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【5】恋(★)
しおりを挟む翌朝。あまりよく眠れなかったルナは、アクビをしながら街角に立った。本日は晴れている。ルナは、ギルの事ばかり考えていた。まだ出会ったばかりだというのに、瞬きをする度にギルの姿が頭に浮かんでくる。
「恋……」
昨日ギルに教えられた単語を口に出してみる。すると頬が熱くなった。
この日は一日中そわそわしながら――も、売り込みをしていた。しかし誰も立ち止まってはくれない。皆、ルナを見ると足早に角を曲がっていくだけだ。陰鬱な気持ちになりながら、ルナは溜息をついた。するとそんな時に、脳裏にギルの顔が浮かぶのである。
「今日も来てくれるかなぁ? 毎日、買いに来てくれるって言ってたし、来てくれるよね……」
呟いたルナは、いつもは寒いから夕暮れは嫌だと思うのに、この日は早く陽が落ちる事を祈ってしまった。そしてギルが歩いてくるだろう方向を見ていた。そちらの道を進むと、王宮がある事を思い出していた。しかし待っているせいなのか、ギルが中々やってこないように感じてしまった。どんどん寒くなっていき、空には星が輝き始める。だが、外套と手袋のおかげで、今までほど辛くは無い。
この日ギルは、月が昇ってから姿を現した。
「まだ仕事をしていたのか。危ないから、もっと早く切り上げたらどうだ?」
「ギルを待っていたの。一緒に帰ろうと思って……」
「一緒に帰る、か。俺はお前の中では、客では無くなったのか?」
「お、お客様だけど……ギルは、ギルなの。特別なの!」
「特別か。悪い気はしないな」
ギルが嬉しそうな顔をした。実際、彼は内心では舞い上がっていた。それから二人は並んで歩きだした。ギルがルナの持つカゴを見る。
「今日は売れたか?」
「全然売れなかった……沢山売れたら、他の商品を任せてもらえる事になっているのに」
「ほう――ならば、俺が全て買ってやろうか?」
「え?」
「お前のためならば、そのくらい安い――……というより、マッチをひとカゴくらい余裕で支払いが可能だ」
「ギルはお金持ちなの?」
「王国騎士団の騎士は、相応の報酬を得ている。よって俺が稼いだ俺の私費だ」
そんなやりとりをしながら、貧民街の小屋についた。ギルは中に入ると静かに言う。
「家も一軒くらい購入可能な貯蓄がある」
「そうなの? すごいのね」
「ここは治安が悪い。引っ越す気は無いか?」
「無いよ。ここが私の家だし、私は家を買うお金を持っていないもの」
ルナがそう言うと、紙袋を置きながら、ギルが嘆息した。それから気を取り直したようにルナを見た。
「昨日の問い、答えは出たか?」
「……っ」
「俺を好きになったか?」
ギルの言葉に、ルナは真っ赤な顔で俯いた。
「あのね。ギルといると、ドキドキもするけど、安心もするの。お昼も、ギルの事ばっかり思い浮かんできて、ずっとギルの事を考えていたんだけど、どうしてギルの顔が浮かんでくるのかは分からなかったの」
「それは、恋だ」
言い聞かせるかのように、ギルが述べる。するとルナは、その言葉がしっくりくるような気がした。
「私、ギルが好きになっちゃったの……そうなのね……」
「好きになってもらえて嬉しいぞ」
ルナに歩み寄ると、ギルがルナを抱きしめた。そしてじっとルナの顔を覗き込む。
「まだご飯を食べていないのに」
「好きになってくれたんだろう? それならば、抱きしめたって良いはずだ」
「……それは、そうだけど」
「嫌か?」
「ううん。困った事に嫌じゃないの」
「何に困ったんだ?」
「もっと一緒にいたくなっちゃう」
ルナの声を聞いたギルは、抑えきれなくなって、ルナの唇を指でなぞった。そして静かに聞いた。
「キス、したい」
「ン」
ルナが答える前に、ギルはルナの唇を奪っていた。触れるだけのキスだった。
それからルナの頬に両手で触れると、ギルが改めて唇を近づける。そして深い口づけをした。ルナの舌を追い詰めて、絡め取る。初めての深いキスに、ギュッとルナは目を閉じた。ギルは震えているルナの腰に腕を回すと、角度を変え、何度も口付ける。
「……ぁ」
唇が離れた時、体から力が抜けてしまい、ルナはギルの胸の服を掴んだ。肩で息をしながら、ギルを見上げる。その潤んでいる瞳に、ギルは背筋がゾクリとした。ルナが欲しい。そう考えながら、ルナを両腕で抱きしめる。
「ギルは……」
「ん?」
「私の事をどう思ってるの?」
「明確に言わなければ伝わらないらしな」
苦笑したギルは一度長めに瞬きをしてから、微苦笑しながら口を開く。
「俺は最初からルナが好きだ」
「本当?」
「ああ。俺の恋人になって欲しい」
その言葉に、小さくルナは頷いた。激しくなった鼓動に困惑しながらも、ギルの言葉を心底嬉しく思った。だからおずおずと、ギルの背中に腕を回してみる。抱き合いながら二人は、視線を合わせた。そうして再びキスをした。ルナの唇をギルが深々と貪る。唇が離れた時、二人の間には透明な糸が線を引いていた。
それから食事にした。この日ギルは、シチューを作ってくれた。キノコが沢山入っていた。スプーンで口に運びながら、終始ルナは表情を緩ませていた。
初めての恋。
シチューの味よりも、そちらに胸が満たされていた。ギルと共にいる空間は、温かい。嬉しくなって、何度もギルを見た。するとギルもルナを見ていた。目が合うと、これまではどちらかというと呆れたような顔が多かったギルが、優しく笑っていた。それがルナの心臓をいつも以上に煩くした。
この日は最後にまたキスをしてから、ギルベルトは帰っていった。
――翌日は曇り空だった。
ルナは、売り込みをしながらも、ずっとギルの事を考えていた。早く会いたい。ギルが顔を出してくれる事を祈っていた。すると……てっきり夕方から夜にかけて訪れると思っていたギルが、昼下がりに顔を出した。他の騎士と一緒である。
声を掛けようかと迷った。だが、仕事中らしく、ギルは同僚の騎士と真剣に話している様子だった。躊躇って、ルナは動きを止める。本来、一介の孤児と、王国騎士団の人間は、関わったりはしないのだったとそこで思い出した。急に、不安になった。身分が違う事を思い出してしまったからだ。目が合ったのは、その時の事である。
柔和にギルが微笑した。
それまでの真剣な顔が、一気に優しく変わる。目を丸くしたルナは、赤面した。
するとすぐにギルの視線はそれて、見回り中の騎士達は立ち去った。
結局話す事は出来なかったが、ギルの顔を見られただけでも嬉しかった。
その日の夜。ルナが本日も待っていると、ギルが紙袋を持ってやってきた。既に食料庫は満ちているのだが、ギルは毎日食材を持参する。ルナの隣に立ったギルは、微笑する。
「今日は売れたか?」
「……売れなかった」
「やはり俺が全て買うか」
「ギルに甘えっぱなしは良くないと思うの。私、もっと頑張る事にする……したいんだけど、ギルの事ばっかり考えちゃうの……」
「俺にとっては嬉しい話だがな」
二人で歩き出しながら、ルナはギルの横顔を見た。どんどんギルを好きになっていく気がしていた。二人で歩くと、冬の夜空の下であっても、温かく感じるから不思議だった。小屋に到着し、ギルは紙袋を、ルナはカゴを置く。するとすぐにギルはルナを抱きしめた。
「ルナが欲しい」
率直にギルが言った。ルナはギルの腕の中で、ギルを見上げる。
「ルナを抱きたい」
「……うん」
ルナは同意した。恋人同士になったのだから――それは、愛を交わすという事だと正確に理解していた。寝台に移動すると、ギルがルナの服を脱がせていく。そしていつかと同じように、首筋に口づけた。すると甘い疼きが体に広がり、ルナはギュッと目を閉じる。ギルの骨ばった指が、ルナの体を撫で、胸の突起に触れた。左胸の乳頭を優しく弾いたギルは、右胸には唇を落とす。左胸を覆うようにしてから、その乳輪をなぞり、右側は唇で挟んで舌をチロチロと動かした。
「ぁ……ぁ、ァ」
そうされると体の奥が熱くなり、思わずルナは声を零す。ルナの胸を愛撫してから、ギルは、ルナの脇腹を撫で、舌先で肌をなぞった。そして片手で太ももを持ち上げると、ルナの蕾に、もう一方の指先で触れる。その後、ゆっくりと舌で蕾を刺激した。
「あ、ああ……ン……んぅ」
初めて芽を愛撫された瞬間、ルナは頭が真っ白になった。カクンと体から力が抜け、秘所から透明な蜜が溢れ出す。
「ぁ……ああ、ダメ、っ、んン!!」
そのまま芽を舌先で転がされ、ルナは絶頂に達した。すると濡れた秘所を、ギルが指でなぞる。そうして指の先端をルナの中に挿入した。ギルの指は、第一関節、第二関節と進み、根元まで入り切ると、ギルはその指をゆっくりと抜き差しした。その後二本に指を増やしたギルは、内部をかき混ぜるように動かす。
「あ……ハ、っ、ッ……う……ぁ」
「辛いか?」
「平気……ン」
丹念に指を動かしてから、ギルがその手を引き抜いた。そして、そそり立っていた陰茎の先端をゆっくりとあてがう。
「あ、あア! ん、あ、あ……ああ……あっ!!」
ギルが挿入すると、指とは全く異なる巨大な熱を感じて、ルナは震えながら目を閉じた。全身が蕩けてしまいそうになる。体が熱い。ギルは奥深くまで陰茎を挿入すると、一度動きを止めた。破瓜の痛みにルナは一時息を詰めたが、すぐにその痛みすらも快感に変化した。シーツを紅い血が僅かに濡らす。
「動くぞ」
「ん、あ……あ、あ……ああ……あ、あ、あ」
ギルの動きが激しさを増していく。すると卑猥な水音が響く。蜜が溢れていく。内部の感じる場所を陰茎で突き上げられて、ルナは思わずギルの体に腕を回した。初めての快楽は甘いが怖い。
「あ、ハ……ン、ん……あ、ああ! あ、あ……ん、ぅ」
「ルナ、愛してる」
「私もギルが好き……ああ!!」
一際強く動き、ギルが放った。同時に感じる場所を突き上げられて、ルナも絶頂に達した。溢れ出した愛液が、二人の結合部分を濡らしている。一度ギルが引き抜くと、白液が垂れた。透明な蜜と精が混じる。
こうしてこの夜、二人は結ばれた。
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