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俺の嫁が実体化した結果 2
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夜だというのに近所迷惑な犬が一つ吠えた。それを合図にしたように、俺の隣に寝ていた猫姿のラキアータがむくりと起き上がった。人の形に戻り、軍服を着る気配がする。
「動物虐待犯の退治に行くんだろ?」
まさか俺が起きているとは思わなかったのだろう。ラキアータの耳がぴこっと動いた。なんだか出し抜いたみたいで少し嬉しい。
「昼間はあんな事言ってたけど、自分に似た動物が殺されてるのに平気でいられるような薄情な女の子に作った覚えはないからな」
そう。俺はラキアータがそうするだろうというのが分かっていた。なんせ、彼女を作ったのは俺なのだから。ここで見捨てるようなら彼女ではない。
「偉そうな事を」
不機嫌そうな彼女に構わず、俺は外に出る準備を始めた。
「なんのつもりだ」
「俺もついていくよ。心配だし、もし猫の姿で逃げるハメになったら服を持っていく人間が必要だろ?」
ラキアータは、窓枠に片足をかけたまま、いかにもバカにしたように鼻を鳴らした。
「言っておくが、お前に危険が及んでも、私は助けんぞ」
たぶん、これは本当だ。『自分の力をわきまえない奴が大嫌い』と設定にあるのだから。たぶん、ラキアータは俺が動物を切り刻む変質者に刺されても、「自分の力も見極められずに、危険に突っ込んだバカ」と冷ややかに笑うだけだろう。
「だって、ラキアータの戦う所、みたいじゃないか。大丈夫。足手まといにならないから。危なくなったらすぐに逃げるよ」
「ふん。勝手にしろ」
そう言うと、ラキアータは二階の窓から外の道路へ飛び降りた。おれは、少し迷った結果、こっそりと玄関から出ていくことにした。
ヒンヤリとした空気の中、ラキアータは迷うことのない足取りで進んでいく。歩くたび、白いしっぽがふりふりするのがかわいらしい。
「どこか、行くあてがあるのか?」
「わからないのか? どす黒い匂いがするのが」
「どす黒い匂い? そういえば、猫の方が人間よりも嗅覚がよかったん……」
ばきっと鈍い音を聞いた音がして、俺は口を閉ざした。ラキアータの耳もピクリと動く。
「こっちだ!」
ラキアータの後をついていってたどり着いたのは、空き地だった。腰の高さまである草の上に、何かが浮いている。一抱えもある、黒マリモのようなもの。
「こっちをむけ!」
ラキアータが腕を振るった。ヒュ、と鋭い口笛のような音が鳴る。速すぎてその先端は見えなかったものの、黒マリモが吹っ飛んだ所を見ると、攻撃はヒットしたらしい。
ふわり、とマリモがこっちを向いた。真ん中に血走っている大きな目がねっとりと光っる。
「な、な、な」
そして、俺は見つけた。マリモの下に、猫の死骸らしき物が横たわっていたのを。
「ま、まさか、こいつが夜な夜な動物を殺していたのか! てか、なんなんだこの凶暴な北海道阿寒湖(あかんこ)名物は!」
「知らん。私も見たことがない。こいつはこの世界の生き物か?」
「違う! こっちの世界のマリモはもっと緑でかわいらしい! だいたい、こんな下品な大きさじゃない!」
俺よりも危険な奴と見て取ったか、マリモが敵意に満ちた目でラキアータを睨みつける。
艶やかなラキアータの唇が吊り上る。
「喰らえ!」
鞭先が黒い嵐となって吹き荒れた。吹き飛ばされたマリモは、地面に叩きつけられる前にまた反対側へと吹き飛ばされる。打ち上げられ、落とされ、左右に振られ、最後に叩きつけられた。これがゲームだったら、ハデに何HIT!!と輝く文字が出るだろう。
ブシュウ、という音とともに、そのモンスターは消えうせた。まさにRPGでやられたモンスターのように。
「あんな生き物、この世界にはいないと言ったな」
完全にモンスターが消えるのを見守って、ラキアータが言った。
「ああ、そうだ!」
「そうか。では、私のようにこいつも絵だったのかも知れんな」
それはなかなかぞっとしない想像だった。こいつのもとが絵だというなら、そいつは当然ラキアータと同じように出来上がったのだろう。ということは、この街にこんな魔物を生み出した奴がいるという事だ。犬や猫を殺す魔物のことばかり考え、そいつが本当に現れることを望んでいた者が。マトモな人間じゃないように思えるのは俺だけか。
ラキアータは猫の死体に歩みよった。
「動物虐待犯の退治に行くんだろ?」
まさか俺が起きているとは思わなかったのだろう。ラキアータの耳がぴこっと動いた。なんだか出し抜いたみたいで少し嬉しい。
「昼間はあんな事言ってたけど、自分に似た動物が殺されてるのに平気でいられるような薄情な女の子に作った覚えはないからな」
そう。俺はラキアータがそうするだろうというのが分かっていた。なんせ、彼女を作ったのは俺なのだから。ここで見捨てるようなら彼女ではない。
「偉そうな事を」
不機嫌そうな彼女に構わず、俺は外に出る準備を始めた。
「なんのつもりだ」
「俺もついていくよ。心配だし、もし猫の姿で逃げるハメになったら服を持っていく人間が必要だろ?」
ラキアータは、窓枠に片足をかけたまま、いかにもバカにしたように鼻を鳴らした。
「言っておくが、お前に危険が及んでも、私は助けんぞ」
たぶん、これは本当だ。『自分の力をわきまえない奴が大嫌い』と設定にあるのだから。たぶん、ラキアータは俺が動物を切り刻む変質者に刺されても、「自分の力も見極められずに、危険に突っ込んだバカ」と冷ややかに笑うだけだろう。
「だって、ラキアータの戦う所、みたいじゃないか。大丈夫。足手まといにならないから。危なくなったらすぐに逃げるよ」
「ふん。勝手にしろ」
そう言うと、ラキアータは二階の窓から外の道路へ飛び降りた。おれは、少し迷った結果、こっそりと玄関から出ていくことにした。
ヒンヤリとした空気の中、ラキアータは迷うことのない足取りで進んでいく。歩くたび、白いしっぽがふりふりするのがかわいらしい。
「どこか、行くあてがあるのか?」
「わからないのか? どす黒い匂いがするのが」
「どす黒い匂い? そういえば、猫の方が人間よりも嗅覚がよかったん……」
ばきっと鈍い音を聞いた音がして、俺は口を閉ざした。ラキアータの耳もピクリと動く。
「こっちだ!」
ラキアータの後をついていってたどり着いたのは、空き地だった。腰の高さまである草の上に、何かが浮いている。一抱えもある、黒マリモのようなもの。
「こっちをむけ!」
ラキアータが腕を振るった。ヒュ、と鋭い口笛のような音が鳴る。速すぎてその先端は見えなかったものの、黒マリモが吹っ飛んだ所を見ると、攻撃はヒットしたらしい。
ふわり、とマリモがこっちを向いた。真ん中に血走っている大きな目がねっとりと光っる。
「な、な、な」
そして、俺は見つけた。マリモの下に、猫の死骸らしき物が横たわっていたのを。
「ま、まさか、こいつが夜な夜な動物を殺していたのか! てか、なんなんだこの凶暴な北海道阿寒湖(あかんこ)名物は!」
「知らん。私も見たことがない。こいつはこの世界の生き物か?」
「違う! こっちの世界のマリモはもっと緑でかわいらしい! だいたい、こんな下品な大きさじゃない!」
俺よりも危険な奴と見て取ったか、マリモが敵意に満ちた目でラキアータを睨みつける。
艶やかなラキアータの唇が吊り上る。
「喰らえ!」
鞭先が黒い嵐となって吹き荒れた。吹き飛ばされたマリモは、地面に叩きつけられる前にまた反対側へと吹き飛ばされる。打ち上げられ、落とされ、左右に振られ、最後に叩きつけられた。これがゲームだったら、ハデに何HIT!!と輝く文字が出るだろう。
ブシュウ、という音とともに、そのモンスターは消えうせた。まさにRPGでやられたモンスターのように。
「あんな生き物、この世界にはいないと言ったな」
完全にモンスターが消えるのを見守って、ラキアータが言った。
「ああ、そうだ!」
「そうか。では、私のようにこいつも絵だったのかも知れんな」
それはなかなかぞっとしない想像だった。こいつのもとが絵だというなら、そいつは当然ラキアータと同じように出来上がったのだろう。ということは、この街にこんな魔物を生み出した奴がいるという事だ。犬や猫を殺す魔物のことばかり考え、そいつが本当に現れることを望んでいた者が。マトモな人間じゃないように思えるのは俺だけか。
ラキアータは猫の死体に歩みよった。
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