53 / 77
第49話 伊吹、トーマと出会う
しおりを挟む
ザサツ界とはお別れだ。
魔法陣を描くのは、行きよりも早かった。空真が異世界の話を聞かせてくれたお礼と言って、手伝ってくれたからだ。
「またな、伊吹」
空真は、あっさりと言った。
「ずっと思ってたんだけど、異世界ってこんなにすんなり行き来できるものなのか?」
「俺は神にこの世界に閉じ込められているから、わからん」
空真はつまらないと言い、横を向いた。
カルメとリンの方を見ると、頷いた。
「環境に寄りますよ。僕たちは異世界へはよく行きます」
「行けない人の方が多いと思うぜ」
「元の世界に戻ったら、カルメたちには会えなくなるのかな」
そう言うと、ノジャがポンと肩を叩いてきた。
「わしが何とかするぞ」
「ノジャには無理だろ」
「無理じゃないわ!」
ザサツ界への別れは、空真とだけ行う。
豊たちは、街や山の修繕に追われているらしい。
魔法陣に乗ろうとした時、誰かの気配がして、振り向いた。
それは俺だけではなかったらしく、全員が扉の方を見ていた。
「聖星ドラゴンを倒したのって誰かな?」
白い長髪を左に結った中華風の服を着た男がいた。
「トーマ」
空真がそう言うと、トーマと呼ばれた男は一歩前に出た。
「歴史上なかったとは言わないけど、珍しいじゃないか。記録したいな」
トーマはリンのところまで歩くと、じろじろと不躾に見る。
「僕は手伝っただけですので」
「俺は君たちの役に立つと思うけど?」
トーマはニヤリと笑い、空真に顎で合図をしていた。
「彼はトーマ。未来界から来ている記録係だ」
空真の言葉にカルメとリンは驚いたような顔をした。
「未来界! それって」
「伊吹さん。僕たちが今から探そうとしていた人も未来界の人なんですよ」
ということは、手間が省けたってことか?
俺たちは今の状況を説明した。
トーマは時折楽しそうにしながら聞いていた。
「大体わかった。アイズ様を探すってことね。未来界に行くだけなら、俺でもできるよ? さあ、ドラゴンについて教える気になった?」
「俺たちはアイズって人を探すんだっけ?」
俺は疑問をぶつけてみた。
「そうそう。アイズが未来界の神で、神界に行くために未来界を通らないと行けないから、許可を取らないとね」
カルメがそう言うと、トーマは首を横に振った。
「許可なんて取らなくても良いんじゃない? 俺なら、権限あるよ」
「権限?」
「未来界から神界に行く許可は俺でも出せるってわけ。神界まで行けば、どんな世界のことでもわかるさ。伊吹、君の世界についても」
「それなら、トーマに頼もうよ!」
俺はつい声を張り上げてしまった。ちょっと恥ずかしい。
「うーん。リン、どう思う?」
「一度、イマジン界に帰って考えたいですね。杏奈さんたちの意見を聞きたいです。アイズさんに会ったことは僕はないので」
カルメの言葉にリンは少し消極的だった。
「まあ、慎重になるのもわかるけど。じゃあ、俺もイマジン界に行くよ。記録は空真に頼んでおくから」
「何で、俺だよ。めんどくさ」
「少しの間だけさ」
「お前の少しは少しじゃない。あと、お前はドラゴン倒したやつと戦いたいだけだろ」
「あ、バレた?」
トーマは笑いながら、リンを見た。
「どう? 条件を飲んでくれるかな?」
リンは下を見てから、トーマに向き直った。
「イマジン界に帰ってから返答します」
「うーん。お堅いね。いいよ、まずは行こうか」
俺たちは、トーマを連れてイマジン界に帰ることになった。
イマジン界に帰ると、ちょうどギルドの講堂に着いた。講堂の中には杏奈がいた。
「みんな! 戻ったのね!」
「杏奈。もしかして、待ってた?」
俺がそう聞くと、杏奈は照れたように頷いた。
「仕事の合間によく来てた。無事で良かった~。……って、トーマ?」
「やあ、杏奈ちゃん。元気してる?」
「元気だけど……」
杏奈は顔を曇らせた。
「何があったの?」
魔法陣を描くのは、行きよりも早かった。空真が異世界の話を聞かせてくれたお礼と言って、手伝ってくれたからだ。
「またな、伊吹」
空真は、あっさりと言った。
「ずっと思ってたんだけど、異世界ってこんなにすんなり行き来できるものなのか?」
