こちらアスター街ストレングス部隊~錬金術師殺人事件~

三塚 章

文字の大きさ
上 下
12 / 34

墓地

しおりを挟む
 アスターの街に、弔いの鐘が響き渡った。男は一回、女は二回。少し遅れて、死者の年齢分だけ鳴らされる。殺人事件の噂はもう出回っているから、これから弔われる死者がラクストだと気づく者もいるだろう。
 新たな穴が掘られたせいで、墓場は土の臭いを濃くしていた。
 棺桶に、持ち手代りの棒が三本括りつけられていた。左右に分かれた男たちが棒をかつぎ、棺桶を運んでくる。
 アシェルは、墓穴から少し離れた場所でその様子を見ていた。喪服でなくても制服姿なので、近くに行っても失礼にはあたらないのだが、こういった場合、ある程度遠くから全体を見た方が色々と気づくことがある。
 フェリカは両手で顔を隠してうつむき、レリーザがそれを慰めている。ファーラの言う通り、その悲しみは演技には見えなかった。
 ラクストの知り合いは本当に少なかったようで、来ている者といえば彼女たちとディウィンだけだ。
 墓穴の横に棺が置かれる。棒が外され、縄で墓穴に下ろされる。最後にその縄も取り除かれ、神父の祈りとともに少しずつ土がかけられて行く。これで、ラクストは永遠に土の中の住民となった。
 埋葬に立ち会う人に遠慮するようにして、少し離れた場所に見慣れない老人が立っているのにアシェルは気がついた。シワだらけの顔からして、かなり歳はいっているようだが、そのわりには体が頑丈そうで、腰も曲がっていない。そして喪服ではなく濃い茶色のローブを着ている。そして薬草や薬品を扱っている証拠の、黒っぽく変色した指先。
(あの老人も錬金術師? ラクストの関係者か?)
 埋葬が終わったのを見計らって、アシェルは老人に近づいていった。
 アシェルの姿に気がつくと、老人は重ねた年月で少し曇った金色の目を細めた。
「ああ、ストレングス部隊の方。来ると思っていましたよ。私はザナと申します」
 少し異国風の名前だ。
「『来ると思っていた』とは、どういう?」
 職業がら、犯した悪事がばれることを予想していたのかと勘繰ってしまう。
「なんでも、ラクスト君は殺されたそうではないですか、労(いたわ)しい。そういうことなら、私にもストレングス部隊の方が話を聞きに来るかと思いまして」
 自分が疑われているのではないかという怯えや不快感のない、穏やかな声だった。
「それで、ラクストとはどういった関係で?」
「そうですね、一般的には『私の弟子です』と言って良いでしょう。私は少し錬金術について知っていることがあるのですよ。もっとも、私が彼に教えられることも多かったですけど」
「教えられること?」
「いえ、知識は私の方がありました。しかし、熱意や夢を見る心。そういったものを、改めて彼に教えられたものです」
「ああ、そういう……悪いですが、当日のことやラクストの生前の関係など、話を聞かせてもらえますか」
「ええ、構いませんよ。よければ私のよりあばら家にいらっしゃいませんか」
 一瞬、アシェルは戸惑った。犯人が自分を探りに来た隊員をこっそり始末、という話を聞いたことがないわけではない。できるかぎり、こう言った誘いには乗らない方が無難だ。だが、どうしても話を聞く必要がある。
 それに何より、錬金術師の家というのに興味があった。
「ええ、そうさせてもらいます」
 アシェルは微笑んでみせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

我らアスター街ストレングス部隊~日常編~

三塚 章
ファンタジー
アスター街の治安を護る、ストレングス部隊のグダグダの一日。一話完結が何編かあります。 長編はこちら↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/423043246/763597692

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

ミミサキ市の誘拐犯

三石成
ファンタジー
ユージは本庁捜査一課に所属する刑事だ。キャリア組の中では珍しい、貧しい母子家庭で育った倹約家である。 彼はある日「ミミサキ市の誘拐犯」という特殊な誘拐事件の存在を知る。その誘拐事件は九年前から毎年起こり、毎回一〇〇〇万イェロの身代金を奪われながら、犯人の逃亡を許し続けていた。加えて誘拐されていた子供は必ず無傷で帰ってくる。 多額の金が奪われていることに憤りを感じたユージは、一〇年目の事件解決を目指し、単身ミミサキ市へ向かう。ミミサキ市はリゾート地化が進んだ海沿いの田舎だ。 彼はそこでノラという一五歳の少女と出会って相棒となり、二人で事件の捜査を進めていくことになる。 ブロマンス要素あり、現実に近い異世界での刑事モノファンタジー。 表紙イラスト:斧田藤也様(@SERAUQS)

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキル【レベル転生】でダンジョン無双

世界るい
ファンタジー
 六年前、突如、異世界から魔王が来訪した。「暇だから我を愉しませろ」そう言って、地球上のありとあらゆる場所にダンジョンを作り、モンスターを放った。  そんな世界で十八歳となった獅堂辰巳は、ダンジョンに潜る者、ダンジョンモーラーとしての第一歩を踏み出し、ステータスを獲得する。だが、ステータスは最低値だし、パーティーを組むと経験値を獲得できない。スキルは【レベル転生】という特殊スキルが一つあるだけで、それもレベル100にならないと使えないときた。  そんな絶望的な状況下で、最弱のソロモーラーとしてダンジョンに挑み、天才的な戦闘センスを磨き続けるも、攻略は遅々として進まない。それでも諦めずチュートリアルダンジョンを攻略していたある日、一人の女性と出逢う。その運命的な出逢いによって辰巳のモーラー人生は一変していくのだが……それは本編で。 小説家になろう、カクヨムにて同時掲載 カクヨム ジャンル別ランキング【日間2位】【週間2位】 なろう ジャンル別ランキング【日間6位】【週間7位】

処理中です...