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第三章
しおりを挟むアレイルを歓迎する宴会は、病人に配慮して他の部屋で行なわれた。野菜のスープと家畜をつぶした焼肉、それに貴重な酒までが食卓に並べられた。
珍しい旅の話を聞こうと集まった村人達でにぎやかな宴になったけれど、それも終わり。皆それぞれの家へと帰り、ローベルの息子夫婦が後片付けをしていた。
「あれ? アレイルさんは?」
息子の嫁のナサラは、食器をまとめながら言った。その言葉にローベルは窓の外を眺めた。
「ああ、今夜は自分の車で寝ると出ていったぞ」
車から取り外した円陣を眺めながらローベルは言った。この分なら明日の昼までには直るだろう。
「ええ? ここで寝ればいいのに」
どうやら彼女はアレイルのことを気に入ったらしい。
「まあ、そっとしておいてやれ。一人で考えたい事もあるだろう」
それに、ローベルも考えることがあった。
アレイルが宴会のとき、そっとローベルだけに教えてくれた、この村に来た理由。それは化物が周辺をうろついていないか探すためだという。
アレイルがここから少し離れた村に立ち寄ったとき、そこはまるで悪い夢の中のようだったらしい。何物かに、あちこち喰われた村人達の死体が散らばっていたという。
その跡から獣の仕業だと分かったが、肝心のその獣がどこに行ったか見つけられなかった。それでそこから一番近いヒナタノ村に様子を見にきたということだった。
いたずらに村人達を不安がらせてはいけないが、このまま放置というわけにもいかない。
信頼できる者に話し、何かしら対策を取らなくては。
そしてもう一つ、アレイルは気になる事を教えてくれた。その村の生き残りが、彼に囁いたという。魔物を率いていたのは『天使』だったと。
もちろんこれだけは誰にも言うわけにはいかない。天使が魔物を率いて人を襲わせたなど。それにもう天使は――
風で窓が揺れた。ノミで薄くなっている線を彫り直す手を休め、窓の外に目をやった。
穴を板でふさいであるガラスの向こうには星空が広がっている。昔は地上にも光があふれ、夜の星を消すほどだったというのは本当だろうか。
今アレイルは一人で何を考えているのだろう。知合ってから、いや知合う前からずっと彼は旅をし続けていたのだ。一ヶ所に留まらず流れ続けるのは淋しくはないのだろうか。
ローベルはぼんやりとそう思った。
その星空の下で、高い木に登り、枝に寄り掛かかるようにしてアレイルは村を見下ろしていた。まだどうしても眠る気にはならなかった。さっきのように皆でにぎやかにやるのも好きだが、今はこうやって一人でぼうっとしていたい気分だった。カナフは枝に止まってうつらうつらしている。
今にも夜の闇に呑まれそうになりながらも、村の灯はそれでも確かに燃えていた。
ふと地面に気配を感じで、アレイルは視線をそちらにむけた。
「ん? ありゃラルシュか?」
彼は辺りを気にしながらどこかへ行こうとしているようだ。
(なんだ、こんな時間に)
野犬や建物の崩落に逢ったら危険だ。そもそも、どこに行くのか気になる。
アレイルは木からそっと下りると、小さな影の後をついていった。
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