上 下
56 / 80

【56】本性

しおりを挟む

「最初はねぇ、一番つまんないけど、それに一番適当に書いたっぽいけど、一番ちゃんと論文になってるし、ここの大学の平均で言うなら最高か、その次くらいにはなるから、終末論で行っちゃおうかって話してたの。面倒くさいしさぁ。他大と連絡取るとか怠すぎ! 余計なことすんなぁって俺は思ってもいた」
「ご、ごめんなさい……」
「で、焼酎ロックで呑みつつ、話し合ったの。酔っ払いつつ」
「人の大切な卒論をネタに! なんてことを!」
「いやねぇ、ゾンビほどのコメディじゃないし、ちゃんとアレとは違って小説風じゃぁないんだけどさぁ――他はどの卒論にも笑うポイント必ず入ってるんだもん!」
「嘘! 嘘です! 一行も無いです!」
「あったの! まず卒論以前の問題で、プーケット行ったのに爆笑!」
「なんでですか!」
「どうして国内には電話で、国外には直で行くの? 日本国内にもさぁ、色々災害経験地あるんだからさ、復興度の比較とか、時代レベルとか、発展レベルとか、別に国内で良いじゃん! 見に行く方こそ! 電話こそ、海外にかけなよ! 動画くらい送ってもらえば良いじゃん! ロシアはその点、運が良かったね」
「……」
「ちなみにプーケットは、現地で会った青年についての描写、あそこだけは、完全に小説だったし。そこも吹いたわ、そういえば!」
「っ」
「ここいらねぇって爆笑。ボランティアの容姿とかはさ、ヘルメットの有無とかそういう必須項目じゃなかったら、興味ないから! 性格だってさ、傾向とか書くでもなく、比喩だし! つぅかあの部分、俺、確か最初に読んだ時も読み返しちゃった気がする」

 そういえば、先生は、何度か読み返していたかもしれない。
 鏡花院先生は、笑い続けている。

「しかも雛辻さんの比喩、すげぇ失礼なんだもん」
「え!?」
「つぅかボノボによく似た非常に温厚な性格ってどういうことなの? タイだから、そっち系の人だったのかと想像してた!」
「? ど、どういう? ボノボって、攻撃性が低くて優しい動物だって習いました!」
「性行動で喧騒回避するところは覚えてなかったの? それに同性愛する動物!」
「え!」

 私はこの時、はじめてボノボについて詳しく知り、後に新世界よりという小説で、もっと詳しくなった! その小説でテロメアの詳細も知った!

「後、プーケットの現地描写、被災地はともかく、他のいらない部分、あれ何?」
「いらない部分なんかないです!」
「コンビニとか露店とかエステとかビーチの様子、なんで書いたの? ご飯の話とか!」
「復興してる所としてない所があるって言いたかったんです!」
「なるほど。それで気合入れて、また、ああ、あの辺もだ、そうだ、すげぇ気合入った建物の描写をしたんだ! あはは! 意味あったんだ! 写真載せる許可があると良かったねぇ!」
「……」

 先生が、笑いすぎて真面目に泣き出した。
 私は悲しすぎて泣きそうになった。今までなんだと思っていたんだろう!

「でもさぁ、それらの描写の後の『観光地のみ復興している』っていう部分だけ書けば十分伝わるの! あんな描写、いらないの! 特に、コンビニに売ってたカップラーメンが日本よりとてもまずいけど、お外の飲食店のご飯よりましとか、ただの悪口だから! ホテルは豪華なところ取ったのに、ご飯変なところで食べた君達が悪いだけ! 俺も遊び行ったことあるし、ホテルたまたまだけど同じところ取ったことあるから、すっごく分かるよ! あと、色白がモテるそうだとかさぁ、現地の人から聞いたおかしな話もすげぇいらねぇ。性転換手術の考察とか、別の論文でやってほしいし」
「食生活とか、人物の特徴がなきゃ、比較できないです!」
「だとしてもさ、モテ具合とか関係ないだろ!」
「……」
「エステは二つ行ったが、こっちの方が良かった、みたいなところは、なにあれ!」
「……」
「そうそう。うんうん。プーケットの旅行解説本みたいになってた!」

 先生がずっと笑っている。私は、唇を尖らせた。

「つまりさっきの話によると比較って事なのかな、新潟の先生の描写、現地人ポジの親戚の描写、あとは食べ物として、お刺身!」
「その通りです!」
「タイのご飯より新潟のご飯が美味しかったですって、なにあれ! 米どころだからであろうかっていう考察に吹いた! お魚の美味しさは、なぜ同じ海なのに、とか、すげぇ意味不明だし!」
「……」
「あの辺の考察さぁ、今思えば、あれもコメディかも。一部の描写だけ小説風かと思ったけど、逆に、全体的な論文口調を小説風に直したら、面白い旅行記になるんじゃない?」
「一生懸命書いたのに!」
「それは分かった。現地行くほどだもんね! それで上村先生と爆笑した後、電話連絡着てたから、どうしようかぁって話になったんだよね。論文出来たら見せてって言われててさ、これ見せたら、相手激怒しそうだと思ってさぁ! 悩んだよぉ俺たち!」
「……」
「せめてボノボだけ削るか相談した。結構真面目に、これは。ただ新潟の先生の描写はダンディな老紳士っぽいことが書いてあったから、まぁ良いかって言って送ってみたんだよね。大変趣味の良いネクタイをしていたって書いてあったし! そしたらさぁ連絡来たの」
「なんてですか? 怒ってた?」
「違うの、俺達も意味がわからなかった! ある自衛隊駐屯地から電話が来たの!」
「へ?」
「うち出身の心理士が問題でも起こしたのかと思ってヒヤヒヤしながらさぁ上村先生がまず応対して、俺に代われって言うから、チェンジ! 上村先生から内線なんて普通来ないのね、俺たち普通のお友達だからさぁ、で、嫌な予感しつつ雛辻さんしか心当たりないから、死んじゃったのかと思って電話に出たら、幹部候補生とかいうのの試験受けないかっていう誘い! 吹いた。え!? と思って理由聞いたら、臨床心理士じゃなくて、災害派遣する女性自衛官探してて的な話だった。どこでも好きなところに配属するよ、って問題集も送ってくれてたの! で、他の駐屯地で働いてる卒業生の心理士に連絡とって聞いてみたら、好きなところ配属とかまぁ面接ですっごい希望しなきゃないし、そんな理由で探さなくないかって教えてくれて、その人にね、それとなく聞いてもらったの! そうしたらさぁ、新潟の先生が、うちにきた災害心理学の先生に読ませたんだって。『俺、ダンディな老紳士で趣味のいいネクタイらしい』って爆笑しながら。で、それを見た災害心理学の先生は自分の教え子がボノボとか書いてあったから、また爆笑。それで、その時一緒にお酒飲んでた某駐屯地のなんかちょっと偉い感じの階級の人が、貸しってって言って読み出したんだって。そしたらさぁなんか、わかるわぁって共感したんだって! で、コピーして帰って、その駐屯地で回し読みしたんだって! ネクタイの趣味に同意見だったのかな!?」
「はぁ!?」
「けど、さっすがは自衛官! 読んだ中には、真面目な人もいた! その人は、お酒を飲みながら、なんて良い話なんだって言って泣いてたらしいよ!」
「本当ですか!?」
「うん。タイの人は、日本人だって分かると、優しくなりました! って部分まる三ページくらいで!」
「ええええええ!」
「愛国主義者だったんだろうねぇ。で、あのプーケット旅行記大人気になったから、声かけてみるかって話だったみたいだよ。断ると思ってたけど、断ってたし、あっちの狙い通りになったし、なんかね、いつか筆者が来るらしいって盛り上がって飲み会やったらしいよ」
「へ、へぇ」

 それまで、現場の人の気持ちがよく分かるって、別の意味だと思っていた私は、とても反応に困った!

「それでねぇ原子力のほうは、ボロクソに書いてあったから、俺たち爆笑。念のため調べたら、やっぱり訂正の論文書いてたから、意地悪な俺と上村先生は、直接アポとって会いに行って、学生にボロクソに過去の論文っつてもそいつがすでに現職時のやつ言われてますよって教えてあげたの。もちろん丁寧な口調の遠隔表現で。ちゃんと、訂正した方はまだ学生読んでないみたいって伝えてあげたし。ただ俺と上村先生、相手の反応が楽しみすぎて、ずーっと笑いこらえてた」
「なんて事をしてくれたんですか!」
「いやそれがさ、意外と冷静で――逆に俺たちが困ったの、その後。その学生って、就職先決まってんのかとか院行くのかとか聞くわけ。個人情報だから言えないっていって、なんでって聞いたら、こっちで雇いたいっていうのね、すげぇ冷静に」
「え」
「俺達も、どうしてですかって聞いたの。そんなにあの理論に自信あったんですかって遠まわしに聞いたの! 学生レベルじゃ分からんって意味かなって思って。そうしたらさぁ」
「はい」
「人手不足で、例の誘われた所で働いてくれる人少ないし、特に女の人がいないって言い出した!」
「えー!?」
「めちゃめちゃお給料良いから! って言い出した!」
「はぁ!?」
「本音で話すけど、頼むから一回説得させて! って言われたから、仕方ないから、来て良いよって大学に連れてくる事にしたのね。もう自衛隊の旅行記ファンの人は来る日取り決まってたから、その日ってことで!」
「……」
「当日はなんか真面目なフリしてたけど、あの人、絶対ダメ人間! ただ、まぁ、よく俺達喋ってないのにあんなに詳しく君の情報集めてきたなぁと感動したよ。そういう所は、さすがって感じ」
「……」
「ちなみに最後の某団体の人はね、真面目に評価してた! 良かったね! けど、あれも少し、適当感あったよね!」
「まぁ、プーケットと原子力書いた直後で、ちょっと疲れ気味ではありました!」
「きっとそれが良かったんだね」
「……」
「実はあれはさ、ボノボ青年が、くっ、笑う」
「ちょ」
「んー、なんかね、卒論でプーケットにきちゃう行動力の学生いたんだけど、来る時期が卒論書くには遅いから計画性なさそうだし、誰かが行き先とかやり方とか教えてあげないとボランティアとか無理そうだから、ちと見てきてって、あの団体で働いてる人に頼んだんだって!」
「え」
「俺たちはさぁボノボ青年の関係者だとは知らなくて、きっと原子力か災害心理学の先生のどっちかから話が行ったんだろうって思ったのね! けどどっちか不明だった。それで、二人に他の論文もあるって事前に言ってあったから、それを見に来たと思ったんだよ。それで、どっちの場合でも他に当たる、デマに関する論文を見せたわけだ」
「ど、どうでした!?」
「君の命は完璧に助かるだろう! 絶対災害があっても、よほどの不測の事態じゃなきゃ死なない! って、感動してたよ」
「……」
「自宅に君、どんだけ防災用品揃えたの? 練炭とか買ってるくせにさぁ! まぁ災害時にも七輪は、役立つかもねぇ! 俺もう、そこで吹いた。思考回路がよく分かんないんだもん。死にたいのか生きたいのかどっちなの!?」
「……」
「しかもさぁ、助かるの、君だけらしいの! 全員その場で爆笑! デマを回避する方法とかさぁ、なんつぅか、普通は社会心理学的にさぁ、こう全体の行動とかで書くじゃん? 傾向とかさぁ! けど君『こういうセリフを聞いたら危険です』みたいなさぁ! 具体的な詐欺予防書!? 私は絶対行きませんみたいな! 俺たちは専門家じゃないし、君は社会とか行動じゃないから、まぁ、ポイント書いてあるのかなくらいに思ってたら、その人が笑いながら、これ絶対本人は助かるけど、周囲は無理だって言いだしてさぁ! そこから俺たち三人で飲みに行ってずっと爆笑! 専門家の解説によると、あれを読んでも、君一人の命しか助からないみたい! 念のためさぁ、もう一人くらい無理ですかって聞いたら、無理だって断言! で、この手の人、つまり雛辻さんは、言葉がわからない場所でもなんとかなるタイプなので、ぜひって言われて、俺たち誘うのOK出した! できればさぁ、やっぱさぁ、自分だけじゃなくて周りも助けてよ! ね? だから、そのうち気が向いたら行って、もっといっぱい助ける方法、お勉強した方が良いと思うんだよ俺!」
「ど、努力します……そういえば、あの時、先生、深刻そうな顔してませんでした? ずーっと黙ってたし!」
「だってさぁ、君の力作で、残ってるの、江戸じゃん?」
「はぁ」
「専門家に見せた結果さぁ、唯一真面目に評価されたのも君一人しか助からない論文だしさぁ」
「……」
「無論声かけてくるくらいだから、他もそれなりに良いのは分かるんだよ? けど、理由で論文の中身を正確に評価してるの、君一人が助かる防災対策じゃん? 俺、どうしようかと思っちゃったの! まぁでも三つとも、就職的には良いかなって感じじゃん? で、ゾンビは有り得ないから、最初に上村先生と相談した終末論、やっぱり客観的に考えると一番なんだろうなぁって思ったの。俺は君と違って常識的だから。けどねぇ――」
「はぁ……」
「ぶっちゃけ終末論つまらないんだもん! 江戸はとっても俺的に面白かったの! だけど江戸の面白さは、誰かの解説付きじゃないと分からないと確信してた! どうしようかと悩んだ! で、ちょっと面倒になったから、君に選ばせたら、江戸になったの! 俺と君、比較的趣味合うよね。だって俺の講義を面白くて取るとか、頭変」
「……」
「ま、他の奴らがつまらんのだろうけれどなぁ」
「それはかなりあります!」
「本音だと受け取っておくよ。つか、本音だと分かる。だって、俺、他を見に行ったんだもん。君、別の本読んでたし!」
「う」
「へぇ漫画も読むんだと思って、どんな内容かなって検索してみて吹いた」
「え、え!?」
「カバー裏返しにしてたやつ」
「……? 大学で読んだ漫画? ……――あああああ!」
「裏返しにしてたってことは、隠してたの? 読むイメージないし!」
「違うんです! あれ、知人が描いたんです! で、最初からカバーあの状態で、私にくれたんです!」
「え」
「漫画家さんなんです!」
「ほー! 何系の知人?」
「地元の!」
「……ようするに、君の地元は、プーケット的コメディ書くセンスにあふれた人が多いんだね!」
「はぁ!? あっちはコメディだけど、私のは違います! 先生読んだの!?」
「うん。面白かったから、出てる巻全部買っちゃった。どんどんつまらなくなってった! すっごく久しぶりに漫画読んだけど、別の漫画を買って見る気も起きないから、当分仕事でもなきゃ読まないって気にさせられた!」
「そういうこと言わないであげて!」
「そういえば、君のゾンビコメディもどんどんつまらなくなるよね!」
「……」
「あきっぽすぎ! 最後まで頑張って書いて!」
「……」
「さて、江戸。俺はすごく良いと思った! きっと、終末論を書いた後だったのもあって、疲れていたのか、いいや、慣れたと思おう、書き方も、論文的だった! 文化に関してとかも良かった。当時の風俗とかさぁ対策とか、その辺もOK。なにより、ちゃんと、心理学の理論を使って、鯰絵と人々の心理状態を考察していた。俺多分、あれ、当たってると思うよ。きっとそうだったと思った。けどさぁ、解説者いないと、その辺のオカルト本みたいな感じになっちゃってる気がしたの」
「え」
「スピリチュアル系っていうの? 霊性を変な解釈で使ってる関連書籍。うっすいわけわからんやつ!」
「ああ……ありますよね。本屋さんの心理学の本の隣にだいたい置いてあるやつ」
「それそれ。けど、加筆するところないし、必要な理論俺が知ってる物全部使ってるし、修正しようがないんだよね。根拠もある。なのに、オカルトにも読めるの。ま、心理学自体がオカルトみたいなものっちゃそうだけどね! なぜオカルトに見えるかって言ったら、そりゃ鯰絵が災害的オカルトモティーフとして今も残ってるから。今でもその説信じてる人いっぱいいる。で君はさぁ、当時の信じ方と現在の信じ方の違いに触れてるところで、民俗学情報ぶっ込んできて、さらに比較神話学情報もぶっ込んできて、最終的に分析心理の情報もぶっ込んで、論破してるの。かなりその通りだと思ったけどさぁ、その部分だけ別の学問入っちゃってる。でもそこがないと、比較できなくなっちゃう! 正しいこと言ってるけど、すっごい面倒なことになってた! つまり解説者がいないと、この大学が全面拒否してる超心理学系統のほうが近いとすら言える論文になっちゃうので、他の先生に読まれた時にね、大変だなって思ったの。君の論文読みたがってる人大勢いたから! みんな君がコメディ小説家だとは知らないから!」
「……」
「そこで優しい俺は、面白かったから自分でも原本読みたかったのもあって、それを読んだ後で、解説書を書いたの。それを上村先生に見せたら、やっと、意味を理解してくれたのね、君の論文の!」
「えええ」
「結果、俺の解説書付きで、他の先生方も読んだよ。いやぁ俺いなかったら、大変だったんだからなぁ! 感謝しろー!」
「あ、ありがとうございます!」
「ちなみに俺の解説書、読む?」
「読みたいです!」

 すると先生が、笑顔で一冊の書籍を取り出した。
 首をひねりつつ受け取り、著者名を見たら、先生だった。

「出版されちゃった!」
「なっ」
「ちゃんと君の理論の解説書だって書いておいたから!」
「えー!」
「君の理論の方も載せてくれって言ったら、俺の方だけで良いですって。ごめんね!」
「……いえ、別に、そこは良いけど、え!?」
「俺文才あるの。つぅか俺、絵より文章評価すげぇ高かったの。ごめん、完全にあれの力!」
「な、えええええ!?」
「つまり君はそっち方面にはあんまり能力無いんだよ! 少なくとも俺よりは無い! そして文才も読解力もある俺は、君をコメディ小説家だと確信してる。コメディ書くとうつになるのか、うつっぽい人のコメディが面白いのかは知らないけどさ、小説書く人ってうつっぽい人結構いて、俺何人も診たけど、九割は、絶対コメディ書くべきなのにシリアス書いてた! なんでなんだろう!」
「適当に書いた時は面白いって言われます!」
「でもゾンビ、真面目に書いたんでしょ?」
「っ」

 反論出来なかったので、とりあえず読んでみた。
 ポカンとした。

「先生この本面白いです! すごい! すっごく面白い!」
「やっぱり? 俺もそう思う。だって君の論文、面白かったもん!」
「いや、1mmも私の論文の要素が無いです!」
「ほら君読解力ないじゃん!」
「先生の解説が間違ってるんですよ、きっと!」
「じゃあ説明してあげるよ!」

 結果、先生の説明は、全て私の言いたい事だった!
 私の使った理論の一番簡単なものを易しく書いていた。
 逆に、私が使った易しい理論は、難しく書いていた。
  そして、私が人生で読んだどの本よりも、読みやすかった!

「私、先生は小説家になれると思います!」
「これが小説に見えたの?」
「はい! でも、解説書だって知ってるし、教科書出してる出版社です!」
「君は文章の勉強をもう一回やった方が良いみたいだ! これ、今年から、君が最初に連絡した先生の講義の、教科書の一つになってるから!」
「ええええええええええええええええ!」
「俺すごくね? いや、まぁ、君がすごいんだけど、でも、すごくない? 俺」
「す、すごいです!」
「その先生と話し合ったけど、多分、この理論、近いうちに広まる。そうしたら、提唱者として、載せるから! それまでは、生きてて! 歴史に名を残して教科書に名前出るまで死んじゃダメなんでしょ!?」

 先生がニヤニヤした後、また吹き出した。
 そしてハッとして、先ほどのことを思い出した。




しおりを挟む

処理中です...