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第三章 桜色と白群
19話
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プルルル……プルルル
無機質な音が耳に響く。こういった経験があまり無いからか、とてつもない雑音に聞こえてしまう。
唐突に、酒木の明るすぎる声が聞こえた。
『はーい! 電話なんてそっちから掛けてくるの珍しいじゃん! なんかあった?』
「あ……えっと……」
『月島?』
僕は暫く悩んだ末、結局酒木に電話することにした。不安が募り、少しでも話したいと思ったからだ。
こういう時、友人が居て良かったと初めて感じた。今まではそんなの不必要だと思っていたが、案外必要だったのかもしれない。
「えっと……悪い、こんな時間に電話して」
『いやいや、まだ早いから! そんな気にするなって』
「そ、そうか」
『ところで、明日のことか?』
「…………うん」
『え、うんって可愛いかよ! 葵くーん、可愛いじゃーん』
「……いい加減にしないと切るぞ」
『そっちから掛けてきたんじゃん! 分かったよ静かにするから、話してみ?』
「……百瀬に、僕が、告白できると思うか……?」
『……月島。お前、なんか思い詰めてるだろ。百瀬ちゃんの事だけじゃなくて、月島自身も。今日何があったか知らないけど、もし俺に話して軽くなるんだったら話して欲しい。だって俺等、親友だろ?』
「親友……」
『……そうだよ、だから、頼りたい時は無理しないで頼れ』
この言葉に、泣きそうになる。
何かを、気兼ねなく話せる人が欲しかった。
放課後、一緒に遊んだりする事に憧れてた。
親よりも、もっと身近に、頼れる存在があることを望んでいた。
ずっと、『友人』だと、『親友』だと言える存在が欲しくて、他の皆が羨ましかった。
「……親友、か……僕達……うん、うん……酒木」
『ん?』
「ありがとう。本当に」
『……うん、良いんだよ』
「……実は、今日、早くに両親が帰ってきたんだ。ゆっくり明日の事について考えようと思ってたのに考えられなくて。それで……」
『……なるほどな。なんとなくだけど、月島の家、ご両親結構厳しいだろ。月島と話してて、最近ちょっとそうかも、なんて思ってたんだ』
「……」
やっぱり、分かる人には分かってしまうのか。隠してるつもりだったのに。でも、父が何を思ってるのか、そこまでは分かっていないはず。酒木と百瀬には、この事は隠しておきたい。出来ればずっと。
『でも、ご両親と百瀬ちゃんの事は別だろ? ご両親の事で月島は負担とか、不安とか、自信が無くなってるのかもしれないけどさ。月島は良いのか? 百瀬ちゃん逃しても。お前、本当に百瀬ちゃんが好きなんだろ?』
「うん」
『なら、当たって砕ける覚悟で行け。大丈夫。お前なら大丈夫だから。俺が保証してやる。だから、変な悩み全部忘れて、明日は百瀬ちゃんエスコートして告白するんだ。それで、もうくよくよするな!』
「……うん……うん……分かった。もう、泣き言は言わない。なんか、スッキリした。本当に、ありがとう」
『ん! じゃあ、また明日な! おやすみ』
「嗚呼、おやすみ……いや、ちょっと待て、明日って何だ?」
『ん? 明日月島のコーディネートするから、午後お邪魔するから……』
「いや、聞いてないけど……まぁ、分かったよ。午後な……おやすみ」
酒木の元気な声を聞いて電話を切った。
確かに、百瀬と両親の問題は別だ。僕も、分かってる。
そうだ。明日、僕は百瀬に会う。
夏休みに入ってから、ずっと楽しみにしてた。百瀬に会えること。百瀬の、あの笑顔を見ることが。折角連絡先も交換したのに、まだ一度も連絡した事もない。「何か、メールでも送ってみようか」そう考えたことが何度もあった。下書きだけしてみて、結局送信は出来なかった。百瀬からメールが来るかもと期待してたけど、一度も来なかった。ずっと、会えるのを、明日が来ることを望んでいたのに、いざ明日を迎えようとするとなんとも言えない。
「百瀬……」
明日、百瀬に言わないといけない言葉があるのに、その為に準備しないといけないのに、今夜は眠れそうにない。
◆
街が美しい水色とピンクのグラデーションに包まれた時、僕はようやく眠くなってきた。が、実際眠る事はなく、それよりも百瀬に会うことの緊張の方が勝っていた。 まさか、自分がこんなにヘタレだったとは。そんな自分に嫌気を通り越して呆れてしまう。
ガチャ
無機質な音が響いた。その後にブロロッという音が僕の耳元まで聞こえてきた。両親が仕事へ行ったんだろう。
『大事な日なのに、眠れなかった事によって夕方眠くなったらどうしよう』
こんなみっともない姿を百瀬に晒すわけにはいかない。
まずは洗面所へ向かう。
洗面所の鏡に写った自分をみると、案の定と言うべきか顔色が悪い。最悪だ。
冷たい水で顔を洗ったら、なんだかシャキッとしたような気がする。
もう一度、自分を見た。なんだか余り変わってないような気がする。自分の顔に手を触れて、頬を引っ張ってみると、本当に「今日」なんだと実感してしまう。
深く息を吸って、また深く息を吐く。
僕は、僕なんだ。今更『こうなりたい』なんて憧れたって、どうしようもない。それに、百瀬に出逢ったのがこの『僕』なんだから、僕は僕のまま百瀬に想いを伝えなければならないんだ。
