推しの隣に転生してしまった

初アフレコ 1

アニメのモブのお仕事が来た。
モブはいわゆる背景キャラで、主要なキャラとは違い名前がつかないことが多い。モブとはいえはじめての対面でのアフレコ。
　本番は明日だというのに緊張で目が冴えてしまった。

不安だ……。

結局私は夜中まで台本を確認していた。

　当日。現場のスタジオに到着する。まだ誰も来ていないようだ。部屋のなるべく隅の方の席を確保し男子トイレに駆け込む。

　朝から胃の調子が悪い。腹痛と闘いながら、持ち込んだ台本とにらめっこする。

　今回呼ばれたのはオーケストラの観客役で、歓声の他に軽く説明も担当する。


控室に戻り、再び台本に目を落としていると先輩方が続々と入室してきた。

「おはようございますっ」

「……おはようございます」

　中には気仙先輩もいた。同じ事務所の先輩は先輩だけのようだ。

　先輩は、入室の時の全体への挨拶以外、口を開くことはない。気怠げで私のことに気づく様子もない。

　声優になって間もない時に会ったきりだから忘れられているのかもしれない。

「気仙先輩、おはようございます。新人の橋本です」 

「ああ……、おはようございます」

　やっぱり覚えているのかよく分からなかった。