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凛音(りんね)と詩虞羅(しぐら )二
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「ですから、神の消滅に気がついて、心配でその場所に向かおうとしていたんです。そこで凛音様に会ったわけなんですけど…… もしよろしければ、何があったか話してくれませんか。祓いとしてはあなたの先輩です。なにかお役にたてるかもしれない」
「安心しろ。信頼できる男だ。つかみ所のない奴だが」
凛音という女性が口を添えた。
湯呑みを置いて、鹿子は静かに語りだした。
「ある巫女が、神を斬ったんです。生まれたばかりの和神を。それが、私のせいだと誤解されちゃって」
詩虞羅は顔色を変えた。
「神を? では、朱様がおっしゃった事は本当だったのですね。なんて恐ろしいことを。その巫女とは一体誰です?」
「それは…… 柚木様です」
詩虞羅は息を飲んだ。凍えているように指先が細かく震えていた。詩虞羅は鹿子よりも世代的に柚木に近い。鹿子達よりも顔を合わせる機会も多かったはずだ。驚かないはずはない。
「あ、あの人のことは、よく知っています。もう、この世にはいらっしゃらないと思っていました。信じられない」
「でも、柚木様は。私のこの傷も、柚木、ゆずきさま、に」
鹿子は深い呼吸を繰り返す。気を緩めると泣いてしまいそうだった。
詩虞羅はしばらく黙り込んでいたが、やがて鹿子を安心させるように微笑みを浮かべた。
「優しい人でした。きっと、なにか理由があったのだと思います」
「は、はい。きっと、そう……」
鹿子の言葉が擦れて消える。鹿子は涙で歪んだ顔を両手で覆い隠した。嗚咽が漏れる。抑えようとしても、肩が小さく震えだす。震えは少しずつ大きくなっていった。
「大変でしたね」
詩虞羅の言葉にうなずく。まるで子供のように、声をあげて鹿子は泣いた。初対面の者の前で恥ずかしいと思ったが、一度流れ始めた涙は止めることはできなかった。傷が痛かった。
「大体のことはわかりました。さあ、もう少し眠ったほうがいい」
詩虞羅は、幼い娘にするように鹿子の頭を軽くなでる。
泣き止むのを待って、詩虞羅は鹿子を横たわらせた。
「凛音さん、看病をお願いします」
「わかった」
傷ついた巫女がゆっくり休めるように衝立てを広げると、元従者は陣の外へと出て行った。
「安心しろ。信頼できる男だ。つかみ所のない奴だが」
凛音という女性が口を添えた。
湯呑みを置いて、鹿子は静かに語りだした。
「ある巫女が、神を斬ったんです。生まれたばかりの和神を。それが、私のせいだと誤解されちゃって」
詩虞羅は顔色を変えた。
「神を? では、朱様がおっしゃった事は本当だったのですね。なんて恐ろしいことを。その巫女とは一体誰です?」
「それは…… 柚木様です」
詩虞羅は息を飲んだ。凍えているように指先が細かく震えていた。詩虞羅は鹿子よりも世代的に柚木に近い。鹿子達よりも顔を合わせる機会も多かったはずだ。驚かないはずはない。
「あ、あの人のことは、よく知っています。もう、この世にはいらっしゃらないと思っていました。信じられない」
「でも、柚木様は。私のこの傷も、柚木、ゆずきさま、に」
鹿子は深い呼吸を繰り返す。気を緩めると泣いてしまいそうだった。
詩虞羅はしばらく黙り込んでいたが、やがて鹿子を安心させるように微笑みを浮かべた。
「優しい人でした。きっと、なにか理由があったのだと思います」
「は、はい。きっと、そう……」
鹿子の言葉が擦れて消える。鹿子は涙で歪んだ顔を両手で覆い隠した。嗚咽が漏れる。抑えようとしても、肩が小さく震えだす。震えは少しずつ大きくなっていった。
「大変でしたね」
詩虞羅の言葉にうなずく。まるで子供のように、声をあげて鹿子は泣いた。初対面の者の前で恥ずかしいと思ったが、一度流れ始めた涙は止めることはできなかった。傷が痛かった。
「大体のことはわかりました。さあ、もう少し眠ったほうがいい」
詩虞羅は、幼い娘にするように鹿子の頭を軽くなでる。
泣き止むのを待って、詩虞羅は鹿子を横たわらせた。
「凛音さん、看病をお願いします」
「わかった」
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