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熱に浮かされるように

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 分厚い遮光カーテンが閉ざされていて、修の部屋は薄暗かった。我ながら光を嫌う魔物のようだと、修は座り直しながら少し笑う。
 押し入れの上下段を分ける仕切りをそのまま机替わりにし、修は作業を続けていた。
 スタンドの弱々しい光が手元を照らしている。その光の届かない畳のすみには、充電の切れたままのスマートフォンが転がっていた。何日か前、そのスマートフォンが震えていた気がするが、出る気はしなかった。
 静かに、薬品を小さなパックに詰めていく。
 体は確実に動いているのに、頭はひどくぼんやりしていた。
 なんだか、高熱があるときのように妙に現実感がない。半分幽体離脱でもしているようだ。
(なんで俺、こんなことをしてんだ?)
 その想いと裏腹に、体は勝手に動いていく。
 間違いなく成功するように。できる限り被害を大きくできるように。
(こんなの、ヤバいだろ……死人が出るぞ……しかもたくさん……)
 辞めたいのに、体が止まらない。もしかしたら、ゲームのキャラはこんな感じなのかもしれない。でなければ、操り人形。こっちの気持ちなんて関係なしに体が動き、話が進んでいく。
 でも、そのプレイヤーだか人形遣いだかが誰かは分かっている。
(あの女……あの女に会ってから俺はおかしくなったんだ)
 艶やかな唇が頭に浮かんだ。そして腰まである黒い髪。
『すみません。少し、気分が悪くなってしまって』
 気分が悪いと言っていたあの女性。
 手の甲の傷が、まだチクチクと痛む。
 そうだ。それから俺はおかしくなったんだ。
 ガシガシと髪を掻きむしる。
(けれど、そんなことはどうでもいい。早い所、これを終わらせないと)
 閉め切った部屋で作業をしているので、息苦しい。だが、もうすぐ終わる。そしたら嫌でも外にでなければならない。
(できあがったら、これをあの場所に置いておけばいい)
 それから、どうなるか? それは修には関係のないことだった。
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