16 / 20
第三章 桜色と白群
15話
しおりを挟む
ジリジリとした暑さで茹だってしまう様な夏。騒がしい蝉の声。全てが完璧と言うような、完璧な夏だ。
中間テスト、期末テストを無事に終え、ようやく終業式を迎えた僕等は、待ちかねていた夏休みに心を踊らせて、クラスの挨拶が終わると同時に足早に帰っていった。僕もそのうちの一人だったのだが。
そして、今に至る。僕は何時もと同じく、百瀬と一緒に帰路に着いていた。
そこで僕は、百瀬に尋ねようか、尋ねないか迷っていることがあった。それは、中間テストの時に言った、ご褒美の事についてだ。
結局あの後、百瀬は何か言いかけて「やっぱり、期末テスト終わってからにする」と言ってそのまま二人で帰った。だから、今日百瀬に聞いてみようと思うんだが、中々言い出せずにいた。
「葵君」
「何?」
唐突に百瀬が声を掛けてきたので、声が裏返りそうになったが、平然を装い落ち着いて聞く。
「あの、ご褒美、私まだ言ってなかったよね?」
「嗚呼、そうだね。決まったのか?」
まるで、今気付いたかのように振る舞う。百瀬には、勘付かれて無さそうだ。
「うん……あのね? 夏休み、私と一緒に、お祭り行かない?」
「お、お祭り……」
「うん、駄目?」
全く予想していなかったことで、焦る。てっきり、「何か買って欲しい」とか、そんな事だと思っていた。だから、返事に少し手間取ってしまった。
「あ、いや、うん……駄目じゃない。良いよ。行こうか、お祭り」
百瀬は、キョトンとした顔で僕を見つめる。それが数秒続いて、ようやく百瀬が話してきた。
「本当に、良いの……? 断られるかと思った」
「何でも聞いてあげるつもりだっから、良いんだよ」
「う、うん! 楽しみだな、お祭り」
百瀬がとても嬉しそうなので、僕も嬉しくなってくる。
夏休みも、百瀬に会える。そんな考えが、特に頭の中で渦巻いている。9月まで、百瀬に会えないと思ってた。でも、その前に百瀬に会える。それだけで、僕は胸が高鳴ってしまっていた。
その後、百瀬を家に送るまで連絡先を交換したり、何処の祭りに行くのか話したりした。
結局決まったのは、近所の神社で毎年行われる花火大会だった。余り大きな祭りではないが、十分楽しめるものだと思う。日にちは、7月28日の土曜日だった。18時頃、僕が百瀬の家の前に行くことに決まった。
百瀬が家に入っていくのを見届け、僕も家に帰る時に考えた。僕は、女の子と、しかも好きな子と出掛けたことなんか一度も無い。一体どうすれば良いのか、僕は混乱することになった。そこで、一番相談しやすい奴に相談することにした。今日は、7月20日。出来れば早い方が良い……確か、彼は土曜と日曜は部活が無かったはず。明日、相談しよう。そう心に決め、『明日相談したいことがある』と言って予定を取り付けた。後は、相談してどうするか決めるだけ。
◆
「……はあ!?」
静かな僕の部屋。だったのに酒木が来てからぼくの部屋は騒がしい音がするようになってしまった。まあ、相談相手に酒木を選んで僕の家に連れてきてしまったのがまず問題だったが。幸い、両親は仕事の為家に居ないことが良かった。こんなに騒いでいたら、何を言われるか分かったもんじゃない。
「何だよ。そんなに驚くことじゃないだろ」
勿論、話したことは昨日の話だ。相談することは、それしかない。ただ、話したら酒木はとても驚き動揺していた。僕だけが何故なのか分かっていなかったらしい。
「月島! お前っ、そんな淡々と話すことじゃないだろ!? どうすんだよ、後一週間だぞ!?」
「分かってるから相談してるんだ。どうすれば百瀬を喜ばせられると思う?」
「何でそんなに冷静で居られるんだ……喜ばすことも大事だけど、もっと大事なことがあるだろ!」
「……! 僕、百瀬と出掛けるのに着ていける服持ってないな」
