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第5話 杏奈とリン
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「漂流者ということですかね」
少年、リンがそう言った。
「オーディンが食いつきそうな話かもね」
少女は眉を寄せて、嫌そうな顔をした。
「あ! 灰化が始まったよ」
少女が巨体の男を見ると、男の体が灰のようになっていっていた。頭蓋骨たちや腰巻は残っている。
「え? どういうこと?」
「灰魔化じゃのう。モンスターは死ぬと灰になって消えるのじゃよ」
ノジャがそう説明した。
「あなたの所では灰魔化っていうのね」
少女は納得したかのように首を縦に振る。
「あ! そういえば、私は杏奈。それで、こっちはリン。自分たちの意思で異世界に来たわけではないなら、色々と気になることがあるよね」
「わしは伊吹からノジャと呼ばれている」
「伊吹とノジャね。よろしく」
杏奈とノジャは初めて会ったのが嘘かのように馴染んでいた。
「俺、何もわからないのだけど」
俺は置いていかれないように、一応抗議してみた。
「私たちなら元の世界に返してあげられるかもしれないから、とりあえず一緒についてきてほしいの。街に行きましょう」
「あ、ああ」
元の世界に帰れると聞いて、俺は少し喜んだ。大きく喜べないのは、かもしれないという部分が引っかかったからだ。もしかしたら帰れるが、帰れない可能性もあるという事だ。
ここが異世界だというのは、一旦受け入れるとして、モンスターとかいう恐ろしい怪物がいる所には一瞬たりとも居たくないので、杏奈に従うことにした。
「頭蓋骨はどうする?」
「持って帰りましょう。どれが誰のものかはわからないですが、遺族には届けた方が良いと思います」
杏奈に聞かれたことに、リンは淡々と答えた。
「任務とか言ってたが、何かあったのかの?」
ノジャがそう聞くと、杏奈が答えた。
「凶悪なモンスターがこの森に出ていて、何人も犠牲になっていたの。それを退治しに来ていただけよ」
ノジャはそれを聞き、少し眉を寄せたが、すぐに元の顔に戻った。
「それがこいつだったってことかの」
「人間の骨を集めて、飾りにしているモンスターなんてなかなかいないからね」
杏奈とリンは灰化が終わり、頭蓋骨と腰巻だけになった水溜まりの場所から頭蓋骨だけを拾い上げた。氷の槍は溶けたようだ。
頭蓋骨はリンが袋に入れていく。十数個もあるのにリンの袋は全く膨れることがなかった。
骸骨を全て袋にしまい終わる頃には陽はだいぶ傾いていて、森はオレンジ色に染まっていた。
「もう夜になるし、野宿ね」
杏奈はリンから別の袋をもらい、そこからテントセットのようなものを取り出した。
「一人用だけど、詰めれば二人で寝れるから、男と女で火の番しながら交代で寝ましょう」
杏奈とノジャは良いかもしれないが、高校生の俺と、俺より少し背が低いとはいえ中学生から高校生くらいのリンが一緒に寝るには狭そうだった。
テントと焚き火を準備した。焚き火ができたら、リンがスープを作ってくれた。
手のひらサイズのハードパンをもらい、スープにひたしながら食べた。
食べていると、少し涙が出た。三人にはバレないように下を向いた。
今日は唐揚げで、俺の誕生日だったのにな。母さんたちは、どうしているのだろうか。心配しているだろうな。俺はどういう扱いになっているのだろう。行方不明ってことなのか。
……それとも、これは夢か、はたまたトラックに轢かれて死んだ後の世界なのか。俺には判別がつかなった。
「伊吹、これもどうぞ」
そう考えていたら、杏奈がドライフルーツを差し出した。
濃いピンク色で、崩れているがハートの形をしている。
「ハートフルーツよ。元々は控えめな甘さだけど、これは結構甘いわよ」
俺はそれを口に放り込んだ。甘さがじんわりと口の中に広がる。
「美味いな」
「でしょ! 私の好きな果物なの。最近、地球にも流通しててね」
「え、地球!?」
俺は立ち上がり、叫んだ。
「どうしたの?」
「俺のいた所も地球! 地球の日本! わかる?」
「ニホン?」
杏奈はきょとんとした。
俺の知っている地球じゃないのか?
