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第八章 The Knight meet joker
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小さな鼻歌が聞こえ、和樹は目を覚ました。
(ああ、恐かった。サメに襲われる夢見ちまった……)
頭が痛いけど、あれは夢だ。服がずぶぬれだけど、あれは夢だ。足がちょっと痛いけれど、あれは夢だ。というか、夢であって欲しい。きっと、起き上がったら自分の部屋で、普通に羽原もカウンターで待っていて……
「て、そんな都合のいいこと起きるわけないか」
ゆっくりと体を起こす。頭が痛い。いつの間にかかけられていた毛布を体にしっかり巻きつけた。
「ああ、目が覚めたのね、誰かさん」
灰色メッシュのオレンジ髪というドハデな女性が、和樹をのぞきこんでいる。細身のズボンに黒いシャツ。それに、ジージャンという格好だ。
コンガといい今回といい、なんだか意識を取り戻すたびにどアップで女に顔を覗き込まれている気がする。得に嬉しいことではないけれど。
「あんたは…… たしか、出航前に俺の写真を撮りまくってた」
良くぞ訊いてくれました、というようにカメラを掲げて見せた。
「フリーのジャーナリストよ。名前はルリ。週刊誌に自分で調べた記事を売るの! トクダネもとめてどこへでも! 戦場から墓場まで!」
「微妙に狭いな守備範囲」
頭痛を気にしながらそっと体を起こす。ありがたいことに、縄もさるぐつわもキレイになくなっていた。
和樹がいたのはゴムボートの中だった。それもプールで使うようなチャチな物じゃない。ランプとテントまでついている頑丈な奴だ。中には撮影機材が詰まっているのだろう、銀色の大きなケースが乗っていた。
「すごいでしょう。救難用のボートにエンジンつけて改造したのよ」
得意そうにルリが船のヘリをポンポンと叩く。そのご自慢のエンジンは、今静かに止まっていた。
「それにしても、変わった趣味ね。サメの出る海域で泳ぐなんて。それとも、新しい自殺の仕方? お望みならまた海に叩き込んであけるけど」
「断固拒否する。あ、そうだ。そういえば、サメ!」
水面には、ミニチュアの宇宙船を思わせる銀色の流線型が、プカプカと浮かんでいた。ちょっと生臭い。
「これ…… ルリ、あんたが……」
「ううん、私がやったんじゃないわ。ここ通りかかったらもうこんなになってたの」
「ボーイ、君がやったんじゃないか。覚えてないかい?」
「コンガ……」
赤い服をまとったコンガが、静かに浮いていた。
「言ったはずだよ。鼓動知る能力を使って人を傷つけてはいけないって…… まあ、今回は相手が魚だったから、能力没収にはならなかったけど」
「へ、鼓動を知るって、鼓動の場所が分かるっていうだけじゃ……」
「『鼓動を理解する』って言った方が良かったのかな。それは、鼓動に関わるすべてをマスターするってことさ。それこそ、鼓動をとめる方法も、鼓動からある程度人の気持ちを読むこともね」
発作を起こしたように震え始めた体を、和樹はなんとか抑えようとした。口元を押さえ、吐き気を抑える。
『人間に危害を加えないって…… 鼓動を知る能力でどうやって人を傷つけられるんだよ』
コンガと初めてあったとき、言った言葉を思い出す。
『ほほほ。あんた、バカでいい奴だねえ。そのままでの君でいてくれよ』
その後、コンガは意味ありげな笑みを浮かべていた。
水面浮かんだサメの死体に当たり、ボートが小さな音を立てた。サメの青白い腹が、月に照らし出されている。
「やろうと思えば、このサメと同じくらいの人間を手も使わずに殺せるよ、ボーイ」
その言葉は、サメに食われかけたことよりも恐かった。確かに、力が欲しいと思ったけれど、間違って無差別殺人してしまうような能力なんて欲しくない。
「どうしたの? 目が半分イッちゃってるわよ」
ルリはもう一枚毛布を掛けてくれたが、振るえは止まらなかった。
「俺が、殺したんだ。これだけの数、いっぺんに……」
「どうやって?」
「俺が、鼓動に『止まれ』って念じたから」
ルリは何か悪い物でも食べたような顔をした。
「あなた、相当酷い目にあったのね。記憶が混乱してるのよ」
ルリはポンポンと和樹の肩を叩いた。