僕は真面目に答えたつもりだったが、酒木は頭を抱え込んでしまった。何か間違っていたんだろうか。
僕は、服に関しては無頓着な人間だ。今日、酒木の私服を見て僕とは全く違う人間だと思った。
酒木は、ダボっとした黒に近いジーンズに、少し柄が付いている白い薄手のTシャツと、ゆったりとした白いシャツを羽織り、黒のサンダルを履いて来た。そして明るい声で「月島ー、昨日ぶり!」何て言ってきた時、一瞬『誰だろう』と考え込んでしまった程だ。一方僕は、白のシャツに黒のスラックスという、学校の制服の様な服装だ。因みに、冬はこの格好にセーターがプラスされただけ。だから、僕の私服は一年間通して殆ど同じ服しかない。そのことを話してみたら酒木にこれでもかと言う程笑われた。
「あのな、月島? 確かにお前は百瀬ちゃんと出掛ける前に服を買った方が良い。でも、大事なのはそこじゃないんだよ! 月島、百瀬ちゃんの事どう思ってる?」
「好きだ」
こんなに早く自分の口から言葉が出るなんて、自分でも驚いた。
「そうだよな? じゃあ、やることは一つ! 百瀬ちゃんに告白するんだ!」
「え……」
酒木が何を言ったのか、理解するのに数秒かかった。百瀬に、告白? 理解した途端、顔が熱くなってくるのが感じられた。
「こ、告白なんて、まだ、早すぎるんじゃないか?」
「いや、これは一世一代の大チャンスだ! 逆にこのチャンスを掴まないでどうする!? 絶好の機会を逃すわけにはいかねぇ……俺に任せろ! 服とかは俺が選ぶしさ、じゃあ早速作戦を練っていこう」
僕が、百瀬に告白。
僕は自信が無かった。理由は、百瀬は僕の事が好きだっていう確証が無かったから。僕だけが好きで、百瀬が僕の事を好きじゃなかったら、断られたら、僕は百瀬と話すことが無くなってしまうかもしれない。そしたら、ずっとこの気持ちを言わないほうが良いんじゃないか。そう考えてきたから、僕は素直に喜べなかった。
中間テスト、期末テストを無事に終え、ようやく終業式を迎えた僕等は、待ちかねていた夏休みに心を踊らせて、クラスの挨拶が終わると同時に足早に帰っていった。僕もそのうちの一人だったのだが。
そして、今に至る。僕は何時もと同じく、百瀬と一緒に帰路に着いていた。
そこで僕は、百瀬に尋ねようか、尋ねないか迷っていることがあった。それは、中間テストの時に言った、ご褒美の事についてだ。
結局あの後、百瀬は何か言いかけて「やっぱり、期末テスト終わってからにする」と言ってそのまま二人で帰った。だから、今日百瀬に聞いてみようと思うんだが、中々言い出せずにいた。
「葵君」
「何?」
唐突に百瀬が声を掛けてきたので、声が裏返りそうになったが、平然を装い落ち着いて聞く。
「あの、ご褒美、私まだ言ってなかったよね?」
「嗚呼、そうだね。決まったのか?」
まるで、今気付いたかのように振る舞う。百瀬には、勘付かれて無さそうだ。
「うん……あのね? 夏休み、私と一緒に、お祭り行かない?」
「お、お祭り……」
「うん、駄目?」
全く予想していなかったことで、焦る。てっきり、「何か買って欲しい」とか、そんな事だと思っていた。だから、返事に少し手間取ってしまった。
「あ、いや、うん……駄目じゃない。良いよ。行こうか、お祭り」
百瀬は、キョトンとした顔で僕を見つめる。それが数秒続いて、ようやく百瀬が話してきた。
「本当に、良いの……? 断られるかと思った」
「何でも聞いてあげるつもりだっから、良いんだよ」
「う、うん! 楽しみだな、お祭り」
百瀬がとても嬉しそうなので、僕も嬉しくなってくる。
夏休みも、百瀬に会える。そんな考えが、特に頭の中で渦巻いている。9月まで、百瀬に会えないと思ってた。でも、その前に百瀬に会える。それだけで、僕は胸が高鳴ってしまっていた。
