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scene6 スポドリの味
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『食べちゃうぞ! 』
『見ていてね』
小さなブースに声優が1人。湧はヘッドホンをつけ、マイクに向かって台詞を読んでいた。
まさに今、ゲームのボイスを録っているのだ。
ゲームのボイス収録は 基本1人ずつ行われる。
声優は、音響監督に指定された台詞を順番に演じていく。
『ショーの始まりだよ!』
今録っているボイスは、女性向けアプリ『剣と魔法のサーカス団』の台詞である。
湧が演じているのは、 擬人化したくまの キャラクター、『ピケ』だ。
ちなみに、高峯も支配人役で出演している。
このコンテンツは、ゲームだけでなく、CDリリース、トークイベントと、様々に発展している。中でもライブは大掛かりだった。
話は2年前に遡る。
「ワン、トゥー、スリー、フォー、 ファイブ、シックス……」
模造刀を持ったまま踊るのはきつい。
今回、ライブの演出では、ダンスと殺陣が織り交ぜられている。
「朝霧さん、カウントに遅れた。もう一回」
かれこれ2時間踊り続けている。湧はダンスが得意だ。しかし、何曲もの振り付けを1日で覚えるのは骨が折れる。
「今の振り、右手が上がり切っていなかったよ。5分休憩したらもう一回ね」
束の間の休み時間。更衣室に駆け込むと、ぐったりと倒れ込んだ。
2週間前にインフルエンザにかかり、ダンス練習を休んだ。自宅療養していたのだ。
そのため、完治した今、都内のスタジオで、1人スパルタ指導を受けている。
ライブ本番まで残り1週間。それなのに覚えるダンスはあと半分も残っている。
果たして、ぶっ続けで練習して上達するのだろうか。
今日はもう終わりにしたい。疲れた……。
「朝霧か。お疲れ」
上から声が降ってきた。
「高峯さん! 」
レジ袋を手に提げた高峯が 更衣室に入ってきた。
この頃の2人は、会ったら挨拶をする程度の仲だ。
「どうしてここに」
「ちょっと用があって。ほら、スポドリ」
頬に冷たいペットボトルが当たる。
湧が見上げると高峯は、はにかんだ。
「あの冷酷なコーチを見返してやれ。お前ならできる」
高峯は湧の頭をわしゃわしゃと撫でると更衣室を出て行った。
あの時のスポーツドリンクの味を、忘れることはない。
ライブは無事に成功した。殺陣もダンスも歌も完璧にやり切り、アンコールまで走り抜けた。
「また、ライブやりますかね」
ボイス収録が終わり、いつもお世話になっている音響監督と言葉を交わす。
「やると思いますよ。 今度は私も見に行きたいですねぇ」
挨拶をして収録が行われたビルを出ると、スマホの通知音がした。
『from マネージャー
BLCDのオファーが入りました』
湧は一つ息をつくと、limeを開いた。
続く
『見ていてね』
小さなブースに声優が1人。湧はヘッドホンをつけ、マイクに向かって台詞を読んでいた。
まさに今、ゲームのボイスを録っているのだ。
ゲームのボイス収録は 基本1人ずつ行われる。
声優は、音響監督に指定された台詞を順番に演じていく。
『ショーの始まりだよ!』
今録っているボイスは、女性向けアプリ『剣と魔法のサーカス団』の台詞である。
湧が演じているのは、 擬人化したくまの キャラクター、『ピケ』だ。
ちなみに、高峯も支配人役で出演している。
このコンテンツは、ゲームだけでなく、CDリリース、トークイベントと、様々に発展している。中でもライブは大掛かりだった。
話は2年前に遡る。
「ワン、トゥー、スリー、フォー、 ファイブ、シックス……」
模造刀を持ったまま踊るのはきつい。
今回、ライブの演出では、ダンスと殺陣が織り交ぜられている。
「朝霧さん、カウントに遅れた。もう一回」
かれこれ2時間踊り続けている。湧はダンスが得意だ。しかし、何曲もの振り付けを1日で覚えるのは骨が折れる。
「今の振り、右手が上がり切っていなかったよ。5分休憩したらもう一回ね」
束の間の休み時間。更衣室に駆け込むと、ぐったりと倒れ込んだ。
2週間前にインフルエンザにかかり、ダンス練習を休んだ。自宅療養していたのだ。
そのため、完治した今、都内のスタジオで、1人スパルタ指導を受けている。
ライブ本番まで残り1週間。それなのに覚えるダンスはあと半分も残っている。
果たして、ぶっ続けで練習して上達するのだろうか。
今日はもう終わりにしたい。疲れた……。
「朝霧か。お疲れ」
上から声が降ってきた。
「高峯さん! 」
レジ袋を手に提げた高峯が 更衣室に入ってきた。
この頃の2人は、会ったら挨拶をする程度の仲だ。
「どうしてここに」
「ちょっと用があって。ほら、スポドリ」
頬に冷たいペットボトルが当たる。
湧が見上げると高峯は、はにかんだ。
「あの冷酷なコーチを見返してやれ。お前ならできる」
高峯は湧の頭をわしゃわしゃと撫でると更衣室を出て行った。
あの時のスポーツドリンクの味を、忘れることはない。
ライブは無事に成功した。殺陣もダンスも歌も完璧にやり切り、アンコールまで走り抜けた。
「また、ライブやりますかね」
ボイス収録が終わり、いつもお世話になっている音響監督と言葉を交わす。
「やると思いますよ。 今度は私も見に行きたいですねぇ」
挨拶をして収録が行われたビルを出ると、スマホの通知音がした。
『from マネージャー
BLCDのオファーが入りました』
湧は一つ息をつくと、limeを開いた。
続く
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