「僕は、僕だ」
そう思えただけで、なんだか今日が上手くいくように思えた。
無機質な音が耳に響く。こういった経験があまり無いからか、とてつもない雑音に聞こえてしまう。
唐突に、酒木の明るすぎる声が聞こえた。
『はーい! 電話なんてそっちから掛けてくるの珍しいじゃん! なんかあった?』
「あ……えっと……」
『月島?』
僕は暫く悩んだ末、結局酒木に電話することにした。不安が募り、少しでも話したいと思ったからだ。
こういう時、友人が居て良かったと初めて感じた。今まではそんなの不必要だと思っていたが、案外必要だったのかもしれない。
「えっと……悪い、こんな時間に電話して」
『いやいや、まだ早いから! そんな気にするなって』
「そ、そうか」
『ところで、明日のことか?』
「…………うん」
『え、うんって可愛いかよ! 葵くーん、可愛いじゃーん』
「……いい加減にしないと切るぞ」
『そっちから掛けてきたんじゃん! 分かったよ静かにするから、話してみ?』
「……百瀬に、僕が、告白できると思うか……?」
『……月島。お前、なんか思い詰めてるだろ。百瀬ちゃんの事だけじゃなくて、月島自身も。今日何があったか知らないけど、もし俺に話して軽くなるんだったら話して欲しい。だって俺等、親友だろ?』
「親友……」
『……そうだよ、だから、頼りたい時は無理しないで頼れ』
この言葉に、泣きそうになる。
何かを、気兼ねなく話せる人が欲しかった。
放課後、一緒に遊んだりする事に憧れてた。
親よりも、もっと身近に、頼れる存在があることを望んでいた。
ずっと、『友人』だと、『親友』だと言える存在が欲しくて、他の皆が羨ましかった。
「……親友、か……僕達……うん、うん……酒木」
『ん?』
「ありがとう。本当に」
『……うん、良いんだよ』
「……実は、今日、早くに両親が帰ってきたんだ。ゆっくり明日の事について考えようと思ってたのに考えられなくて。それで……」
『……なるほどな。なんとなくだけど、月島の家、ご両親結構厳しいだろ。月島と話してて、最近ちょっとそうかも、なんて思ってたんだ』
「……」
やっぱり、分かる人には分かってしまうのか。隠してるつもりだったのに。でも、父が何を思ってるのか、そこまでは分かっていないはず。酒木と百瀬には、この事は隠しておきたい。出来ればずっと。
『でも、ご両親と百瀬ちゃんの事は別だろ? ご両親の事で月島は負担とか、不安とか、自信が無くなってるのかもしれないけどさ。月島は良いのか? 百瀬ちゃん逃しても。お前、本当に百瀬ちゃんが好きなんだろ?』
「うん」
『なら、当たって砕ける覚悟で行け。大丈夫。お前なら大丈夫だから。俺が保証してやる。だから、変な悩み全部忘れて、明日は百瀬ちゃんエスコートして告白するんだ。それで、もうくよくよするな!』
「……うん……うん……分かった。もう、泣き言は言わない。なんか、スッキリした。本当に、ありがとう」
『ん! じゃあ、また明日な! おやすみ』
「嗚呼、おやすみ……いや、ちょっと待て、明日って何だ?」
『ん? 明日月島のコーディネートするから、午後お邪魔するから……』
「いや、聞いてないけど……まぁ、分かったよ。午後な……おやすみ」
酒木の元気な声を聞いて電話を切った。
確かに、百瀬と両親の問題は別だ。僕も、分かってる。
そうだ。明日、僕は百瀬に会う。
夏休みに入ってから、ずっと楽しみにしてた。百瀬に会えること。百瀬の、あの笑顔を見ることが。折角連絡先も交換したのに、まだ一度も連絡した事もない。「何か、メールでも送ってみようか」そう考えたことが何度もあった。下書きだけしてみて、結局送信は出来なかった。百瀬からメールが来るかもと期待してたけど、一度も来なかった。ずっと、会えるのを、明日が来ることを望んでいたのに、いざ明日を迎えようとするとなんとも言えない。
「百瀬……」
明日、百瀬に言わないといけない言葉があるのに、その為に準備しないといけないのに、今夜は眠れそうにない。
◆
街が美しい水色とピンクのグラデーションに包まれた時、僕はようやく眠くなってきた。が、実際眠る事はなく、それよりも百瀬に会うことの緊張の方が勝っていた。 まさか、自分がこんなにヘタレだったとは。そんな自分に嫌気を通り越して呆れてしまう。
ガチャ
無機質な音が響いた。その後にブロロッという音が僕の耳元まで聞こえてきた。両親が仕事へ行ったんだろう。
『大事な日なのに、眠れなかった事によって夕方眠くなったらどうしよう』
こんなみっともない姿を百瀬に晒すわけにはいかない。
まずは洗面所へ向かう。
洗面所の鏡に写った自分をみると、案の定と言うべきか顔色が悪い。最悪だ。
冷たい水で顔を洗ったら、なんだかシャキッとしたような気がする。
もう一度、自分を見た。なんだか余り変わってないような気がする。自分の顔に手を触れて、頬を引っ張ってみると、本当に「今日」なんだと実感してしまう。
深く息を吸って、また深く息を吐く。
僕は、僕なんだ。今更『こうなりたい』なんて憧れたって、どうしようもない。それに、百瀬に出逢ったのがこの『僕』なんだから、僕は僕のまま百瀬に想いを伝えなければならないんだ。
「僕は、僕だ」
そう思えただけで、なんだか今日が上手くいくように思えた。
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