あなたのためのミネストローネ

あなたのためのミネストローネ

あなたのためのミネストローネ

部屋の鳩時計が四回鳴いた。

「ああ、もうこんな時間だったのね」

私はゆっくりと伸びをして、台所へ向かった。

ガラガラガラと冷蔵庫の引き出しを開けて、材料が揃っていることを確認する。

うんうん、大丈夫。昨日買い出しを済ませておいたから、必要なものは全部揃っている。

一つ一つ確認しながら、今日のメインの料理で使うものを並べる。

トマト缶一つ、コンソメキューブ二つ。これがなくちゃだめね。

きゃべつ、にんじん、玉ねぎ、ベーコン、それからあなたが生のままだと絶対食べないセロリ。

それから、ミックスビーンズの缶詰。これが入っていると、あなたがとっても喜ぶの。

今日はちょっとだけ大事な日。だから、あなたの大好きなミネストローネを作るの。

たんたんたんたん。

包丁がリズミカルに具材を一口大にしていく。大きすぎず、でも煮込んだ時に形がなくならないように、小さすぎず。ホクホクとしているのがいいって、あなたが昔言っていたから。

でも、セロリはちょっと小さめに。

火が通っているからあなたは食べることはできるだろうけれど、やっぱり苦手意識のある野菜って小さめのほうがいいじゃない？

それにセロリは食感よりも風味のほうが大切だから、これでいいの。

煮崩れを防ぐために、鍋にオリーブオイルを敷いて刻んだ具材を軽く炒める。それから水とトマト缶、コンソメを入れて弱火でゆっくり煮込んでいく。

愛をこめてじっくり、じっくり。

あなたへの気持ちを込めて、じっくり、し

あなたはなんで今日の夕食がミネストローネなのか気づくかしら。

多分、何も気づかないで食べるでしょうね。

でもね、私、あなたが美味しそうにご飯を食べているところ見るのがとっても好きなの。口に入れたときにぱっと変わるその表情とか、どこか美味しいって食レポしてくれるところとか、大好きなの。いつもよりも口角が上がって、キラキラとした目になるの、あなたは気づいているかしら。どれだけ美味しそうに食べているのか、自覚しているのかしら。

だけど、気づいてもらえなかったら悲しいから、ヒントのためにもう一品作りましょう。

あの日と同じ献立、あの日と同じ作り方。

そしたらきっと、気づいてくれるよね？

じゃがいもの皮を剥いて、スライスする。ナスも同じくらいの太さの輪切りにして、ひき肉と一緒に炒める。

その間にオーブンを余熱。

あっちこっちに熱源があるから、少し汗ばんできちゃった。汗臭いのは嫌だけれど、先にシャワーを浴びていたらあなたが返ってくる時間に間に合わなくなってしまうかもしれない。

具材に火がとおったら、皿に盛り、チーズをのせてオーブンで焼けば、グラタンの完成。

それからバケットも切っておきましょう。

台所はお腹の減る優しい匂いで包まれていた。

もうすぐあなたが帰ってくる。

今日はあなたのためのミネストローネ。早く一緒に食べたいの。

だって今日は大切な日だから。