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ずっとずっと
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その感情の始まりがどこにあったのかなんて、もう、覚えていない。気が付いたら恋に落ちていたという表現が、一番ぴったりだと思う。ただ、そんな風に思っているのは私だけじゃなかったようで。
「いつ好きになったかなんて、覚えているわけないじゃん」
君は数秒顎に手を当てて考えていたが、すぐに考えることを辞めてしまった。
「でもさ、気になるわけよ。そんなにあの時の私って、よかったのかなって」
「そりゃ、今と昔どっちが好きって言われたら、今のほうが好きだよ。今のほうが可愛いし。でもね、好きになっちゃったものはどうしようもないのよ」
「まあ、そうなんだろうけれど」
その一言で納得は出来ない。
もっと言葉にして欲しい。
もっと声に出して言って欲しい。
「ただ、さ」
左隣にあったはずの温もりが、ズシンと背中にのしかかってくる。
ミントの香りが、ふっと通り抜けていく。それから、シャボンの香り。君がさっきまで噛んでいたガムの香りと、いつものシャンプーの香り。
「今思えば一目惚れだったのかもしれないね」
「ひとめぼれぇ?」
「だってね、初めて会って、話して、その時思ったのは確かなんだよ。可愛い子だなって」
「ないって。そんなの」
ありえない。一目惚れするようなほど、あの時の私は可愛くなかったはずだ。化粧っ気もなく、服も可愛らしいものは苦手だった。スカートを履くのすら億劫で、私服といえばトレーナーにジーパン、もしくはTシャツにスキニー。ヒラヒラもフワフワも、私には似合わないって思っていたのだから。
今の服装はと言えば、一応は膝丈のスカートを履くようになったし、それからアクセサリーも着けるようになった。ネックレスとか、指輪とか。と、いっても、全部君がくれたものだけど。
いや、改めて見ても前よりもマシと言うだけで今もすごく可愛いかと言われたら、答えはNOなのだけれど。
「可愛いってどういう意味がわかってる?」
「可愛いは可愛いでしょ?」
「んー、そうじゃなくてね」
君は頭の後ろをガシガシと掻く。困った時はいつも頭を掻いている。
困るようなこと、言った覚えは無いのだけど。
「あのね、行動が可愛いのよ」
「どこが?」
「全部」
「いや分からんわ!」
そんな一言で分かるわけないでしょうが。むう。
つい、ほっぺたをぷうっと膨らませてしまう。
「そーゆーとこ」
ぷしゅ、と、膨らんだほっぺたが君の両手に挟まれて潰れる。そのまま、ムニムニと揉まれる。
「可愛いんだよ、全部」
ぱっと、手が頬から外れる。すると今度は、頭をわしゃわしゃと撫でられる。
「好きなんだよ、全部」
顔が熱い。
絶対変な顔になってる。
口角が上がって元に戻らなくなってきた。
やばい。
今、絶対顔合わせられない。
顔見られたら舌噛んで死ぬ。
「ほら、顔逸らさないの」
「無理。見ちゃダメ」
「見せて」
「絶対無理!」
するりと背中の重みが無くなる。
それから、にょきっと下から顔が生えてくる。私の足元にしゃがみ込んだ君が、私の顔をのぞきこんでいたのだ。
「もう!」
「なんで向こう向いちゃうの?」
「だって、変な顔になるの。見ないでよ、ばか」
「やだ。見る」
言い出したら聞かないのが君だ。でもほんとにダメなんだってば!
口角が上がりきったまま戻らない。口元の筋肉を少しでも弛めてしまったら、だらしなく口が空いてしまうだろう。気を引きしようとすればするほど、口がムニュッと横に伸びる。顔が湯気が出てしまいそうなほど熱い。
これは不細工を通り越して、不審者すぎる。
「だめー。ダメったらダメなの」
両手で顔を覆う。
指の隙間から君のニヤニヤとした笑いが見えるから、ギュッと目を閉じた。
心臓の音がうるさい。君のにやけ顔と同じくらいうるさい。
こうなったら仕方ない。
「えいっ」
どん。
「これなら見れないでしょ」
思い切って君の胸に飛び込んで、ぎゅーっと君を抱きしめる。君の胸に顔を埋める。
「うん。じゃあこうする」
ぎゅーっと君も私のことを抱きしめる。
息が詰まるほど、力強く。君と私と体温が入れ替わるくらい、しっかりと。
「ねえ」
君の声が、暖かい息が、そっと私の髪を揺らす。
「なあに」
じわじわと私の体の真ん中らへんがあったかくなる。
「ずっとずっと、こうしていたいな」
「うん」
私も。
ずっとずっと、こうしていたいな。
言葉には出さず、もう一度、力強く君を抱きしめる。
解けないように。離れないように。ぎゅっと。
「あ、でもずっとこのままじゃご飯食べられないか」
「お風呂も行けないよ?」
「それは困るね」
こんなことを言い出す君だから、私は好きになったんだ。
こんな君だから、ずっとずっと好きなんだ。
こんな君だから、ずっとずっと愛してるんだ。
だから。
全然言葉は足りないけれど、今はこれだけ言わせて欲しい。
「ずっとずっと、そばにいてね」
「ずっとずっと、そばにいるよ」
「いつ好きになったかなんて、覚えているわけないじゃん」
君は数秒顎に手を当てて考えていたが、すぐに考えることを辞めてしまった。
「でもさ、気になるわけよ。そんなにあの時の私って、よかったのかなって」
「そりゃ、今と昔どっちが好きって言われたら、今のほうが好きだよ。今のほうが可愛いし。でもね、好きになっちゃったものはどうしようもないのよ」
「まあ、そうなんだろうけれど」
その一言で納得は出来ない。
もっと言葉にして欲しい。
もっと声に出して言って欲しい。
「ただ、さ」
左隣にあったはずの温もりが、ズシンと背中にのしかかってくる。
ミントの香りが、ふっと通り抜けていく。それから、シャボンの香り。君がさっきまで噛んでいたガムの香りと、いつものシャンプーの香り。
「今思えば一目惚れだったのかもしれないね」
「ひとめぼれぇ?」
「だってね、初めて会って、話して、その時思ったのは確かなんだよ。可愛い子だなって」
「ないって。そんなの」
ありえない。一目惚れするようなほど、あの時の私は可愛くなかったはずだ。化粧っ気もなく、服も可愛らしいものは苦手だった。スカートを履くのすら億劫で、私服といえばトレーナーにジーパン、もしくはTシャツにスキニー。ヒラヒラもフワフワも、私には似合わないって思っていたのだから。
今の服装はと言えば、一応は膝丈のスカートを履くようになったし、それからアクセサリーも着けるようになった。ネックレスとか、指輪とか。と、いっても、全部君がくれたものだけど。
いや、改めて見ても前よりもマシと言うだけで今もすごく可愛いかと言われたら、答えはNOなのだけれど。
「可愛いってどういう意味がわかってる?」
「可愛いは可愛いでしょ?」
「んー、そうじゃなくてね」
君は頭の後ろをガシガシと掻く。困った時はいつも頭を掻いている。
困るようなこと、言った覚えは無いのだけど。
「あのね、行動が可愛いのよ」
「どこが?」
「全部」
「いや分からんわ!」
そんな一言で分かるわけないでしょうが。むう。
つい、ほっぺたをぷうっと膨らませてしまう。
「そーゆーとこ」
ぷしゅ、と、膨らんだほっぺたが君の両手に挟まれて潰れる。そのまま、ムニムニと揉まれる。
「可愛いんだよ、全部」
ぱっと、手が頬から外れる。すると今度は、頭をわしゃわしゃと撫でられる。
「好きなんだよ、全部」
顔が熱い。
絶対変な顔になってる。
口角が上がって元に戻らなくなってきた。
やばい。
今、絶対顔合わせられない。
顔見られたら舌噛んで死ぬ。
「ほら、顔逸らさないの」
「無理。見ちゃダメ」
「見せて」
「絶対無理!」
するりと背中の重みが無くなる。
それから、にょきっと下から顔が生えてくる。私の足元にしゃがみ込んだ君が、私の顔をのぞきこんでいたのだ。
「もう!」
「なんで向こう向いちゃうの?」
「だって、変な顔になるの。見ないでよ、ばか」
「やだ。見る」
言い出したら聞かないのが君だ。でもほんとにダメなんだってば!
口角が上がりきったまま戻らない。口元の筋肉を少しでも弛めてしまったら、だらしなく口が空いてしまうだろう。気を引きしようとすればするほど、口がムニュッと横に伸びる。顔が湯気が出てしまいそうなほど熱い。
これは不細工を通り越して、不審者すぎる。
「だめー。ダメったらダメなの」
両手で顔を覆う。
指の隙間から君のニヤニヤとした笑いが見えるから、ギュッと目を閉じた。
心臓の音がうるさい。君のにやけ顔と同じくらいうるさい。
こうなったら仕方ない。
「えいっ」
どん。
「これなら見れないでしょ」
思い切って君の胸に飛び込んで、ぎゅーっと君を抱きしめる。君の胸に顔を埋める。
「うん。じゃあこうする」
ぎゅーっと君も私のことを抱きしめる。
息が詰まるほど、力強く。君と私と体温が入れ替わるくらい、しっかりと。
「ねえ」
君の声が、暖かい息が、そっと私の髪を揺らす。
「なあに」
じわじわと私の体の真ん中らへんがあったかくなる。
「ずっとずっと、こうしていたいな」
「うん」
私も。
ずっとずっと、こうしていたいな。
言葉には出さず、もう一度、力強く君を抱きしめる。
解けないように。離れないように。ぎゅっと。
「あ、でもずっとこのままじゃご飯食べられないか」
「お風呂も行けないよ?」
「それは困るね」
こんなことを言い出す君だから、私は好きになったんだ。
こんな君だから、ずっとずっと好きなんだ。
こんな君だから、ずっとずっと愛してるんだ。
だから。
全然言葉は足りないけれど、今はこれだけ言わせて欲しい。
「ずっとずっと、そばにいてね」
「ずっとずっと、そばにいるよ」
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