推しの隣に転生してしまった

real

「兄さん、ポトフを作ったよ。味見してくれない？　」

　fragranceのボイス収録が始まった。

ローズマリーは青みがかった白い髪をしていて、料理が得意だ。基本的に誰に対しても親切で誠実だが、兄であるペパーミントのことは、とりわけ好きである。

こうして、一つ一つ音声を収録していく中で兄役であるハルトとの掛け合いを想像する。

　後日私の声にハルトのボイスが、自分の投げかけた声に返ってくると思うと、緊張と興奮で声が震えそうだ。

「そこ、もう少し優しい感じでくれる？ 」

クライアントさんと音響監督さんの要望を踏まえて録り直す。

「そうだ、橋本君。今度のフレグランスラジオ、橋本君と清水君がパーソナリティだからよろしくね」

　水を飲んでいた私へ、プロデューサーが唐突に放った言葉に思わずむせ返った。

フレグランス……ラジオ！！

　それはfragranceがラジオ形式でお届けしている配信番組であり、各ユニットが交代でパーソナリティをしている。私とハルト……清水先輩はグループ・ハーブに属しているので一緒にラジオをやるのは自然な流れだが、頭はそう易々とについていかない。

　ついに、推しに会えるんだ。その時ばかりは心の中が乙女に振り切っていた。