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空の色
しおりを挟む「フィーネ、知ってる?昔、世界には色ってものがあったんだって。」
僕はぼーっと窓の外を眺めている妹に話しかけた。窓辺のソファーという、その彼女の定位置には僕が入るスキなどありはしない。仕方ないので床に座って本を広げる。
「カルってば、また難しいことを言う。この世界は光と闇で出来ているんだよ。」
僕の事をバカにするかのように、フィーネは威張って言った。
「フィーネは本を読まないから知らないんだよ。昔の世界には色があったんだって。」
「私だって少しは読むよ。」
口を尖らせてフィーネは言う。
「だから色ってなんなの?」
「まあ、そう急かすな。」
「コホン。」と、一つわざとらしく咳払いをしてから続けた。
「例えばさ、光は白、闇は黒なんだって。」
「ふーん。言い方が違うだけじゃん。」
退屈そうに欠伸をする姿はまるで猫のようだ。光の猫。白い猫。
「空の色は『青』って言うんだって。」
「アオかー。」
「赤にもなるんだって。」
「何それ、アカなの?アオなの?」
「どっちにもなるらしいよ。」
「じゃあ、いつがアオなの?」
ぷうっと頬をふくらませてフィーネは言う。
「昼間。」
僕は素っ気なく答えた。
白い空を見て、空の「青」って色を想像してみた。僕は青い空を見たことがない。だから、どんな色なのか想像ができない。本には「すっきりとした気分のようだ」と、書いてあった。きっととても美しい色なのだろう。
「他にどんなものが青って色なの?」
たいして興味も無さそうな声で聞いてくる。パラパラと本をめくりながら僕は答えた。
「海。」
「海も青なのか。」
フィーネは少し難しそうな顔をした。が、すぐに目を輝かかせて言った。
「カル、空も海も青なんだよね?」
その勢いに押し倒されそうになる。
「う、うん。そうらしいよ。」
「じゃあさ、じゃあさ、海をずーっと泳いでいったら、空を泳げるの?」
どこからそんな発想が出てくるのだろうか。想像力だけ、いや、その閃きの鮮やかさには到底敵わない。
「なんで?」
「だって同じ色なら繋がっているんじゃないのかなって。」
「なるほど、そういうことか。」
そうかもしれないな。いや、そうだったらいいな。
「昔の人って青って色の中を泳いでいったのよ。いいな。私も空を泳ぎたいな。」
「僕だって空を泳いでみたいさ。」
フィーネに負けじと言い返す。
「無理だね。」
キッパリ言われて少しムッとする。
「なんでだよ。」
「えー、だってカルはカナヅチでしょ?」
「浮き輪使えばいいじゃないか。というか、それを言うならフィーネだってカナヅチだろ?」
またまたぷうっと頬をふくらませたフィーネは足をバタバタさせた。
「学校のプール泳ぎきったもん。」
海は学校のプールの何百倍もあるのだが……。まあ、いいか。これ以上言うのは大人気ないってものだ。
ぐううっとお腹が鳴る。
「カル、ご飯にしようよ。」
「そうだね。何が食べたい?」
僕達はゆっくりと立ち上がった。
カラフルな世界を夢見ながら、モノクロな世界を歩き出す。
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