「海流かなにかの関係で、サメの死体が集まってきたんでしょ。フカヒレの分際で人様を食おうとするからバチがあたったのよ」
サメが聞いたら間違いなく怒る理論をぶちかまして、ルリは夜の闇にフラッシュを光らせた。
「『サメ大量死の謎』だめだわ。午後のワイドショーの隅っこでしか扱ってもらえそうにない。スズメバチとか万引きジーメンの枠で」
「違うんだ!」
あまりにも呑気なルリの言葉が気にいらなくて、和樹は思わず大声をあげた。
「俺の、俺の能力なんだ。鼓動を知る能力」
和樹は自分の両手を見下ろした。
「ふうん。そこまでいうんだったら、そうなんでしょうよ」
ルリの言葉はあまりにもあっさりしていて、逆に和樹の方が驚いたほどだった。
ルリは、少しずつ船から離れていくサメの死体を視線で指した。
「それに、マシンガンさえあれば私だってこれぐらいできるわよ。別に危ない能力を持ってても使わなければいいだけじゃない」
ルリは和樹の隣に座った。和樹の顔を覗き込む明るい茶色の瞳は、ランプの光を吸い込んで暖かく輝いている。
やわらかい両手が和樹の肩に乗せられた。ふわり、と香水のいい匂いがした。
「大丈夫。サメを殺したくらいでこんなに動揺してるんだもの。あなたが力を悪用できるはずがないわよ」
「姫を助けに行ったナイト、旅先で浮気!」
くだらないことを言って来たコンガを思い切りにらみ付ける。
「ありがとう。変な奴だと思われても仕方ないって覚悟したんだが」
「信じるわよ。あちこち取材に行ってると、たくさん変な物を見るもの」
そっとルリが自分の鼻をなでた。
「鎮乃目の娘も、おかしな力を持ってたわ」
「ミコトに、ミコトに会ったのか!」
「ちょっと。いきなりこっちに来ないでよ。船が傾くじゃないの! ええ、ミコトちゃんは私の傷をきれいに治してくれたわ」
和樹の必死さにルリがびっくりしているのは分かったが、大人しくするなんてとてもできなかった。
「ミコト、ミコトはどんな様子だった?」
治癒の能力が神から得た物なら、ミコトも何か代償を払っているはずだ。和樹がウソをつけないように。
「車椅子で、何か眠っているみたいだったわ。顔はベールで隠れてて、見えなかったけどね」
和樹は額を船底に擦りつけた。思い切り拳を叩きつけるが、ゴムボートはボヨンという鈍い音しかしなかった。
「父親に……利用されてるんだ! ルリ。葉巻島へ向かってくれ。たぶんそこにミコトがいるんだ」
「なんだか、わけありみたいだわね。葉巻島? 言われなくてもそうするわよ。今回の目的は鎮乃目の取材だもの」
「そうなのか?」
「鎮乃目は、医者としては優秀だけど、色々黒い噂があるのよ」
「なるほど。優秀医師の闇の顔を取材していたこともあるっていうわけか、あんたは」
「あるというか、続行中よ。本当は、黒瀬の方を調べてたんだけど、その関係で鎮乃目のことを聞いてね」
ルリは、和樹に自分が調べてきた事を教えた。黒瀬が裏で武器の売買をしていること、鎮乃目がその黒瀬と?がっていることを。
「鎮乃目の奥さんも五年前に姿を消してる。二人で公園で言い争っているのを見たっていう目撃情報を最後に」
「鎮乃目の奥さん? つまり羽原の母さんか」
はああ、と和樹は溜息をついた。
「羽原、自分の家のこと何もあんまり教えてくれなかったなあ。そういうこと話すほど俺って信頼されていないのか」
「裏がありそうな事件より、女のコが自分の事をどう思っているかを最初に考えちゃうあたり、恋する少年ね」
彼女の言葉に頬が熱くなる。たぶん、真っ赤になっているのだろう。和樹は慌てて一つ咳払いした。
「い、いいから続けてくれ。羽原の母さん、見つかったのか?」
「いいえ。迷宮入りになってるわ。公園の隅に、焚き火みたいな跡があったっていうけど、死体を燃やした跡はないし」
「すげえな。そんなことまで調べるのか」
「そうよ。夜明けにようやく自宅に帰りついた刑事を玄関先で待ち伏せして質問攻めにするのが仕事ですから」
「迷惑な」
(そうか。羽原の母さんが……)
和樹はギリッと歯を握り締めた。写真に写った鎮乃目の写真を持ってくればよかった。そうすれば五寸釘を打ち付けることができたのに。鎮乃目が、羽原の母さんの失踪に関係しているのに違いない。あいつはどれだけ羽原を傷つければ気が済むんだ?
