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おぼろ豆腐料理店 28
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「どうした、まさかお父上が……」
可奈は首を振った。
「お父さんはまだ平気よ。久命屋さんが捕まったって聞いて……薬は偽物だったのでしょう?」
可奈は薄い唇を噛み締めた。
「あの薬だけを希望にしていたのに、もうどうしていいか……」
「あ、ああ、そういうことか」
小宮は思わず笑みを浮かべた。
どうやら、久命屋が捕まり、売っていた薬が偽物だとの情報は流れていても、木瀬見が本物の薬を作り出したという情報はまだ届いていないらしい。
もっとも、木瀬見が落ち着いて薬を売れるようになるにはまだ準備が必要だ。その間小宮達がべらべらと話さない限り、本物の薬の情報が流れるのは売り出されてから後のことになるだろう。
「そのことなら心配いらないよ、本当に効く薬の作り方が見つかったんだ」
何を言われたのかわからないように、可奈は目を見開き小宮を見つめた。
「本当だよ! まだ色々準備中だから、出回るにはまだ時間がかかるけど……そう待たなくてもいいはずだ。だから……」
君が犠牲になる必要はない、と言い掛け、慌てて小宮は口をつぐんだ。加奈が考えていた事は、本人から直接に知らされた事ではない。黙っていた方がいいだろう。
可奈は、子供のように顔をくしゃくしゃにして泣きだした。
(少しは、役に立てたかな)
木瀬見を救ったことで、加奈を救った形になったのなら嬉しいのだが。
「ねえ」
ふいに小宮はおもしろい事を思いついた。
「お父さんが元気になったらさ、その時はまたツチノコでも探しにいこうか」
あまりに突飛な誘いだったのか、可奈は目をまるくした。
しばらくそのまま固まっていたが、そのうちフフッと笑い声をたてた。
「昔、あれだけ探したのに見つからなかったじゃないですか」
「分からないよ、いるかも知れないよ、ツチノコ!」
(だって、この町には結構たくさん妖怪がいるって分かったからね)
小宮は心の中で呟いた。
「そうですね、きっと楽しいと思います」
ほんの冗談で言ってみただけの提案が受け入れられて、言った小宮本人がちょっと驚いてしまった。
「見つかっても、見つからなくても、どっちでもいいんです。小宮様と一緒に歩けるだけでも」
二人は目を合わせ、なんとなく微笑みを浮かべた。
今度、二人で河原をてくてくと歩こう。もちろん、シンがいる柳川原でなくて、他の所を。そこにもいるかも知れない妖怪に邪魔されないように気を付けながら。
可奈は首を振った。
「お父さんはまだ平気よ。久命屋さんが捕まったって聞いて……薬は偽物だったのでしょう?」
可奈は薄い唇を噛み締めた。
「あの薬だけを希望にしていたのに、もうどうしていいか……」
「あ、ああ、そういうことか」
小宮は思わず笑みを浮かべた。
どうやら、久命屋が捕まり、売っていた薬が偽物だとの情報は流れていても、木瀬見が本物の薬を作り出したという情報はまだ届いていないらしい。
もっとも、木瀬見が落ち着いて薬を売れるようになるにはまだ準備が必要だ。その間小宮達がべらべらと話さない限り、本物の薬の情報が流れるのは売り出されてから後のことになるだろう。
「そのことなら心配いらないよ、本当に効く薬の作り方が見つかったんだ」
何を言われたのかわからないように、可奈は目を見開き小宮を見つめた。
「本当だよ! まだ色々準備中だから、出回るにはまだ時間がかかるけど……そう待たなくてもいいはずだ。だから……」
君が犠牲になる必要はない、と言い掛け、慌てて小宮は口をつぐんだ。加奈が考えていた事は、本人から直接に知らされた事ではない。黙っていた方がいいだろう。
可奈は、子供のように顔をくしゃくしゃにして泣きだした。
(少しは、役に立てたかな)
木瀬見を救ったことで、加奈を救った形になったのなら嬉しいのだが。
「ねえ」
ふいに小宮はおもしろい事を思いついた。
「お父さんが元気になったらさ、その時はまたツチノコでも探しにいこうか」
あまりに突飛な誘いだったのか、可奈は目をまるくした。
しばらくそのまま固まっていたが、そのうちフフッと笑い声をたてた。
「昔、あれだけ探したのに見つからなかったじゃないですか」
「分からないよ、いるかも知れないよ、ツチノコ!」
(だって、この町には結構たくさん妖怪がいるって分かったからね)
小宮は心の中で呟いた。
「そうですね、きっと楽しいと思います」
ほんの冗談で言ってみただけの提案が受け入れられて、言った小宮本人がちょっと驚いてしまった。
「見つかっても、見つからなくても、どっちでもいいんです。小宮様と一緒に歩けるだけでも」
二人は目を合わせ、なんとなく微笑みを浮かべた。
今度、二人で河原をてくてくと歩こう。もちろん、シンがいる柳川原でなくて、他の所を。そこにもいるかも知れない妖怪に邪魔されないように気を付けながら。
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