14 / 28
おぼろ豆腐料理店 14
しおりを挟む
怒っていない証拠に、その手に捕まって立ち上がろうとした小宮は、青白い手をつかむことができずにまた転がった。
またシンが笑い声を立てる。
よく見ると、シンの姿は幽霊のように透けていた。そして青年の足元にさっきの貝が落ちている。
どうやら、この貝がシンの本体らしい。
さすがに頭にきて、小宮はしゃがみこんで貝を怒鳴りつけた
「おまえ、いい加減にしろ!」
「まあまあ」
いつきが宥める仕草をした。
「蜃気楼っていうのは知ってるだろう?」
いつきが言った。
「あの、海に幻の建物とか景色とかが見えるって言う……」
「そう。それは蜃(シン)っていう怪(かい)が見せている幻影さ。蜃が吐く気で見える楼閣(ろうかく)だから蜃気楼」
「俺達の先祖は本来海に住んでたはずなんだがな。どこをどう渡ってきたものか、この千代藩で産湯をつかって以来、ずっと千代藩ずまいよ」
「は~」
まさかこんな妖怪が近所に住みついているなんて。案外、いや確実に妖怪というのは近くにいるのだろう。自分達が見ていないだけで。
「そうだ、いつき。今朝は大変だったな」
シンの表情が今までのふざけたものから心配そうなものになった。
「斬られた野郎は大丈夫だったか」
「ああ、一応。死んではいないがまだ目を覚まさない。そこでだ、シン。あいつを襲った奴に心当りはないかい」
「襲った奴って、こいつのことかい」
染料が水ににじんだように、青年の姿が滲んで崩れていた。そしてまたはっきりとした姿で現れたのは、赤い着物をだらしなく着たゴロツキだった。
「あ、そいつ! そいつだよあの人を襲ったのは!」
小宮の反応が面白かったのか、シンは軽い笑い声をたてた。
「あいつは確か樹一(じゅいち)と言ったかな。最近この辺りで見かけるようになったゴロツキだ。取り立てからゆすりからロクなことをしていないみてえだ。さすがにねぐらまでは分からねえがな」
本人そっくりの姿でそんな事を語られると、なんだか変な感じがした。
そしてさすがに声だけは変えられないらしく、むさくるしい男が明るいさわやかな口調で話すのが少しおもしろかった。
「そうそう、最近は久命屋(くめや)とつるんでいるみたいだ」
「え? 薬屋の?」
確か、唯一餓鬼病の薬を売って大儲けしている所だ。そこで可奈も父親の薬を買っているはずだ。可奈の事を思い出して、小宮は少し胸が痛んだ。
またシンが笑い声を立てる。
よく見ると、シンの姿は幽霊のように透けていた。そして青年の足元にさっきの貝が落ちている。
どうやら、この貝がシンの本体らしい。
さすがに頭にきて、小宮はしゃがみこんで貝を怒鳴りつけた
「おまえ、いい加減にしろ!」
「まあまあ」
いつきが宥める仕草をした。
「蜃気楼っていうのは知ってるだろう?」
いつきが言った。
「あの、海に幻の建物とか景色とかが見えるって言う……」
「そう。それは蜃(シン)っていう怪(かい)が見せている幻影さ。蜃が吐く気で見える楼閣(ろうかく)だから蜃気楼」
「俺達の先祖は本来海に住んでたはずなんだがな。どこをどう渡ってきたものか、この千代藩で産湯をつかって以来、ずっと千代藩ずまいよ」
「は~」
まさかこんな妖怪が近所に住みついているなんて。案外、いや確実に妖怪というのは近くにいるのだろう。自分達が見ていないだけで。
「そうだ、いつき。今朝は大変だったな」
シンの表情が今までのふざけたものから心配そうなものになった。
「斬られた野郎は大丈夫だったか」
「ああ、一応。死んではいないがまだ目を覚まさない。そこでだ、シン。あいつを襲った奴に心当りはないかい」
「襲った奴って、こいつのことかい」
染料が水ににじんだように、青年の姿が滲んで崩れていた。そしてまたはっきりとした姿で現れたのは、赤い着物をだらしなく着たゴロツキだった。
「あ、そいつ! そいつだよあの人を襲ったのは!」
小宮の反応が面白かったのか、シンは軽い笑い声をたてた。
「あいつは確か樹一(じゅいち)と言ったかな。最近この辺りで見かけるようになったゴロツキだ。取り立てからゆすりからロクなことをしていないみてえだ。さすがにねぐらまでは分からねえがな」
本人そっくりの姿でそんな事を語られると、なんだか変な感じがした。
そしてさすがに声だけは変えられないらしく、むさくるしい男が明るいさわやかな口調で話すのが少しおもしろかった。
「そうそう、最近は久命屋(くめや)とつるんでいるみたいだ」
「え? 薬屋の?」
確か、唯一餓鬼病の薬を売って大儲けしている所だ。そこで可奈も父親の薬を買っているはずだ。可奈の事を思い出して、小宮は少し胸が痛んだ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?
行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。
貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。
元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。
これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。
※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑)
※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。
※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる