【完結】イマジン 準備号〜仲間が強すぎるので、俺は強くならなくて良いらしい〜

夜須 香夜(やす かや)

文字の大きさ
上 下
24 / 77

第24話 慎助とクキヤ

しおりを挟む
 ブリュアさんがいなくなってから、ノジャと椅子に座って待っていると、黒髪をポニーテールにした和装の青年がこちらへやって来た。
「お前たちが伊吹とノジャか?」
「そうだけど」
「俺は慎助しんすけだ。ブリュア殿の代わりに火星での護衛を務めることになった。ウルイァのバカが近くの街にいるみたいで、そいつに引き渡すまでは一緒にいる」
「ウルイァ?」
「ブリュア殿と一緒に護衛をする予定のバカだ」
 言葉の端々にウルイァという人への嫌悪が混ざっている気がした。
「わかったけど、俺たちはその近くの街まで行くのか?」
「そうだな。ブリュア殿もすぐは合流できなさそうでな。バカに先に会わせた方がいいとブリュア殿に言われた」
 もうウルイァをバカとしか言わなくなっている。
「もう夕方だ。出発は明日にしようと思っているが、良いか?」
「ああ。大丈夫」
 俺の言葉に、ノジャも頷いた。
 俺たちはギルドの部屋の一室を借りて、休むことにした。
 火星での料理はとても質素だった。リンからもらった時のパンよりも硬いパンに、野菜が少しだけ入ったスープだ。
 慎助の言い分だと、火星のギルドは見入りが少なくて貧乏だそうだ。火星のギルドは大変な割に、収入が少ないから行きたがる人はいないらしい。慎助は火星の出身だから、よく火星で仕事をしていると言っていた。
 俺たちは夕食を取り終えて……そういえば昼食をとっていなかったので夕食だけでは物足りなかった。とりあえず、明日に備えて寝ることになった。
 俺とノジャは別々の部屋だった。俺は眠れなくて、部屋から出て外の空気を吸いに行くことにした。
 ギルドの受付にはもう誰もいなく、扉に鍵がかかってなかったので、外には簡単に出れた。不用心すぎないかとは思ったが、ラッキーではあった。
 外に出ると、秋だからなのか少し肌寒かった。薄めの上着だと、長時間いると風邪を引きそうだ。
 俺は少しだけ空を眺めてから、帰ろうと考えていた。
 ギルドの外壁にもたれて、空を見た。星々が輝いている。月は……ないよな。火星だし。
「その格好、寒くない?」
 不意に声をかけられて、声の方を向いた。
 腰までの長さの銀髪で前髪パッツンで、腕の袖が異常に長い。女性か?
「今、僕のこと女だと思ったでしょ」
「え! いや、そんな事は」
「僕は男だからね。それより、その格好は寒いでしょ。上着を貸そうか?」
「大丈夫。そろそろ戻るし」
「そうか。僕はクキヤ。君の名前は?」
「伊吹。よろしく……」
 俺は突然話しかけてきたクキヤを信用して良いのか悩んだ。寒そうだと思って、気にかけて話かけてくれたのだろうけど。
「警戒しなくて良いよ。信用できる言葉じゃないかもしれないけれど、このギルドに知り合いがいるし」
「そうなのか。ごめん。警戒していた」
「知らない人に話しかけられたら、そうなるでしょ」
 それはそうだ。クキヤとは気兼ねなく話せる気がした。とりあえずは、信用することにした。
「クキヤは夜中に何をしているんだ?」
「僕は街の夜の外が好きだから。いつもは賑やかなのに、夜になると静かになるでしょ。それが良いんだよね」
 わかる気がする。俺も今の街の状態を、よく感じている。
「俺もそうかも」
「わかってくれる?」
 クキヤは嬉しそうに言った。
「総司さんに言っても、わかってくれないんだよ! あ、総司さんっていうのがギルドの知り合いね」
「へー。いつもは静かじゃない所が、静かなのが良いのにな」
「だよね! 伊吹はわかっているなあ。僕たち、友だちになれそうじゃない?」
「そうかもな」
「そうでしょ! 伊吹はもう友だちね」
 クキヤは嬉しそうに手を上げた。長い袖が垂れ下がっている。
 俺はその時、くしゃみをした。
「う……そろそろ部屋に戻った方がいいかもな」
「そうだね。じゃあ、またね」
「ああ」
 俺はクキヤと別れて、ギルドの中へと戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハズレ召喚として追放されたボクは、拡大縮小カメラアプリで異世界無双

さこゼロ
ファンタジー
突然、異世界に転生召喚された4人の少年少女たち。儀式を行った者たちに言われるがまま、手に持っていたスマホのアプリを起動させる。 ある者は聖騎士の剣と盾、 ある者は聖女のローブ、 それぞれのスマホからアイテムが出現する。 そんな中、ひとりの少年のスマホには、画面にカメラアプリが起動しただけ。 ハズレ者として追放されたこの少年は、これからどうなるのでしょうか… if分岐の続編として、 「帰還した勇者を護るため、今度は私が転移します!」を公開しています(^^)

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

黒猫の復讐はチョコレートの味

神夜帳
恋愛
「先日は誠にありがとうございました。恩返しに貴方様に嫁ぎに参りました」 満月の夜。 久しぶりの酒で泥酔していると、突然鳴る玄関の呼び出しベル。 ドアを開けるとそこには月の光を浴びてきらきらと輝く白無垢姿の女性。 彼女が愛らしくニコっと笑って、被っている綿帽子を外してみればそこには猫の耳。 彼女の胸中がいかなるものであったとしても、この時、斎藤大地の胸の中で何かが弾けた。 人間になった猫は何を想って現れたのか? 異類婚姻譚。 獣が人間に嫁ぐ話は古来より語られる。 現代の日本で、黒猫が社畜の元へ押しかけ女房をする――。 少し不思議な日常に少しだけ愛憎をひとつまみ。 下記の投稿サイトでも掲載中(予定のもあります)  エヴリスタ 挿絵はAIイラストです。特性上細かい指定ができません。 文章中では白無垢となっていてもイラストは白装束になっていたり、同じキャラクターなのに絵柄が違ったりしますが、想像で補っていただけると幸いに思います。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...