「まあ、なんにせよ、詳しいことは本人に聞けばいいでしょう」
けろりとルリは言った。
「黒瀬の会社に入り込んだのに比べれば、葉巻島なんて軽い軽い! さあ、いきましょう!」
ルリはバッグを開けた。ずるずると引越屋の作業着が引きずり出される。
「す、すげえ。用意万端」
「おほほほ。競争が激しい報道業界で生き抜くにはこれぐらいしないとね。変装してもぐりこむくらいは記者の乙女のたしなみよ」
「明らかに違法行為だけどな」
「そうねえ。あなたも変装したほうがいいと思うわ」
なにやらピンクの布をもう一枚引きずり出す。
「はい」
立体的に女性の体つきをあらわした、タイトなドレス。両脇に深く入ったスリットが悩ましい。
「なあ、冗談、だよな」
「いちいち聞かないとわからないの? お馬鹿さんね」
ルリは、エンジンについているT字型の取っ手を思い切り引っ張って、船を動かした。
何だか酷く頼りなく、それでも着実に、ボートは航跡を描き始めた。進行方向はただまだらの闇があるだけで、葉巻島はまだ見えなかった。
(ああ、恐かった。サメに襲われる夢見ちまった……)
頭が痛いけど、あれは夢だ。服がずぶぬれだけど、あれは夢だ。足がちょっと痛いけれど、あれは夢だ。というか、夢であって欲しい。きっと、起き上がったら自分の部屋で、普通に羽原もカウンターで待っていて……
「て、そんな都合のいいこと起きるわけないか」
ゆっくりと体を起こす。頭が痛い。いつの間にかかけられていた毛布を体にしっかり巻きつけた。
「ああ、目が覚めたのね、誰かさん」
灰色メッシュのオレンジ髪というドハデな女性が、和樹をのぞきこんでいる。細身のズボンに黒いシャツ。それに、ジージャンという格好だ。
コンガといい今回といい、なんだか意識を取り戻すたびにどアップで女に顔を覗き込まれている気がする。得に嬉しいことではないけれど。
「あんたは…… たしか、出航前に俺の写真を撮りまくってた」
良くぞ訊いてくれました、というようにカメラを掲げて見せた。
「フリーのジャーナリストよ。名前はルリ。週刊誌に自分で調べた記事を売るの! トクダネもとめてどこへでも! 戦場から墓場まで!」
「微妙に狭いな守備範囲」
頭痛を気にしながらそっと体を起こす。ありがたいことに、縄もさるぐつわもキレイになくなっていた。
和樹がいたのはゴムボートの中だった。それもプールで使うようなチャチな物じゃない。ランプとテントまでついている頑丈な奴だ。中には撮影機材が詰まっているのだろう、銀色の大きなケースが乗っていた。
「すごいでしょう。救難用のボートにエンジンつけて改造したのよ」
得意そうにルリが船のヘリをポンポンと叩く。そのご自慢のエンジンは、今静かに止まっていた。
「それにしても、変わった趣味ね。サメの出る海域で泳ぐなんて。それとも、新しい自殺の仕方? お望みならまた海に叩き込んであけるけど」
「断固拒否する。あ、そうだ。そういえば、サメ!」
水面には、ミニチュアの宇宙船を思わせる銀色の流線型が、プカプカと浮かんでいた。ちょっと生臭い。
「これ…… ルリ、あんたが……」
「ううん、私がやったんじゃないわ。ここ通りかかったらもうこんなになってたの」
「ボーイ、君がやったんじゃないか。覚えてないかい?」
「コンガ……」
赤い服をまとったコンガが、静かに浮いていた。
「言ったはずだよ。鼓動知る能力を使って人を傷つけてはいけないって…… まあ、今回は相手が魚だったから、能力没収にはならなかったけど」
