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大人の恋愛
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「ほんと、こどもっぽいよね」
彼はそう言いながら私の頭をぐしゃぐしゃとなでた。
「そういうの、嫌?」
いつもならぎゅっと私のことを抱きしめて「そんなことないよ」という彼だが、今日は違った。右手を顎に当てて、少しだけなにか考えているような素振りを見せた。
「嫌、ではないけれど……」
「けど?」
「もう少しおとなになったほうがいいんじゃないかなって思うかも」
「大人、かぁ」
ピッタリと彼の左側にくっついて、私は大人について考える。
一般的な定義において、大人というものは成人を指すだろう。そして、私はもう酒もタバコも合法的に頂ける年齢だ。そういう意味では私は大人である。
彼が私を見る目はいつもと変わらない。
ふうっと息を吐いてホットコーヒーに口をつける。砂糖もミルクも入っていない、ブラックコーヒー。苦いものが飲めるのは大人だ。そういう意味では私は大人である。
「きっとコーヒーやお酒も飲めるのにって思っているんでしょ」
「なんで分かるのよ」
「そりゃ長い付き合いですから。でも俺が言いたいのそういう意味じゃないからね」
むうっと口をとがらせて私はまた、考える。
視線を下にやればまな板みたいにぺったんこな、貧相な胸。
つまりそういうことだったのか……。私は彼のことを理解しているようでしていなかったのかもしれない。二の腕や背中の肉を持ってくればある程度は大きくなるかもしれない。いや、でもやっぱり確実なのは整形か……?
ボディチェックのようにあちこちを触りながら確かめていく。
「胸の大きさの話でもないからね。だいたい小さい方が好きなのは知っているでしょ」
「もしかしたらそれがおべっかだったかもしれないじゃない」
「そんな事あるわけ無いでしょうが」
彼は私にぎゅーっと抱きつく。
「体の話じゃないんだから。体は今のままが一番なんだから、変に弄くろうなんて考えないでね」
「じゃあ大人ってなんなのよ~」
「変に考えすぎるならもういいって。今のままの君が好きだよ」
言わせてしまったような気がした。きっと100%の本心じゃないんだろうなって。
だからデートから帰ってきて、一人で部屋に籠もっているときもずっと考えていた。
大人、大人、大人、大人。
彼はどんな人のことを大人っぽいって言っていた?
彼はどんなときに子供っぽいって私に言った?
おとな、おとな、おとな、おとな。
考えてもわからない。きっと答えを聞いたほうがいいだろうと思ってスマホを手にとった。
時間は夜の九時。いつもならそろそろ彼は友達とゲームをする時間。
きっと大人なら邪魔をしないはず。
それに、彼に直接聞きたいっていうのは私のわがまま。
きっと大人なら我慢するはず。
翌朝、いつもなら「おはよう」とメッセージを送るのにそれすらなんだか送れなかった。そのまま一日何も送ることができなかった。
話したいことがなくなったわけじゃない。むしろ、話したいことは途切れずに湧き出てくる。なのにそれをスマホに打ち込んで、いざ送信ぼたんをおそうとするとなんだか急に自信がなくなる。こうやっていつも構ってもらってばかりなのが、子供っぽいんじゃないのかなって。そういう私のことを、彼は嫌になったんじゃないのかなって。
3日経った。
私は何もできないままだった。
メッセージの画面を開いては閉じるの繰り返し。彼はそんな私に満足しているのか、なにも送られてこなかった。
もしかしたらこれが正解だったのかもしれない。
いつも甘えてばかりで、何かと構ってもらおうとばかりしていた。そんな私は確かに「子ども」だ。だからきっと……。
「寂しい」
送るつもりがなかったメッセージを消そうとする。
しかし、ぽんっと軽い音がして、メッセージは送信されてしまった。
すぐに既読がつく。
「今、電話いい?」
応えるよりも先に発信ボタンを押していた。
「もしもし」
電話先から聞こえる彼の声。
「もしもし。今何しているの?」
「やっとひとつ大きな仕事が片付いたよ」
いつもと変わらない電話だ。
「ねえ。この前のこと、気にしてる?」
彼の問いかけに思わず嘘をついてしまう。
「この前のって何よ。それよりお疲れ様」
「気にしてないならいいんだけど……。いつもどおりの君が一番好きだよ。こどもっぽくても、そんなところが可愛いんだから」
ああやっぱり、きっと私に「大人」だなんて早すぎた。今の私を好きだと言ってもらえるのなら、また今日も彼に甘えよう。
私も彼が好きで好きでたまらないのだ。
彼はそう言いながら私の頭をぐしゃぐしゃとなでた。
「そういうの、嫌?」
いつもならぎゅっと私のことを抱きしめて「そんなことないよ」という彼だが、今日は違った。右手を顎に当てて、少しだけなにか考えているような素振りを見せた。
「嫌、ではないけれど……」
「けど?」
「もう少しおとなになったほうがいいんじゃないかなって思うかも」
「大人、かぁ」
ピッタリと彼の左側にくっついて、私は大人について考える。
一般的な定義において、大人というものは成人を指すだろう。そして、私はもう酒もタバコも合法的に頂ける年齢だ。そういう意味では私は大人である。
彼が私を見る目はいつもと変わらない。
ふうっと息を吐いてホットコーヒーに口をつける。砂糖もミルクも入っていない、ブラックコーヒー。苦いものが飲めるのは大人だ。そういう意味では私は大人である。
「きっとコーヒーやお酒も飲めるのにって思っているんでしょ」
「なんで分かるのよ」
「そりゃ長い付き合いですから。でも俺が言いたいのそういう意味じゃないからね」
むうっと口をとがらせて私はまた、考える。
視線を下にやればまな板みたいにぺったんこな、貧相な胸。
つまりそういうことだったのか……。私は彼のことを理解しているようでしていなかったのかもしれない。二の腕や背中の肉を持ってくればある程度は大きくなるかもしれない。いや、でもやっぱり確実なのは整形か……?
ボディチェックのようにあちこちを触りながら確かめていく。
「胸の大きさの話でもないからね。だいたい小さい方が好きなのは知っているでしょ」
「もしかしたらそれがおべっかだったかもしれないじゃない」
「そんな事あるわけ無いでしょうが」
彼は私にぎゅーっと抱きつく。
「体の話じゃないんだから。体は今のままが一番なんだから、変に弄くろうなんて考えないでね」
「じゃあ大人ってなんなのよ~」
「変に考えすぎるならもういいって。今のままの君が好きだよ」
言わせてしまったような気がした。きっと100%の本心じゃないんだろうなって。
だからデートから帰ってきて、一人で部屋に籠もっているときもずっと考えていた。
大人、大人、大人、大人。
彼はどんな人のことを大人っぽいって言っていた?
彼はどんなときに子供っぽいって私に言った?
おとな、おとな、おとな、おとな。
考えてもわからない。きっと答えを聞いたほうがいいだろうと思ってスマホを手にとった。
時間は夜の九時。いつもならそろそろ彼は友達とゲームをする時間。
きっと大人なら邪魔をしないはず。
それに、彼に直接聞きたいっていうのは私のわがまま。
きっと大人なら我慢するはず。
翌朝、いつもなら「おはよう」とメッセージを送るのにそれすらなんだか送れなかった。そのまま一日何も送ることができなかった。
話したいことがなくなったわけじゃない。むしろ、話したいことは途切れずに湧き出てくる。なのにそれをスマホに打ち込んで、いざ送信ぼたんをおそうとするとなんだか急に自信がなくなる。こうやっていつも構ってもらってばかりなのが、子供っぽいんじゃないのかなって。そういう私のことを、彼は嫌になったんじゃないのかなって。
3日経った。
私は何もできないままだった。
メッセージの画面を開いては閉じるの繰り返し。彼はそんな私に満足しているのか、なにも送られてこなかった。
もしかしたらこれが正解だったのかもしれない。
いつも甘えてばかりで、何かと構ってもらおうとばかりしていた。そんな私は確かに「子ども」だ。だからきっと……。
「寂しい」
送るつもりがなかったメッセージを消そうとする。
しかし、ぽんっと軽い音がして、メッセージは送信されてしまった。
すぐに既読がつく。
「今、電話いい?」
応えるよりも先に発信ボタンを押していた。
「もしもし」
電話先から聞こえる彼の声。
「もしもし。今何しているの?」
「やっとひとつ大きな仕事が片付いたよ」
いつもと変わらない電話だ。
「ねえ。この前のこと、気にしてる?」
彼の問いかけに思わず嘘をついてしまう。
「この前のって何よ。それよりお疲れ様」
「気にしてないならいいんだけど……。いつもどおりの君が一番好きだよ。こどもっぽくても、そんなところが可愛いんだから」
ああやっぱり、きっと私に「大人」だなんて早すぎた。今の私を好きだと言ってもらえるのなら、また今日も彼に甘えよう。
私も彼が好きで好きでたまらないのだ。
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