5 / 6
俺の嫁が実体化した結果 5
しおりを挟む
ラキアータは俺の額に手を伸ばした。髪をかきあげる指の細さに、俺の心臓が高鳴った。
さっき降ってきた石に打たれた傷を調べてくれているのだろう。血が出てきていないから、あざにはなっているだろうが、切れてはいないようだった。
「バカが。戦闘能力皆無のクセに私などをかばうからだ」
言った内容のわりには口調がやさしい。
「さっきも、私が出てきた紙を守ろうとしてくれただろう?」
「ああ、まあ」
答えながら、俺は目を瞬かせた。なんだか、ラキアータの姿が薄く見えるのは気のせいだろうか? 貧血で視界がかすむほど血は出ていないはずだけど……
「ありがとう、時彦」
ラキアータは俺から手を放した。また微笑んだ。涙をためて。
「おい、なんで泣いてるんだよ」
「もうすぐ、お別れだ」
「それって一体どういう……」
俺の足が震えた。なんで? なんでだ? せっかく変な魔物を倒したのに。せっかくこの騒動で、ラキアータとちょっと仲良くなれたような気がしたのに。そもそも、俺達は出会ったばっかだぞ? ろくに話もしてないのに、お別れなんて早すぎるだろ!
ひょっとして、守り切ったと思ったけれど、紙に傷でもついたのだろうか? 慌てて広げて確認してみるが、なにも異常はない。
「ここだ」
ラキアータは俺の手から紙を取ると裏返した。そして、裏に書かれた設定の一文を指差す。『自分より戦闘が強い奴が好き』
「これが、どうかしたんだよ!」
頭の中がカッと熱くなって、目の前がくらくらする感じだった。
「私は、この設定に反してしまった」
ラキアータの頬に朱が差した。ぱたぱたと落ち着かなくシッポが上下している。
「いや、だから一体何が言いたいんだよ、なんでラキアータが消えるんだ?」
「私は、お前のキャラクターとして生み出された」
少しずつラキアータの姿が薄くなっている。ここまできたらもう俺の見間違いなんかじゃない。
「だから、この設定こそが私のすべて。ここに書かれていることと、私の存在はイコールで結ばれているんだ。だから、この設定に違反してしまったら、もう私は私ではいられなくなる」
言われてみれば当然の事だった。俺は、ラキアータがこういう性格だと『決めた』。
仮に彼女が紙の裏に書いた性格でなくなってしまったら、俺の想像と違う行動を取ったらそれはもう俺の考えたラキアータではなくなってしまう。
こう言えばわかりやすいだろうか。自分のオリキャラを他人がマンガなり小説なりにしたとき、そのキャラが自分のイメージと違う行動をしたら『誰だお前? こんなの俺のキャラじゃない』ってなるだろ? ラキアータは、それを自分自身でやってしまったんだ。
「お前はどう考えても私より戦闘は弱いのにな」
「え……それってどういう……」
その項目に外れてしまった。それってつまり……
今はもう、見間違いとは思えないほどはっきりと、ラキアータの姿は薄くなっていた。
「じゃあな、時彦」
まるで手に取った雪が消えてなくなるように、ラキアータの輪郭がぼやけ、溶けて行った。
さっき降ってきた石に打たれた傷を調べてくれているのだろう。血が出てきていないから、あざにはなっているだろうが、切れてはいないようだった。
「バカが。戦闘能力皆無のクセに私などをかばうからだ」
言った内容のわりには口調がやさしい。
「さっきも、私が出てきた紙を守ろうとしてくれただろう?」
「ああ、まあ」
答えながら、俺は目を瞬かせた。なんだか、ラキアータの姿が薄く見えるのは気のせいだろうか? 貧血で視界がかすむほど血は出ていないはずだけど……
「ありがとう、時彦」
ラキアータは俺から手を放した。また微笑んだ。涙をためて。
「おい、なんで泣いてるんだよ」
「もうすぐ、お別れだ」
「それって一体どういう……」
俺の足が震えた。なんで? なんでだ? せっかく変な魔物を倒したのに。せっかくこの騒動で、ラキアータとちょっと仲良くなれたような気がしたのに。そもそも、俺達は出会ったばっかだぞ? ろくに話もしてないのに、お別れなんて早すぎるだろ!
ひょっとして、守り切ったと思ったけれど、紙に傷でもついたのだろうか? 慌てて広げて確認してみるが、なにも異常はない。
「ここだ」
ラキアータは俺の手から紙を取ると裏返した。そして、裏に書かれた設定の一文を指差す。『自分より戦闘が強い奴が好き』
「これが、どうかしたんだよ!」
頭の中がカッと熱くなって、目の前がくらくらする感じだった。
「私は、この設定に反してしまった」
ラキアータの頬に朱が差した。ぱたぱたと落ち着かなくシッポが上下している。
「いや、だから一体何が言いたいんだよ、なんでラキアータが消えるんだ?」
「私は、お前のキャラクターとして生み出された」
少しずつラキアータの姿が薄くなっている。ここまできたらもう俺の見間違いなんかじゃない。
「だから、この設定こそが私のすべて。ここに書かれていることと、私の存在はイコールで結ばれているんだ。だから、この設定に違反してしまったら、もう私は私ではいられなくなる」
言われてみれば当然の事だった。俺は、ラキアータがこういう性格だと『決めた』。
仮に彼女が紙の裏に書いた性格でなくなってしまったら、俺の想像と違う行動を取ったらそれはもう俺の考えたラキアータではなくなってしまう。
こう言えばわかりやすいだろうか。自分のオリキャラを他人がマンガなり小説なりにしたとき、そのキャラが自分のイメージと違う行動をしたら『誰だお前? こんなの俺のキャラじゃない』ってなるだろ? ラキアータは、それを自分自身でやってしまったんだ。
「お前はどう考えても私より戦闘は弱いのにな」
「え……それってどういう……」
その項目に外れてしまった。それってつまり……
今はもう、見間違いとは思えないほどはっきりと、ラキアータの姿は薄くなっていた。
「じゃあな、時彦」
まるで手に取った雪が消えてなくなるように、ラキアータの輪郭がぼやけ、溶けて行った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

俺の娘、チョロインじゃん!
ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ?
乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……?
男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?
アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね?
ざまぁされること必至じゃね?
でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん!
「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」
余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた!
え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ!
【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

異世界探偵はステータスオープンで謎を解く
花野りら
ファンタジー
ごめんなさいっ。何かのバグで死んでもないのに、剣と魔法の異世界ファンタジーに飛ばされちゃいましたね。でも魔王を倒すことができれば、生き返ることができますから安心してください。あら、前世で探偵をしていたようですね。スキル『サーチ』ができるようになりましたよ。『サーチ』は自分のみならずあらゆる万物のステータスをオープンすることができる能力です。探偵さんにぴったりのスキルですね。おお、さらに前世では日頃からジムに通ったりあらゆる武道の鍛錬をしていたようですね。おめでとうございます。レベルは95からスタートです。わぁ、最近飛んでいった日本人の中ではトップクラスに強いですよ。これは期待できそう! じゃあ、みんなで仲良く魔王を倒してくださいね。それではいくがいい〜! こうして主人公・和泉秋斗は、飛ばされた異世界でも探偵として活躍することになった! 狂気的な異世界で起きるあらゆる謎を解明する鮮やかな論理は、果たしてシリアス展開なのか、それともギャグなのか? 異世界ものの常識を覆すファンタジーXミステリ長篇
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

半神の守護者
ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。
超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。
〜概要〜
臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。
実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。
そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。
■注記
本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。
他サイトにも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる