写真と巡る君との世界

四季秋葉

文字の大きさ
上 下
20 / 20
第三章 桜色と白群

19話

しおりを挟む
 プルルル……プルルル

 無機質な音が耳に響く。こういった経験があまり無いからか、とてつもない雑音に聞こえてしまう。

 唐突に、酒木の明るすぎる声が聞こえた。

 『はーい! 電話なんてそっちから掛けてくるの珍しいじゃん! なんかあった?』
 
 「あ……えっと……」

 『月島?』

 僕は暫く悩んだ末、結局酒木に電話することにした。不安が募り、少しでも話したいと思ったからだ。

 こういう時、友人が居て良かったと初めて感じた。今まではそんなの不必要だと思っていたが、案外必要だったのかもしれない。

 「えっと……悪い、こんな時間に電話して」

 『いやいや、まだ早いから! そんな気にするなって』

 「そ、そうか」

 『ところで、明日のことか?』

 「…………うん」

 『え、うんって可愛いかよ! 葵くーん、可愛いじゃーん』

 「……いい加減にしないと切るぞ」

 『そっちから掛けてきたんじゃん! 分かったよ静かにするから、話してみ?』

 「……百瀬に、僕が、告白できると思うか……?」

 『……月島。お前、なんか思い詰めてるだろ。百瀬ちゃんの事だけじゃなくて、月島自身も。今日何があったか知らないけど、もし俺に話して軽くなるんだったら話して欲しい。だって俺等、親友だろ?』

 「親友……」

 『……そうだよ、だから、頼りたい時は無理しないで頼れ』

 この言葉に、泣きそうになる。

 何かを、気兼ねなく話せる人が欲しかった。

 放課後、一緒に遊んだりする事に憧れてた。

 親よりも、もっと身近に、頼れる存在があることを望んでいた。

 ずっと、『友人』だと、『親友』だと言える存在が欲しくて、他の皆が羨ましかった。

 「……親友、か……僕達……うん、うん……酒木」

 『ん?』

 「ありがとう。本当に」

 『……うん、良いんだよ』

 「……実は、今日、早くに両親が帰ってきたんだ。ゆっくり明日の事について考えようと思ってたのに考えられなくて。それで……」

 『……なるほどな。なんとなくだけど、月島の家、ご両親結構厳しいだろ。月島と話してて、最近ちょっとそうかも、なんて思ってたんだ』

 「……」

 やっぱり、分かる人には分かってしまうのか。隠してるつもりだったのに。でも、父が何を思ってるのか、そこまでは分かっていないはず。酒木と百瀬には、この事は隠しておきたい。出来ればずっと。

 『でも、ご両親と百瀬ちゃんの事は別だろ? ご両親の事で月島は負担とか、不安とか、自信が無くなってるのかもしれないけどさ。月島は良いのか? 百瀬ちゃん逃しても。お前、本当に百瀬ちゃんが好きなんだろ?』

 「うん」

 『なら、当たって砕ける覚悟で行け。大丈夫。お前なら大丈夫だから。俺が保証してやる。だから、変な悩み全部忘れて、明日は百瀬ちゃんエスコートして告白するんだ。それで、もうくよくよするな!』

 「……うん……うん……分かった。もう、泣き言は言わない。なんか、スッキリした。本当に、ありがとう」

 『ん! じゃあ、また明日な! おやすみ』

 「嗚呼、おやすみ……いや、ちょっと待て、明日って何だ?」

 『ん? 明日月島のコーディネートするから、午後お邪魔するから……』

 「いや、聞いてないけど……まぁ、分かったよ。午後な……おやすみ」

 酒木の元気な声を聞いて電話を切った。

 確かに、百瀬と両親の問題は別だ。僕も、分かってる。

 そうだ。明日、僕は百瀬に会う。

 夏休みに入ってから、ずっと楽しみにしてた。百瀬に会えること。百瀬の、あの笑顔を見ることが。折角連絡先も交換したのに、まだ一度も連絡した事もない。「何か、メールでも送ってみようか」そう考えたことが何度もあった。下書きだけしてみて、結局送信は出来なかった。百瀬からメールが来るかもと期待してたけど、一度も来なかった。ずっと、会えるのを、明日が来ることを望んでいたのに、いざ明日を迎えようとするとなんとも言えない。

 「百瀬……」

 明日、百瀬に言わないといけない言葉があるのに、その為に準備しないといけないのに、今夜は眠れそうにない。


 ◆


 街が美しい水色とピンクのグラデーションに包まれた時、僕はようやく眠くなってきた。が、実際眠る事はなく、それよりも百瀬に会うことの緊張の方が勝っていた。 まさか、自分がこんなにヘタレだったとは。そんな自分に嫌気を通り越して呆れてしまう。

 ガチャ

 無機質な音が響いた。その後にブロロッという音が僕の耳元まで聞こえてきた。両親が仕事へ行ったんだろう。

 『大事な日なのに、眠れなかった事によって夕方眠くなったらどうしよう』

 こんなみっともない姿を百瀬に晒すわけにはいかない。

 まずは洗面所へ向かう。

 洗面所の鏡に写った自分をみると、案の定と言うべきか顔色が悪い。最悪だ。

 冷たい水で顔を洗ったら、なんだかシャキッとしたような気がする。

 もう一度、自分を見た。なんだか余り変わってないような気がする。自分の顔に手を触れて、頬を引っ張ってみると、本当に「今日」なんだと実感してしまう。

 深く息を吸って、また深く息を吐く。

 僕は、僕なんだ。今更『こうなりたい』なんて憧れたって、どうしようもない。それに、百瀬に出逢ったのがこの『僕』なんだから、僕は僕のまま百瀬に想いを伝えなければならないんだ。

 「僕は、僕だ」

 そう思えただけで、なんだか今日が上手くいくように思えた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

愛する義兄に憎まれています

ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。 義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。 許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。 2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。 ふわっと設定でサクっと終わります。 他サイトにも投稿。

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

処理中です...