その後、百瀬を家に送るまで連絡先を交換したり、何処の祭りに行くのか話したりした。
結局決まったのは、近所の神社で毎年行われる花火大会だった。余り大きな祭りではないが、十分楽しめるものだと思う。日にちは、7月28日の土曜日だった。18時頃、僕が百瀬の家の前に行くことに決まった。
百瀬が家に入っていくのを見届け、僕も家に帰る時に考えた。僕は、女の子と、しかも好きな子と出掛けたことなんか一度も無い。一体どうすれば良いのか、僕は混乱することになった。そこで、一番相談しやすい奴に相談することにした。今日は、7月20日。出来れば早い方が良い……確か、彼は土曜と日曜は部活が無かったはず。明日、相談しよう。そう心に決め、『明日相談したいことがある』と言って予定を取り付けた。後は、相談してどうするか決めるだけ。
◆
「……はあ!?」
静かな僕の部屋。だったのに酒木が来てからぼくの部屋は騒がしい音がするようになってしまった。まあ、相談相手に酒木を選んで僕の家に連れてきてしまったのがまず問題だったが。幸い、両親は仕事の為家に居ないことが良かった。こんなに騒いでいたら、何を言われるか分かったもんじゃない。
「何だよ。そんなに驚くことじゃないだろ」
勿論、話したことは昨日の話だ。相談することは、それしかない。ただ、話したら酒木はとても驚き動揺していた。僕だけが何故なのか分かっていなかったらしい。
「月島! お前っ、そんな淡々と話すことじゃないだろ!? どうすんだよ、後一週間だぞ!?」
「分かってるから相談してるんだ。どうすれば百瀬を喜ばせられると思う?」
「何でそんなに冷静で居られるんだ……喜ばすことも大事だけど、もっと大事なことがあるだろ!」
「……! 僕、百瀬と出掛けるのに着ていける服持ってないな」
僕は真面目に答えたつもりだったが、酒木は頭を抱え込んでしまった。何か間違っていたんだろうか。
僕は、服に関しては無頓着な人間だ。今日、酒木の私服を見て僕とは全く違う人間だと思った。
酒木は、ダボっとした黒に近いジーンズに、少し柄が付いている白い薄手のTシャツと、ゆったりとした白いシャツを羽織り、黒のサンダルを履いて来た。そして明るい声で「月島ー、昨日ぶり!」何て言ってきた時、一瞬『誰だろう』と考え込んでしまった程だ。一方僕は、白のシャツに黒のスラックスという、学校の制服の様な服装だ。因みに、冬はこの格好にセーターがプラスされただけ。だから、僕の私服は一年間通して殆ど同じ服しかない。そのことを話してみたら酒木にこれでもかと言う程笑われた。
「あのな、月島? 確かにお前は百瀬ちゃんと出掛ける前に服を買った方が良い。でも、大事なのはそこじゃないんだよ! 月島、百瀬ちゃんの事どう思ってる?」
「好きだ」
こんなに早く自分の口から言葉が出るなんて、自分でも驚いた。
「そうだよな? じゃあ、やることは一つ! 百瀬ちゃんに告白するんだ!」
「え……」
酒木が何を言ったのか、理解するのに数秒かかった。百瀬に、告白? 理解した途端、顔が熱くなってくるのが感じられた。
「こ、告白なんて、まだ、早すぎるんじゃないか?」
「いや、これは一世一代の大チャンスだ! 逆にこのチャンスを掴まないでどうする!? 絶好の機会を逃すわけにはいかねぇ……俺に任せろ! 服とかは俺が選ぶしさ、じゃあ早速作戦を練っていこう」
僕が、百瀬に告白。
僕は自信が無かった。理由は、百瀬は僕の事が好きだっていう確証が無かったから。僕だけが好きで、百瀬が僕の事を好きじゃなかったら、断られたら、僕は百瀬と話すことが無くなってしまうかもしれない。そしたら、ずっとこの気持ちを言わないほうが良いんじゃないか。そう考えてきたから、僕は素直に喜べなかった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる