12 / 50
第12話 リチャイナ、提案する
しおりを挟む
火の人はさらに燃え盛った。
さすがに、この炎の量には耐えられないのか、青年は火の人から離れた。
「ぐっ……。ヨミに報告しないと」
火の人はそう言って、飛び上がり、火事のあった方向へと行ってしまった。
青年はそれを見送った後、俺たちの方を見た。
「大丈夫かな?」
「はい。大丈夫です」
「杏奈に言われて、僕と同じくらいの背の男の子と小さい女の子がいたら守ってあげてって言われたんだよね。僕はリチャイナ」
「田仲伊吹です」
リチャイナは優しく笑い、手を出したので、俺はそれに応えて握手をした。
「同い年くらいだろうし、敬語はいいよ~。とりあえず、拠点で待ってよ」
火の人と対峙していた時と違い、のんびりとした口調で、落ち着く声だった。
俺たちはリチャイナにうながされて、拠点の中に入った。さっきの拠点と内部はほとんど変わらなかった。
中に何人かの人がいて、リチャイナに話しかけていた。
「火事が落ち着くまで、部屋で待っていようか~」
俺たちはリチャイナに二階の個室へと案内された。
個室はベッドが二つ、クローゼットがあり、トイレも付いているようだ。
椅子が二つ、テーブルが一つある。ノジャはベッドに座ったので、俺とリチャイナは椅子に座った。
特にすることもないので、リチャイナに異世界から来たことについて話すことにした。
「僕は何度か異世界に行ったことがあるけれど、伊吹の世界は知らないなあ」
「リチャイナもか。俺がいた世界はどこにあるんだろう」
「大丈夫。杏奈が何とかしてくれるよ~」
リチャイナは笑顔でそう言った。
「杏奈は困っている人を放っておけないから。そして、それを解決できなかったことはないし、大丈夫だよ」
「……うん」
俺はリチャイナのその言葉を素直に受け取ることにした。いつまでも現実逃避もネガティブもしていられない。少しでもポジティブに解決方法を探さないとな。
俺はベッドに座り込んで項垂れているノジャを見た。
さっきの火の人が来てから、この調子だ。ノジャを狙ってるみたいだったし。
「ノジャ。さっきの人は知り合いなのか?」
「知らん奴じゃ。でも」
ノジャは言い淀んだ。
「言いたくないなら言わなくても良いよ」
「……ありがとうなのじゃ。でも、言うのじゃ」
ノジャは立ち上がり、俺とリチャイナの傍に来た。
「たぶん、あれはわしを狙う奴らの一人なのじゃ。わしは追われていての。これから、わしといれば巻き込まれるのじゃ」
ノジャは息を吐いた。
「伊吹。異世界に帰る手伝いはしてやれんのじゃ。一緒にいれば怪我をしてしまうかもしれん」
「ノジャ……」
その時、リチャイナがパンと手を叩いた。
「なんじゃ?」
「良いこと思いついた~」
「良いこと?」
「何人か護衛を付ければ良いんだよ~。僕は仕事が立て込んでるから無理だけど、その辺りにいるギルドの仲間に頼めばいいんだよ。伊吹を異世界に返すために、ノジャを守るために」
「なんで、俺たちのためにそこまで……」
「困った時は助け合うのが人だし。もし気が引けるなら、伊吹が自分の世界に帰れたら、伊吹の世界の美味しいご飯屋さんを紹介してよ。皆で行こ~」
リチャイナはにこにこしながら、楽しそうに言った。
そんな事で良いのか? そっちの負担が大きい気がするけど、俺一人では対処できないし、今は頼るしかないか。
「僕たちのギルドって、幹部の何人かは世界を何回か救っているから大丈夫だよ」
「え? 世界を何回か救っている?」
何を言っているんだ?