「俺は神にこの世界に閉じ込められているから、わからん」
空真はつまらないと言い、横を向いた。
カルメとリンの方を見ると、頷いた。
「環境に寄りますよ。僕たちは異世界へはよく行きます」
「行けない人の方が多いと思うぜ」
「元の世界に戻ったら、カルメたちには会えなくなるのかな」
そう言うと、ノジャがポンと肩を叩いてきた。
「わしが何とかするぞ」
「ノジャには無理だろ」
「無理じゃないわ!」
ザサツ界への別れは、空真とだけ行う。
豊たちは、街や山の修繕に追われているらしい。
魔法陣に乗ろうとした時、誰かの気配がして、振り向いた。
それは俺だけではなかったらしく、全員が扉の方を見ていた。
「聖星ドラゴンを倒したのって誰かな?」
白い長髪を左に結った中華風の服を着た男がいた。
「トーマ」
空真がそう言うと、トーマと呼ばれた男は一歩前に出た。
「歴史上なかったとは言わないけど、珍しいじゃないか。記録したいな」
トーマはリンのところまで歩くと、じろじろと不躾に見る。
「僕は手伝っただけですので」
「俺は君たちの役に立つと思うけど?」
トーマはニヤリと笑い、空真に顎で合図をしていた。
「彼はトーマ。未来界から来ている記録係だ」
空真の言葉にカルメとリンは驚いたような顔をした。
「未来界! それって」
「伊吹さん。僕たちが今から探そうとしていた人も未来界の人なんですよ」
ということは、手間が省けたってことか?
俺たちは今の状況を説明した。
トーマは時折楽しそうにしながら聞いていた。
「大体わかった。アイズ様を探すってことね。未来界に行くだけなら、俺でもできるよ? さあ、ドラゴンについて教える気になった?」
「俺たちはアイズって人を探すんだっけ?」
俺は疑問をぶつけてみた。
「そうそう。アイズが未来界の神で、神界に行くために未来界を通らないと行けないから、許可を取らないとね」
カルメがそう言うと、トーマは首を横に振った。
「許可なんて取らなくても良いんじゃない? 俺なら、権限あるよ」
「権限?」
「未来界から神界に行く許可は俺でも出せるってわけ。神界まで行けば、どんな世界のことでもわかるさ。伊吹、君の世界についても」
「それなら、トーマに頼もうよ!」
俺はつい声を張り上げてしまった。ちょっと恥ずかしい。
「うーん。リン、どう思う?」
「一度、イマジン界に帰って考えたいですね。杏奈さんたちの意見を聞きたいです。アイズさんに会ったことは僕はないので」
カルメの言葉にリンは少し消極的だった。
「まあ、慎重になるのもわかるけど。じゃあ、俺もイマジン界に行くよ。記録は空真に頼んでおくから」
「何で、俺だよ。めんどくさ」
「少しの間だけさ」
「お前の少しは少しじゃない。あと、お前はドラゴン倒したやつと戦いたいだけだろ」
「あ、バレた?」
トーマは笑いながら、リンを見た。
「どう? 条件を飲んでくれるかな?」
リンは下を見てから、トーマに向き直った。
「イマジン界に帰ってから返答します」
「うーん。お堅いね。いいよ、まずは行こうか」
俺たちは、トーマを連れてイマジン界に帰ることになった。
イマジン界に帰ると、ちょうどギルドの講堂に着いた。講堂の中には杏奈がいた。
「みんな! 戻ったのね!」
「杏奈。もしかして、待ってた?」
俺がそう聞くと、杏奈は照れたように頷いた。
「仕事の合間によく来てた。無事で良かった~。……って、トーマ?」
「やあ、杏奈ちゃん。元気してる?」
「元気だけど……」
杏奈は顔を曇らせた。
「何があったの?」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜
海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。
そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。
しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。
けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる