運命の糸が絡まった

天野蒼空

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10話 From菜月

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「というわけで、今年の文化祭のPRダンス、5人目はは高田さんにお願いします」

 最悪だ。今すぐ時間を巻き戻して、パーではなくグーを出したことにしたい。

 このPRダンスというのは、文化祭の開会式で行われる出し物の一つだ。各クラス5人がクラス衣装を着て、一学年ずつダンスをする。その中で自分たちのクラスでどんな出し物をするのかということや、用意した衣装のアピールを行う。文化祭では衣装賞もあるので、衣装の一番の見せ場であるPRダンスはかなり重要なのだ。

 文化祭の華形でもあるような役割ではあるが、ダンスの練習が大変だという話から押し付け合いが始まり、じゃんけんで決めようということになったのだ。

 だからパーではなくグーを出していれば……。

「クラスで割り振られるソロ部分はこっちで考えるから、まずは学年で共通の部分の振りを覚えてきてね!」

 ああ、憂鬱だ。

 逃げるように教室を出て、部活に向かう。

「菜月じゃん。そんな暗い顔をして、どうしたの?」

 幸人が目の前でひらひらと手を振っていた。

 どきん、と、心臓が大きく飛び跳ねる。なんだか幸人の周りだけに光があたっているような気もする。

 ああ、そうだ。私、この人のこと好きなんだった。

 意識すると余計に心臓が早く動き出して、掌にじんわりと汗がにじむ。口の中から水分が失われてきて、早口になりそうになるのをどうにかして押さえつけて、平静を装う。口の中で三回くらい練習してから話し始める。

「PRダンスやることになっちゃったのよ。もう最悪」

「それ、俺もやるよ」

「ほんとに?」

 憂鬱だったダンスの練習が急に楽しみになってきた。

「全体の振り入れってもうやった? ステップとかちょっと面倒なところがあったよ」

「ええ、私できるかな。さっき決まったばかりだからまだ振りの動画、もらったけど見てないんだよね」

 ふと、以前一緒にゲーセンで遊んだときのことを思い出す。あのとき幸人はたしか、ダンスの音ゲーもやっていたはずだ。ならダンスも得意だったりしないだろうか。

 運良くマンツーマンレッスンなんてならないだろうかと淡い気持ちで聞いてみる。

「ねえ、幸人ってダンス得意?」

「これくらいの難易度なら余裕だよ。よかったら教えようか?」

 願ったり叶ったりな結果に思わず飛び上がりそうになるのと、叫びだしたくなるような気持ちを、握り拳の中に丸め込む。

「お願い! クラスの人の前で踊れないっていうのは避けたいの」

「あ、でも、そういえば、明日と明後日は放課後に生徒会に行かなくちゃいけないから……。菜月はいつが空いている?」

「明後日は金曜日だから塾があるのよ。来週にはクラスの中で振り入れが始まっちゃうだろうから、土曜日とかどう?」

 言ってから気がついた。

 土曜日って休みの日だ。つまり学校がない日に幸人と待ち合わせをして、出かける。もちろん休みの日だから制服じゃなくて私服。

 つまり、それって、デート。

 私、幸人のことを、好きな人のことをデートに誘っちゃったんだ。

 体が一瞬でかあっと熱くなる。背中を汗が伝う。正面から幸人の顔を見られなくなって、つい下を向いてしまう。なんども深呼吸をするが、心臓の動きは早いままだ。

「いいよ。土曜日ね」

 キラキラとした光の粒があたり一面に降り注いで、世界のすべてが光り輝いていた。

 PRダンス担当も悪くない。むしろ最高だ!

 私はスキップしながら部活に向かうのだった。
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