「へ、鼓動を知るって、鼓動の場所が分かるっていうだけじゃ……」
「『鼓動を理解する』って言った方が良かったのかな。それは、鼓動に関わるすべてをマスターするってことさ。それこそ、鼓動をとめる方法も、鼓動からある程度人の気持ちを読むこともね」
発作を起こしたように震え始めた体を、和樹はなんとか抑えようとした。口元を押さえ、吐き気を抑える。
『人間に危害を加えないって…… 鼓動を知る能力でどうやって人を傷つけられるんだよ』
コンガと初めてあったとき、言った言葉を思い出す。
『ほほほ。あんた、バカでいい奴だねえ。そのままでの君でいてくれよ』
その後、コンガは意味ありげな笑みを浮かべていた。
水面浮かんだサメの死体に当たり、ボートが小さな音を立てた。サメの青白い腹が、月に照らし出されている。
「やろうと思えば、このサメと同じくらいの人間を手も使わずに殺せるよ、ボーイ」
その言葉は、サメに食われかけたことよりも恐かった。確かに、力が欲しいと思ったけれど、間違って無差別殺人してしまうような能力なんて欲しくない。
「どうしたの? 目が半分イッちゃってるわよ」
ルリはもう一枚毛布を掛けてくれたが、振るえは止まらなかった。
「俺が、殺したんだ。これだけの数、いっぺんに……」
「どうやって?」
「俺が、鼓動に『止まれ』って念じたから」
ルリは何か悪い物でも食べたような顔をした。
「あなた、相当酷い目にあったのね。記憶が混乱してるのよ」
ルリはポンポンと和樹の肩を叩いた。
「海流かなにかの関係で、サメの死体が集まってきたんでしょ。フカヒレの分際で人様を食おうとするからバチがあたったのよ」
サメが聞いたら間違いなく怒る理論をぶちかまして、ルリは夜の闇にフラッシュを光らせた。
「『サメ大量死の謎』だめだわ。午後のワイドショーの隅っこでしか扱ってもらえそうにない。スズメバチとか万引きジーメンの枠で」
「違うんだ!」
あまりにも呑気なルリの言葉が気にいらなくて、和樹は思わず大声をあげた。
「俺の、俺の能力なんだ。鼓動を知る能力」
和樹は自分の両手を見下ろした。
「ふうん。そこまでいうんだったら、そうなんでしょうよ」
ルリの言葉はあまりにもあっさりしていて、逆に和樹の方が驚いたほどだった。
ルリは、少しずつ船から離れていくサメの死体を視線で指した。
「それに、マシンガンさえあれば私だってこれぐらいできるわよ。別に危ない能力を持ってても使わなければいいだけじゃない」
ルリは和樹の隣に座った。和樹の顔を覗き込む明るい茶色の瞳は、ランプの光を吸い込んで暖かく輝いている。
やわらかい両手が和樹の肩に乗せられた。ふわり、と香水のいい匂いがした。
「大丈夫。サメを殺したくらいでこんなに動揺してるんだもの。あなたが力を悪用できるはずがないわよ」
「姫を助けに行ったナイト、旅先で浮気!」
くだらないことを言って来たコンガを思い切りにらみ付ける。
「ありがとう。変な奴だと思われても仕方ないって覚悟したんだが」
「信じるわよ。あちこち取材に行ってると、たくさん変な物を見るもの」
そっとルリが自分の鼻をなでた。
「鎮乃目の娘も、おかしな力を持ってたわ」
「ミコトに、ミコトに会ったのか!」
「ちょっと。いきなりこっちに来ないでよ。船が傾くじゃないの! ええ、ミコトちゃんは私の傷をきれいに治してくれたわ」