隣にいたノジャが俺のスラックスを掴んだ。
「伊吹。ここは異世界じゃよ。同じ地名があることもよくあるし、そろそろ異世界だと認めるのじゃ」
「でも……」
「伊吹の世界にはモンスターはいたのか?」
「いない」
「そうじゃろ。ちなみに、氷の槍を出せる人間はいたか?」
「いない」
俺はゆっくりと座り直し、ため息をついた。
そろそろ、ここが異世界だと認めるべきなのだろうか。考えていても仕方ないので、火の番をすることにした。
少年、リンがそう言った。
「オーディンが食いつきそうな話かもね」
少女は眉を寄せて、嫌そうな顔をした。
「あ! 灰化が始まったよ」
少女が巨体の男を見ると、男の体が灰のようになっていっていた。頭蓋骨たちや腰巻は残っている。
「え? どういうこと?」
「灰魔化じゃのう。モンスターは死ぬと灰になって消えるのじゃよ」
ノジャがそう説明した。
「あなたの所では灰魔化っていうのね」
少女は納得したかのように首を縦に振る。
「あ! そういえば、私は杏奈。それで、こっちはリン。自分たちの意思で異世界に来たわけではないなら、色々と気になることがあるよね」
「わしは伊吹からノジャと呼ばれている」
「伊吹とノジャね。よろしく」
杏奈とノジャは初めて会ったのが嘘かのように馴染んでいた。
「俺、何もわからないのだけど」
俺は置いていかれないように、一応抗議してみた。
「私たちなら元の世界に返してあげられるかもしれないから、とりあえず一緒についてきてほしいの。街に行きましょう」
「あ、ああ」
元の世界に帰れると聞いて、俺は少し喜んだ。大きく喜べないのは、かもしれないという部分が引っかかったからだ。もしかしたら帰れるが、帰れない可能性もあるという事だ。
ここが異世界だというのは、一旦受け入れるとして、モンスターとかいう恐ろしい怪物がいる所には一瞬たりとも居たくないので、杏奈に従うことにした。
「頭蓋骨はどうする?」
「持って帰りましょう。どれが誰のものかはわからないですが、遺族には届けた方が良いと思います」
杏奈に聞かれたことに、リンは淡々と答えた。
「任務とか言ってたが、何かあったのかの?」
ノジャがそう聞くと、杏奈が答えた。
「凶悪なモンスターがこの森に出ていて、何人も犠牲になっていたの。それを退治しに来ていただけよ」
ノジャはそれを聞き、少し眉を寄せたが、すぐに元の顔に戻った。
「それがこいつだったってことかの」
「人間の骨を集めて、飾りにしているモンスターなんてなかなかいないからね」
杏奈とリンは灰化が終わり、頭蓋骨と腰巻だけになった水溜まりの場所から頭蓋骨だけを拾い上げた。氷の槍は溶けたようだ。
頭蓋骨はリンが袋に入れていく。十数個もあるのにリンの袋は全く膨れることがなかった。
骸骨を全て袋にしまい終わる頃には陽はだいぶ傾いていて、森はオレンジ色に染まっていた。
「もう夜になるし、野宿ね」
杏奈はリンから別の袋をもらい、そこからテントセットのようなものを取り出した。
「一人用だけど、詰めれば二人で寝れるから、男と女で火の番しながら交代で寝ましょう」
杏奈とノジャは良いかもしれないが、高校生の俺と、俺より少し背が低いとはいえ中学生から高校生くらいのリンが一緒に寝るには狭そうだった。
テントと焚き火を準備した。焚き火ができたら、リンがスープを作ってくれた。
手のひらサイズのハードパンをもらい、スープにひたしながら食べた。
食べていると、少し涙が出た。三人にはバレないように下を向いた。
今日は唐揚げで、俺の誕生日だったのにな。母さんたちは、どうしているのだろうか。心配しているだろうな。俺はどういう扱いになっているのだろう。行方不明ってことなのか。
……それとも、これは夢か、はたまたトラックに轢かれて死んだ後の世界なのか。俺には判別がつかなった。
「伊吹、これもどうぞ」
そう考えていたら、杏奈がドライフルーツを差し出した。
濃いピンク色で、崩れているがハートの形をしている。
「ハートフルーツよ。元々は控えめな甘さだけど、これは結構甘いわよ」
俺はそれを口に放り込んだ。甘さがじんわりと口の中に広がる。
「美味いな」
「でしょ! 私の好きな果物なの。最近、地球にも流通しててね」
「え、地球!?」
俺は立ち上がり、叫んだ。
「どうしたの?」
「俺のいた所も地球! 地球の日本! わかる?」
「ニホン?」
杏奈はきょとんとした。
俺の知っている地球じゃないのか?
隣にいたノジャが俺のスラックスを掴んだ。
「伊吹。ここは異世界じゃよ。同じ地名があることもよくあるし、そろそろ異世界だと認めるのじゃ」
「でも……」
「伊吹の世界にはモンスターはいたのか?」
「いない」
「そうじゃろ。ちなみに、氷の槍を出せる人間はいたか?」
「いない」
俺はゆっくりと座り直し、ため息をついた。
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