夢幻怪浪

三塚 章

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使ってはいけない理由

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 私の高校には、旧校舎の廊下でスマートフォンを使ってはいけないという禁忌がある。
 何年か前、二年生のK君が、行方不明になった。「ちょっとコンビニに行って来る」と告げて家を出たまま、帰ってこなくなったという。自殺だとか誘拐だとか噂が立ったけれど、死体も見つからなければ、親に身代金を要求する電話もなかったようで(といってももちろん警察やK君の親に聞いたわけではないが)自殺や犯罪に巻き込まれそうなトラブルはなかったという。
 ただ、授業をさぼって旧校舎の廊下でスマホでネットをするぐらい不真面目な奴ではあったらしいが。
 他県でも行方が分からなくなっていた少年Aが死体で見つかる事件があったり、駅前でK君の親が情報提供を呼び掛けるビラを配っていたり、そのころは学校全体の雰囲気がピリピリしていた。マスコミが学校に殺到するかと思ったが、それほどでもなかったのは幸いだった。学生の行方不明や自殺は案外そう珍しいものではないらしく、それほどおいしいネタでもなかったのだろう。
 奇妙な噂が流れ始めたのはそんな不穏な空気が流れる日々の事だった。
 近所の大学生が、夜の旧校舎に入り込んだらしい。何もテスト問題を盗み見ようとか、金目の物を盗もうとか、そんな大それたことではなかったようだ。ただ、古くて不気味な旧校舎を探検し、動画を撮りたかっただけのようだ。もちろん、行方不明事件で有名な学校を見てみたいという野次馬根性もあっただろう。
 そしてその映像を、一階の廊下に立ち止まってSNSや動画サイトにアップしようとした時に、黒い人影に襲われた。そして、人差し指を切り落とされたという。
 事実、私も旧校舎に警察が入り何か調べているのを見たし、後でこっそり旧校舎をのぞきにいったクラスメイトは廊下に血のような物が垂れているのを見たと言っていたので、かなり信憑性が高いと私は思っている。
 それから、こんな噂が流れ始めた。
 K君は、他県で殺された少年AとSNSで繋がっていた。そしてトラブルがあったのか、タチの悪い冗談だったのか、K君はAと「夜にある場所で会おう」と約束しておきながら自分は行かない、というイタズラを仕掛けたのだ。夜中に人通りの少ない場所で待ちぼうけを食わされた少年Aは、何かの事件に巻き込まれて殺されてしまった。
 自分のイタズラで一人の人生を台無しにしてしまったK君は、罪悪感に耐えきれず姿を消し、自殺をした。そして悪霊になって自分と同じように旧校舎でスマートフォンをいじる者を襲うようになったという。そして自分と同じ間違いを犯さないよう人差し指を切り取るのだと。
 その話を聞いた三年生の誰かが、侵入捜査を試みた。曲げた指の関節に、イタズラ用のゴム製の人差し指をつけ、一見普通の指にみせかけて、旧校舎に入り込んだのだ。もちろん、スマートフォンをいじるふりもして。
 何事のなく出てこられたと思ったが、外に出て、ゴムの指を見てみると、鎌で何度も切られたようにズタズタになっていたという。
 それから、私の高校では誰からともなく言われるようになった。旧校舎の廊下でスマートフォンを使ってはいけないと。
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