和樹の必死さにルリがびっくりしているのは分かったが、大人しくするなんてとてもできなかった。
「ミコト、ミコトはどんな様子だった?」
治癒の能力が神から得た物なら、ミコトも何か代償を払っているはずだ。和樹がウソをつけないように。
「車椅子で、何か眠っているみたいだったわ。顔はベールで隠れてて、見えなかったけどね」
和樹は額を船底に擦りつけた。思い切り拳を叩きつけるが、ゴムボートはボヨンという鈍い音しかしなかった。
「父親に……利用されてるんだ! ルリ。葉巻島へ向かってくれ。たぶんそこにミコトがいるんだ」
「なんだか、わけありみたいだわね。葉巻島? 言われなくてもそうするわよ。今回の目的は鎮乃目の取材だもの」
「そうなのか?」
「鎮乃目は、医者としては優秀だけど、色々黒い噂があるのよ」
「なるほど。優秀医師の闇の顔を取材していたこともあるっていうわけか、あんたは」
「あるというか、続行中よ。本当は、黒瀬の方を調べてたんだけど、その関係で鎮乃目のことを聞いてね」
ルリは、和樹に自分が調べてきた事を教えた。黒瀬が裏で武器の売買をしていること、鎮乃目がその黒瀬と?がっていることを。
「鎮乃目の奥さんも五年前に姿を消してる。二人で公園で言い争っているのを見たっていう目撃情報を最後に」
「鎮乃目の奥さん? つまり羽原の母さんか」
はああ、と和樹は溜息をついた。
「羽原、自分の家のこと何もあんまり教えてくれなかったなあ。そういうこと話すほど俺って信頼されていないのか」
「裏がありそうな事件より、女のコが自分の事をどう思っているかを最初に考えちゃうあたり、恋する少年ね」
彼女の言葉に頬が熱くなる。たぶん、真っ赤になっているのだろう。和樹は慌てて一つ咳払いした。
「い、いいから続けてくれ。羽原の母さん、見つかったのか?」
「いいえ。迷宮入りになってるわ。公園の隅に、焚き火みたいな跡があったっていうけど、死体を燃やした跡はないし」
「すげえな。そんなことまで調べるのか」
「そうよ。夜明けにようやく自宅に帰りついた刑事を玄関先で待ち伏せして質問攻めにするのが仕事ですから」
「迷惑な」
(そうか。羽原の母さんが……)
和樹はギリッと歯を握り締めた。写真に写った鎮乃目の写真を持ってくればよかった。そうすれば五寸釘を打ち付けることができたのに。鎮乃目が、羽原の母さんの失踪に関係しているのに違いない。あいつはどれだけ羽原を傷つければ気が済むんだ?
「まあ、なんにせよ、詳しいことは本人に聞けばいいでしょう」
けろりとルリは言った。
「黒瀬の会社に入り込んだのに比べれば、葉巻島なんて軽い軽い! さあ、いきましょう!」
ルリはバッグを開けた。ずるずると引越屋の作業着が引きずり出される。
「す、すげえ。用意万端」
「おほほほ。競争が激しい報道業界で生き抜くにはこれぐらいしないとね。変装してもぐりこむくらいは記者の乙女のたしなみよ」
「明らかに違法行為だけどな」
「そうねえ。あなたも変装したほうがいいと思うわ」
なにやらピンクの布をもう一枚引きずり出す。
「はい」
立体的に女性の体つきをあらわした、タイトなドレス。両脇に深く入ったスリットが悩ましい。
「なあ、冗談、だよな」
「いちいち聞かないとわからないの? お馬鹿さんね」
ルリは、エンジンについているT字型の取っ手を思い切り引っ張って、船を動かした。
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