おぼろ豆腐料理店

三塚 章

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おぼろ豆腐料理店 9

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「あーあ、見られちゃったかー」
 言葉のわりに、焦っているともまずいとも思っていないような、棒読み気味の口調だった。
「良吉は、豆腐小僧なんだよ。だから、何もない所から豆腐を出すことができるんだ」
「豆腐小僧って……あの、道行く人に豆腐を見せてくるって……?」
 話には聞いたことがあったが、そんな妖怪が本当にいるなんて。でも、目の前で見た以上信じざるを得ないわけで。
 いや、でも、それより何より大切なことは。
「それはともかく……まず先に、便所貸してくれないか」
「ああ、あっち」
 いつきが指差した方向に、小宮は早足でむかっていった。

 怪我人の眠りを覚まさせないように、隣の部屋で小宮といつきと良吉の三人は話し合っていた。
「驚かしてごめんなさい。まさか小宮さんが見ていたとは思わなかったから」
 良吉はしょんぼりしながら言った。
「いいや、こっちこそ勝手にのぞいたりして」
 慌てて小宮は謝った。
「ひょっとして、ここの豆腐はみんな良吉くんが作ってるの?」
「はい! 安心してください、僕が出した物ですが、ちゃんと食べられる普通の豆腐です!」
「なんせ、豆腐分の材料費が浮くからな。冷奴なんか醤油代だけであとは丸儲けだ」
 いつきがめずらしくにやりと笑った。
「この商売を考えてくれたのはいつきさんなんですよ! 僕が材料の調達と接客と帳簿つけをして、松さんが料理して……」
「ん? それっていつきさんは何もしてないってこと?」
 小宮の言葉に、いつきは無駄に胸を張った。
「否定はしない!」
「あらあら、いいのかしら、正体をばらしちまって?」
 怪我人の寝ている部屋から、艶っぽい女性の声がした。小宮が外にいる間、誰か女の人が、二階に上がっていたのだろうか?
「いいんだよ。多勢に無勢の中人を助けようとする奴が悪人なわけないだろう」
 いつきがその声に応える。
 鮮やかな着物を着た、美しい女性がふすまを開けてこちらへやってきた。
「え……!」
 驚きのあまり、小宮は思わず腰を浮かせた。
その女性の顔は、床の間で見た掛け軸の美女と瓜二つ。
 開いたふすまの隙間から掛け軸をのぞき見る。月の下に描かれているはずの美女の姿が消えていた。
 美女は小宮に向き直ると、にっこり微笑んだ。
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