おぼろ豆腐料理店

三塚 章

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おぼろ豆腐料理店 4

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 赤い着物の、頭(かしら)格の男が、刀を振った。銀光が、女性の右肩から左の脇腹にかけて走った。女は声もなく地面に倒れた。
 走りながら、小宮は息を?んだ。頭にカッと血が昇るようだった。
「結(ゆい)!」
 夫が悲痛な声をあげ、倒れた妻を抱きかかえる。
「お前達、なにやってんだ!」
 小宮はようやく旅人のもとへたどり着いた。
柳川と呼ばれるこの川の土手には、柳が等間隔に並んでいる。他に邪魔になるものはなく、刃を交える広さは充分にある。
 男達が小宮を取り囲んだ。酒の臭いと体臭に小宮は顔をしかめた。
 背の高い男が、斬りかかってきた。その長ドスを刀で振り払う。
「この小宮、武士の端くれとして刀の扱い方は知っているぞ!」
 お互いにすきを探り、じりじりと立ち位置を変えていく。
 小宮は唾(つば)を飲み込んだ。この状態で、下手に誰かに斬りかかったら、背後からか真横からか、捌(さば)きにくい所から斬りかかられるだろう。
とにかく、残った男だけでも守らなければ。小宮は少しずつ旅人に近づいていく。
 不意に、赤い着物の男が動いた。剣先は、夫の方に向けられていた。
「この野郎!」
 敵の切っ先と、旅人の体の隙間に、刀を差し入れる。耳の奥に響く音を立て、凶刃は逸らされた。だが完全に刀を払うことはできず、旅人の背に傷がついた。
「がっ……」
 声をあげ、旅人は妻の上に倒れ伏した。幸い、まだ生きているらしく荒い息をしている。
 気を取られた小宮の死角から、太った男が斬りかかろうとした。
「あだ!」
 間抜けな声を上げ、太った男はのけぞる。そいつの丸い額にぶつかった茶碗が、草の上で割れた。
 そのスキを逃さず、樽のような腹に峰打を喰らわせる。
 見れば、いつきが橋のたもとにしゃがみこみ、欄干の影に隠れている。もちろん体はかなりはみ出ているが。その横には開けられた木箱。
「できる限りの助太刀ありがとう!」
 言いながら、背の高い男に斬りかかる。
腕を叩かれ、敵は刀を落とす。
「ねえ!」
 いつきが橋から悪人達に語りかけた。
「なんで二人を殺したいのかどうか知らないけど、ここまで来たらもう目的を達成できないと思うよ。いったんあきらめたら?」
 餓鬼病のせいで皆外に出るのを控えているとはいえ、人がいないわけではない。騒ぎを聞きつけた人々が遠巻きに様子をうかがい始めた。
「クッ!」
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