけの顔からして、かなり歳はいっているようだが、そのわりには体が頑丈そうで、腰も曲がっていない。そして喪服ではなく濃い茶色のローブを着ている。そして薬草や薬品を扱っている証拠の、黒っぽく変色した指先。
(あの老人も錬金術師? ラクストの関係者か?)
埋葬が終わったのを見計らって、アシェルは老人に近づいていった。
アシェルの姿に気がつくと、老人は重ねた年月で少し曇った金色の目を細めた。
「ああ、ストレングス部隊の方。来ると思っていましたよ。私はザナと申します」
少し異国風の名前だ。
「『来ると思っていた』とは、どういう?」
職業がら、犯した悪事がばれることを予想していたのかと勘繰ってしまう。
「なんでも、ラクスト君は殺されたそうではないですか、労(いたわ)しい。そういうことなら、私にもストレングス部隊の方が話を聞きに来るかと思いまして」
自分が疑われているのではないかという怯えや不快感のない、穏やかな声だった。
「それで、ラクストとはどういった関係で?」
「そうですね、一般的には『私の弟子です』と言って良いでしょう。私は少し錬金術について知っていることがあるのですよ。もっとも、私が彼に教えられることも多かったですけど」
「教えられること?」
「いえ、知識は私の方がありました。しかし、熱意や夢を見る心。そういったものを、改めて彼に教えられたものです」
「ああ、そういう……悪いですが、当日のことやラクストの生前の関係など、話を聞かせてもらえますか」
「ええ、構いませんよ。よければ私のよりあばら家にいらっしゃいませんか」
一瞬、アシェルは戸惑った。犯人が自分を探りに来た隊員をこっそり始末、という話を聞いたことがないわけではない。できるかぎり、こう言った誘いには乗らない方が無難だ。だが、どうしても話を聞く必要がある。
それに何より、錬金術師の家というのに興味があった。
「ええ、そうさせてもらいます」
アシェルは微笑んでみせた。
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