「うん。僕も杏奈もリンも」
リチャイナは笑顔を崩さない。まるで、近所の人の悩み事を解決しただけのような言い方だ。
さすがに、この炎の量には耐えられないのか、青年は火の人から離れた。
「ぐっ……。ヨミに報告しないと」
火の人はそう言って、飛び上がり、火事のあった方向へと行ってしまった。
青年はそれを見送った後、俺たちの方を見た。
「大丈夫かな?」
「はい。大丈夫です」
「杏奈に言われて、僕と同じくらいの背の男の子と小さい女の子がいたら守ってあげてって言われたんだよね。僕はリチャイナ」
「田仲伊吹です」
リチャイナは優しく笑い、手を出したので、俺はそれに応えて握手をした。
「同い年くらいだろうし、敬語はいいよ~。とりあえず、拠点で待ってよ」
火の人と対峙していた時と違い、のんびりとした口調で、落ち着く声だった。
俺たちはリチャイナにうながされて、拠点の中に入った。さっきの拠点と内部はほとんど変わらなかった。
中に何人かの人がいて、リチャイナに話しかけていた。
「火事が落ち着くまで、部屋で待っていようか~」
俺たちはリチャイナに二階の個室へと案内された。
個室はベッドが二つ、クローゼットがあり、トイレも付いているようだ。
椅子が二つ、テーブルが一つある。ノジャはベッドに座ったので、俺とリチャイナは椅子に座った。
特にすることもないので、リチャイナに異世界から来たことについて話すことにした。
「僕は何度か異世界に行ったことがあるけれど、伊吹の世界は知らないなあ」
「リチャイナもか。俺がいた世界はどこにあるんだろう」
「大丈夫。杏奈が何とかしてくれるよ~」
リチャイナは笑顔でそう言った。
「杏奈は困っている人を放っておけないから。そして、それを解決できなかったことはないし、大丈夫だよ」
「……うん」
俺はリチャイナのその言葉を素直に受け取ることにした。いつまでも現実逃避もネガティブもしていられない。少しでもポジティブに解決方法を探さないとな。
俺はベッドに座り込んで項垂れているノジャを見た。
さっきの火の人が来てから、この調子だ。ノジャを狙ってるみたいだったし。
「ノジャ。さっきの人は知り合いなのか?」
「知らん奴じゃ。でも」
ノジャは言い淀んだ。
「言いたくないなら言わなくても良いよ」
「……ありがとうなのじゃ。でも、言うのじゃ」
ノジャは立ち上がり、俺とリチャイナの傍に来た。
「たぶん、あれはわしを狙う奴らの一人なのじゃ。わしは追われていての。これから、わしといれば巻き込まれるのじゃ」
ノジャは息を吐いた。
「伊吹。異世界に帰る手伝いはしてやれんのじゃ。一緒にいれば怪我をしてしまうかもしれん」
「ノジャ……」
その時、リチャイナがパンと手を叩いた。
「なんじゃ?」
「良いこと思いついた~」
「良いこと?」
「何人か護衛を付ければ良いんだよ~。僕は仕事が立て込んでるから無理だけど、その辺りにいるギルドの仲間に頼めばいいんだよ。伊吹を異世界に返すために、ノジャを守るために」
「なんで、俺たちのためにそこまで……」
「困った時は助け合うのが人だし。もし気が引けるなら、伊吹が自分の世界に帰れたら、伊吹の世界の美味しいご飯屋さんを紹介してよ。皆で行こ~」
リチャイナはにこにこしながら、楽しそうに言った。
そんな事で良いのか? そっちの負担が大きい気がするけど、俺一人では対処できないし、今は頼るしかないか。
「僕たちのギルドって、幹部の何人かは世界を何回か救っているから大丈夫だよ」
「え? 世界を何回か救っている?」
何を言っているんだ?
「うん。僕も杏奈もリンも」
リチャイナは笑顔を崩さない。まるで、近所の人の悩み事を解決しただけのような言い方だ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる