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第9話 リン、囲まれる
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俺とノジャと杏奈はオーディン様と対峙したあと、お腹が空いたってことで、小さな食堂に来ていた。
外壁はオレンジ色で、しっくいでできていそうだった。中に入ると、俺の世界でよく見た食堂の店内と変わりがなかった。
「そういえば、リンはまだ帰ってこないんだな」
異世界だというのに、店内と同じように変わり映えのないメニューを眺めた。
「頭蓋骨の鑑定でもしているのかしら」
「杏奈! わしはこの唐揚げ定食にするのじゃ!」
ノジャは呑気だ。
「俺も唐揚げ定食で」
まあ、俺も段々と、この状況に慣れてはきてるのかもしれない。
届いた唐揚げ定食を見て、俺は空いた口が塞がらなくなってしまった。
ツルツルの丸い赤や緑の球体が皿に乗っている。
「唐揚げ?」
俺はそれを指さして、杏奈に聞いてみた。
「デクストラタウンの名物! カラフル唐揚げ~。見た目は奇抜だけど、味はしっかり唐揚げよ。伊吹の世界にも唐揚げはあるかしら?」
「あるけど……」
「美味しいのじゃ!」
ノジャは腹が減っていたのか、すでに食べ始めていた。
俺も腹が減っているので、食べたいが。
「スプーンが付いてあるけど」
「スプーンですくって食べるの」
「は、はあ」
俺はそのカラフルな球体をスプーンですくった。
目をつむって、それを口の中に入れた。
「ん! 美味い!」
唐揚げの味、というよりかき揚げに近いかも。この色は野菜の色か? 色んな野菜を入れて、丸めて揚げたような味がする。
「伊吹、美味しいのう」
ノジャは嬉しそうに声をかけてきたので、頷いた。
「次は、その一にするか?」
食事を終えて、食後のデザートを待っている間に杏奈に問いかけた。
「ギルド長に会いに行く?」
「ああ。どこにいるかわからないのが難しい所かもしれないけれど、何もしないのもな」
「わかったわ。全く検討が付かないわけでもないし、探しましょうか」
食後のデザートは普通のアイスクリームだった。普通で良かった。美味しかったとはいえ、脳が混乱するような見た目のカラフル唐揚げばかりだと困るからな。
ギルドの拠点に戻るために街を歩いていたら、噴水の近くに人だかりができていた。
「何かあるのかのう」
ノジャは小さな身長をめいいっぱい伸ばして、覗こうとしていた。
「肩車するか?」
「お願いするのじゃ!」
俺はノジャを肩車してやった。
「おー! お?」
「何か見えたかー?」
「リンがいるのじゃ!」
ノジャが大きな声を出すと、噴水の近くを歩いている人たちがこちらを見た。
「おい。恥ずかしいだろ」
こちらを見ていた人たちは、ぞろぞろと人だかりの方へと歩いて行った。
「リンって、リン様のこと?」
「リン様がこの街にいるのー? うそ!」
男女問わずいた人だかりが増えていった。
「なあ、杏奈」
「リンは有名人なのよ。帰って来ないと思ったら、捕まっていたのね」
杏奈は辺りを見渡してから、口の近くに手を添えた。
「あー! あそこにツトム様がいるー!」
大きな声で叫んだ。
人だかりは一斉に振り向き、杏奈が指をさした方向を見た。
「叫んだら、逃げちゃった。あっちに行ったよー」
リンを囲んでいたであろう人たちは、杏奈が指さした方向へと走っていく。
「ツトム様! ツトム様もいるのー!」
「きゃー! 今日はついているわ!」
「助かりました」
もみくちゃにされていたのか、疲労感のあるリンが人だかりから現れた。
「有名人なんだから、マントくらい被りなさいよ」
「風で飛んでしまって」
リンはずれていた眼鏡を直してから、マントを目深に被った。
「それで、伊吹さんのことは」
「方向性は決まったよ。話はギルドでしましょう」
外壁はオレンジ色で、しっくいでできていそうだった。中に入ると、俺の世界でよく見た食堂の店内と変わりがなかった。
「そういえば、リンはまだ帰ってこないんだな」
異世界だというのに、店内と同じように変わり映えのないメニューを眺めた。
「頭蓋骨の鑑定でもしているのかしら」
「杏奈! わしはこの唐揚げ定食にするのじゃ!」
ノジャは呑気だ。
「俺も唐揚げ定食で」
まあ、俺も段々と、この状況に慣れてはきてるのかもしれない。
届いた唐揚げ定食を見て、俺は空いた口が塞がらなくなってしまった。
ツルツルの丸い赤や緑の球体が皿に乗っている。
「唐揚げ?」
俺はそれを指さして、杏奈に聞いてみた。
「デクストラタウンの名物! カラフル唐揚げ~。見た目は奇抜だけど、味はしっかり唐揚げよ。伊吹の世界にも唐揚げはあるかしら?」
「あるけど……」
「美味しいのじゃ!」
ノジャは腹が減っていたのか、すでに食べ始めていた。
俺も腹が減っているので、食べたいが。
「スプーンが付いてあるけど」
「スプーンですくって食べるの」
「は、はあ」
俺はそのカラフルな球体をスプーンですくった。
目をつむって、それを口の中に入れた。
「ん! 美味い!」
唐揚げの味、というよりかき揚げに近いかも。この色は野菜の色か? 色んな野菜を入れて、丸めて揚げたような味がする。
「伊吹、美味しいのう」
ノジャは嬉しそうに声をかけてきたので、頷いた。
「次は、その一にするか?」
食事を終えて、食後のデザートを待っている間に杏奈に問いかけた。
「ギルド長に会いに行く?」
「ああ。どこにいるかわからないのが難しい所かもしれないけれど、何もしないのもな」
「わかったわ。全く検討が付かないわけでもないし、探しましょうか」
食後のデザートは普通のアイスクリームだった。普通で良かった。美味しかったとはいえ、脳が混乱するような見た目のカラフル唐揚げばかりだと困るからな。
ギルドの拠点に戻るために街を歩いていたら、噴水の近くに人だかりができていた。
「何かあるのかのう」
ノジャは小さな身長をめいいっぱい伸ばして、覗こうとしていた。
「肩車するか?」
「お願いするのじゃ!」
俺はノジャを肩車してやった。
「おー! お?」
「何か見えたかー?」
「リンがいるのじゃ!」
ノジャが大きな声を出すと、噴水の近くを歩いている人たちがこちらを見た。
「おい。恥ずかしいだろ」
こちらを見ていた人たちは、ぞろぞろと人だかりの方へと歩いて行った。
「リンって、リン様のこと?」
「リン様がこの街にいるのー? うそ!」
男女問わずいた人だかりが増えていった。
「なあ、杏奈」
「リンは有名人なのよ。帰って来ないと思ったら、捕まっていたのね」
杏奈は辺りを見渡してから、口の近くに手を添えた。
「あー! あそこにツトム様がいるー!」
大きな声で叫んだ。
人だかりは一斉に振り向き、杏奈が指をさした方向を見た。
「叫んだら、逃げちゃった。あっちに行ったよー」
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「ツトム様! ツトム様もいるのー!」
「きゃー! 今日はついているわ!」
「助かりました」
もみくちゃにされていたのか、疲労感のあるリンが人だかりから現れた。
「有名人なんだから、マントくらい被りなさいよ」
「風で飛んでしまって」
リンはずれていた眼鏡を直してから、マントを目深に被った。
「それで、伊吹さんのことは」
「方向性は決まったよ。話はギルドでしましょう」
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