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第七章
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ラルシュは、水場の入り口横の壁から中をのぞいていた。ワニが沈むと同時に隠れ場所から離れて走りだした。
たぶんアイツは何か企んでいる。そう思ったのはどうにもあいつのことが気にいらなかったからだ。証拠はなにもない。ただ、天使様に文句をいう奴なんて悪い奴に決まっている。
一体何を企んでるのか突き止めようと思ってずっとつけて来たのだが、事態はラルシュが思っているよりも悪かったようだ。
「あの男は……」
剥がれたマントの下にあった物が頭に浮かび、ラルシュの背中に寒気が走る。少しでもアレイルから逃げようと足を速めた。自分がどこにむかっているとか、どこを走っているとか、考えもしなかった。
「あの男は……悪魔だ!」
目の前に誰かが立ちはだかり、アレイルに見つかったかと息を飲んだ。
「こんな所で何をしてるんだい?」
だけど目の前の男はアレイルとは似ても似つかない男だった。
一つに結んだ長い灰色の髪。背は高い。痩せて骨張っている輪郭。そして教会の壁画にあるように、長いローブをまとっている。
男は髪と同じ灰色の目でラルシュのことを見つめた。
「私の名前はセレイダル」
バサリと重い布を振ったような音がした。セレイダルの背中から純白の翼が広がった。まるで雪のように真っ白な羽が降りしきる。
「あなたは何か悩んでいるようだ」
「え……」
『仮に『天使だ』『神だ』言ってくる奴がいたら、そいつは間違いなく偽物だからな。覚えておけ』
一瞬、アレイルの言葉が頭に浮かんだ。けれど、目の前の人の姿は、教会でお祈りした天使その物で。
「弟を、パルシュを助けてくれるの?」
気付いたら、そんな言葉を口に出していた。
「もちろんだ。おいで」
天使はラルシュに手を差し伸べてにっこりとほほえんだ。
村に帰ったアレイルは、化物を倒した証拠の牙を村人の前に放り出した。
「というわけで、化物の正体はワニだった」
正確に言えば『ワニによく似た何か』なのだが、説明が面倒なので省略する。
牙の大きさに村人達はどよめいた。手の平ほどもある牙は、物珍しそうに手から手へと渡っていく。
「さすがに一人であれを水の中から引き上げるのは無理だからな。腐る前に人を集めて何とかしたほうがいい」
村の人々は口々にアレイルにお礼を言った。
「びしょぬれじゃない。上だけでも脱いだら? 寒いでしょう」
村の女性が声をかけてくる。気を利かせてマントを取ろうと手を伸ばした。
アレイルはさりげなくその手を避ける。
「あ、ああ。あとでキレイな水をくれ。体を拭くから」
恐る恐る、と言った感じでナサラが近付いてきた。その顔から血の気が引いていて、アレイルは嫌な予感がした。
ラルシュとパルシュの母親は、ローベルに小声で話し掛ける。
「あの…… ラルシュがいなくなっていて……」
「どこかに遊びに行ってるのだろう」
「それが……」
ナサラの声に涙が混じっていた。
「ラルシュも、パルシュもいなくなっていて……」
その言葉が耳に入って、アレイルはするどく顔をあげた。
「おいローベル、もう車は直ってるか?」
「ああ、もう走れるはずだが」
アレイルはジープの止まっている場所へ走り出し、濡れた体もそのままに運転席に飛び乗った。
どこにいたのか、カナフも窓から車の中に入り込む。
「この辺りで動物共々隠れられそうな所は……」
アレイルは荷物の中から地図を取り出し、ある場所を確認すると、円陣をかけた。
たぶんアイツは何か企んでいる。そう思ったのはどうにもあいつのことが気にいらなかったからだ。証拠はなにもない。ただ、天使様に文句をいう奴なんて悪い奴に決まっている。
一体何を企んでるのか突き止めようと思ってずっとつけて来たのだが、事態はラルシュが思っているよりも悪かったようだ。
「あの男は……」
剥がれたマントの下にあった物が頭に浮かび、ラルシュの背中に寒気が走る。少しでもアレイルから逃げようと足を速めた。自分がどこにむかっているとか、どこを走っているとか、考えもしなかった。
「あの男は……悪魔だ!」
目の前に誰かが立ちはだかり、アレイルに見つかったかと息を飲んだ。
「こんな所で何をしてるんだい?」
だけど目の前の男はアレイルとは似ても似つかない男だった。
一つに結んだ長い灰色の髪。背は高い。痩せて骨張っている輪郭。そして教会の壁画にあるように、長いローブをまとっている。
男は髪と同じ灰色の目でラルシュのことを見つめた。
「私の名前はセレイダル」
バサリと重い布を振ったような音がした。セレイダルの背中から純白の翼が広がった。まるで雪のように真っ白な羽が降りしきる。
「あなたは何か悩んでいるようだ」
「え……」
『仮に『天使だ』『神だ』言ってくる奴がいたら、そいつは間違いなく偽物だからな。覚えておけ』
一瞬、アレイルの言葉が頭に浮かんだ。けれど、目の前の人の姿は、教会でお祈りした天使その物で。
「弟を、パルシュを助けてくれるの?」
気付いたら、そんな言葉を口に出していた。
「もちろんだ。おいで」
天使はラルシュに手を差し伸べてにっこりとほほえんだ。
村に帰ったアレイルは、化物を倒した証拠の牙を村人の前に放り出した。
「というわけで、化物の正体はワニだった」
正確に言えば『ワニによく似た何か』なのだが、説明が面倒なので省略する。
牙の大きさに村人達はどよめいた。手の平ほどもある牙は、物珍しそうに手から手へと渡っていく。
「さすがに一人であれを水の中から引き上げるのは無理だからな。腐る前に人を集めて何とかしたほうがいい」
村の人々は口々にアレイルにお礼を言った。
「びしょぬれじゃない。上だけでも脱いだら? 寒いでしょう」
村の女性が声をかけてくる。気を利かせてマントを取ろうと手を伸ばした。
アレイルはさりげなくその手を避ける。
「あ、ああ。あとでキレイな水をくれ。体を拭くから」
恐る恐る、と言った感じでナサラが近付いてきた。その顔から血の気が引いていて、アレイルは嫌な予感がした。
ラルシュとパルシュの母親は、ローベルに小声で話し掛ける。
「あの…… ラルシュがいなくなっていて……」
「どこかに遊びに行ってるのだろう」
「それが……」
ナサラの声に涙が混じっていた。
「ラルシュも、パルシュもいなくなっていて……」
その言葉が耳に入って、アレイルはするどく顔をあげた。
「おいローベル、もう車は直ってるか?」
「ああ、もう走れるはずだが」
アレイルはジープの止まっている場所へ走り出し、濡れた体もそのままに運転席に飛び乗った。
どこにいたのか、カナフも窓から車の中に入り込む。
「この辺りで動物共々隠れられそうな所は……」
アレイルは荷物の中から地図を取り出し、ある場所を確認すると、円陣をかけた。
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