69 / 77
第65話 伊吹の世界の神様
しおりを挟む
ノジャにさようならと言われて、次に目を開けた時には自分のいた世界……日本にいた。
でも、母さんにも弟の純にも、俺をまるで知らない人のように扱われた。
ノジャや杏奈たちがどうなったかとか、何で母さんたちがあのような態度なのか、わからない事だらけだ。
「君、大丈夫かい?」
俺は聞き慣れた声に話しかけられて、真正面を見た。
「兄貴……」
「兄貴? えっと、誰かと間違えている?」
弓也……俺の兄貴がいた。
やっぱり、俺を知らないという顔をしていた。
「変わった格好しているし、もしかして、失礼かもしれないけれど、ホームレスかな? 俺より若そうだけど」
「俺のこと、覚えていない?」
俺は、恐る恐る聞いてみた。
「ごめんね。君のことは知らない。誰かと間違っているよ?」
俺はショックで声が出せなかった。何か言いたいが、頭が働かない。
「市役所が近くにあるから、相談した方がいいよ。じゃあね」
兄貴はそう言って、去ってしまった。
「兄貴……」
「お前」
また、話しかけられた。
次は誰だと思い、声の方を向いた。
誰もいない。右側には誰もいなかった。
「どこ?」
「なぜ、ここにいる」
頭に響くような声だった。
「この世界に要らぬ者」
「どういうこと?」
「お前は死ぬ運命だった。それを異界の神が捻じ曲げた」
答えてはくれるらしい。
「秩序を正さねば。お前はこの世界にふさわしくない」
「言っている意味がわからない!」
「……死ぬ運命。お前はもうこの世界に存在しない」
「存在しているだろ! それで……え、もしかして、母さんたちが俺のことを忘れてるのって、そのせい?」
「そうだ。お前のいた痕跡は私が消した」
「何で、そんな周りくどいことを?」
「私は人を殺せない」
説明してくれるのは、ありがたいが、姿が見えないので、俺は独り言を言う浮浪者に見えているだろう。
「また異界に飛ばしても戻ってくる可能性はあるか」
「あの、俺は忘れられたままってこと?」
「一度忘れたものは思い出せない」
何ということだ。俺は、家族から忘れられて、それを思い出すことはないらしい。
「どうしようもないの?」
「お前はもうこの世界には不要だ」
話が噛み合っていない気がする。
とにかく、俺の存在の証拠はこの世界から消されたということがわかった。
「そういえば、あなたは誰?」
「この世界の神だ」
神様だった。無礼なことをしてないだろうか。多分、大丈夫だとは思う。
「もう二度とこの世界に帰ってこないと誓うなら、好きな世界に送ってやってもいい」
「え?」
そんな事を飲み込めるのか?
でも、ノジャがどうなったのかは気になるし、杏奈たちも無事なのだろうか気になる。
イマジン界に帰るには、この神様の言うことを聞くしかないのだろう。
でも、二度と自分の故郷に帰ることは許されなくなる。
「最後に、最後に家族の顔を見たいです」
「……忘れられていたとしてもか?」
「はい」
そう言うと、空から光の粒が降ってきた。
「少しの間だけ、透明になり、どんな物質も貫通できる。こっそりなら、見ることを許そう」
神様だからなのか、慈悲深い。今まで、出会ってきた中で一番神様らしいかもしれない。他の神様に失礼かもしれないが、そう感じた。
俺は再び自分の家に戻った。
玄関を易々と通り抜け、家の中に入る。
本当に透明になっているみたいで、家の中にいる家族は誰も気づかなかった。
母さん、父さん、純。それに兄貴もいた。
兄貴は一人暮らしをしている大学生で、今はたまたま帰ってきているのだろう。
楽しそうに食卓を囲む家族。
俺がいなくなって、寂しい思いや辛い思いをしているのではないかと思う時もあったが、忘れているのなら何も辛い事はない。
俺はそれを少しだけ見つめて、家から出た。
でも、母さんにも弟の純にも、俺をまるで知らない人のように扱われた。
ノジャや杏奈たちがどうなったかとか、何で母さんたちがあのような態度なのか、わからない事だらけだ。
「君、大丈夫かい?」
俺は聞き慣れた声に話しかけられて、真正面を見た。
「兄貴……」
「兄貴? えっと、誰かと間違えている?」
弓也……俺の兄貴がいた。
やっぱり、俺を知らないという顔をしていた。
「変わった格好しているし、もしかして、失礼かもしれないけれど、ホームレスかな? 俺より若そうだけど」
「俺のこと、覚えていない?」
俺は、恐る恐る聞いてみた。
「ごめんね。君のことは知らない。誰かと間違っているよ?」
俺はショックで声が出せなかった。何か言いたいが、頭が働かない。
「市役所が近くにあるから、相談した方がいいよ。じゃあね」
兄貴はそう言って、去ってしまった。
「兄貴……」
「お前」
また、話しかけられた。
次は誰だと思い、声の方を向いた。
誰もいない。右側には誰もいなかった。
「どこ?」
「なぜ、ここにいる」
頭に響くような声だった。
「この世界に要らぬ者」
「どういうこと?」
「お前は死ぬ運命だった。それを異界の神が捻じ曲げた」
答えてはくれるらしい。
「秩序を正さねば。お前はこの世界にふさわしくない」
「言っている意味がわからない!」
「……死ぬ運命。お前はもうこの世界に存在しない」
「存在しているだろ! それで……え、もしかして、母さんたちが俺のことを忘れてるのって、そのせい?」
「そうだ。お前のいた痕跡は私が消した」
「何で、そんな周りくどいことを?」
「私は人を殺せない」
説明してくれるのは、ありがたいが、姿が見えないので、俺は独り言を言う浮浪者に見えているだろう。
「また異界に飛ばしても戻ってくる可能性はあるか」
「あの、俺は忘れられたままってこと?」
「一度忘れたものは思い出せない」
何ということだ。俺は、家族から忘れられて、それを思い出すことはないらしい。
「どうしようもないの?」
「お前はもうこの世界には不要だ」
話が噛み合っていない気がする。
とにかく、俺の存在の証拠はこの世界から消されたということがわかった。
「そういえば、あなたは誰?」
「この世界の神だ」
神様だった。無礼なことをしてないだろうか。多分、大丈夫だとは思う。
「もう二度とこの世界に帰ってこないと誓うなら、好きな世界に送ってやってもいい」
「え?」
そんな事を飲み込めるのか?
でも、ノジャがどうなったのかは気になるし、杏奈たちも無事なのだろうか気になる。
イマジン界に帰るには、この神様の言うことを聞くしかないのだろう。
でも、二度と自分の故郷に帰ることは許されなくなる。
「最後に、最後に家族の顔を見たいです」
「……忘れられていたとしてもか?」
「はい」
そう言うと、空から光の粒が降ってきた。
「少しの間だけ、透明になり、どんな物質も貫通できる。こっそりなら、見ることを許そう」
神様だからなのか、慈悲深い。今まで、出会ってきた中で一番神様らしいかもしれない。他の神様に失礼かもしれないが、そう感じた。
俺は再び自分の家に戻った。
玄関を易々と通り抜け、家の中に入る。
本当に透明になっているみたいで、家の中にいる家族は誰も気づかなかった。
母さん、父さん、純。それに兄貴もいた。
兄貴は一人暮らしをしている大学生で、今はたまたま帰ってきているのだろう。
楽しそうに食卓を囲む家族。
俺がいなくなって、寂しい思いや辛い思いをしているのではないかと思う時もあったが、忘れているのなら何も辛い事はない。
俺はそれを少しだけ見つめて、家から出た。
0
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~
鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。
そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。
母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。
双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた──
前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる