【完結】イマジン 準備号〜仲間が強すぎるので、俺は強くならなくて良いらしい〜

夜須 香夜(やす かや)

文字の大きさ
上 下
3 / 77

第3話 伊吹とノジャ

しおりを挟む
 立ち上がった俺は、少し付いてしまった草を払って、スラックスを絞った。うん、すごく濡れてる。滴る水を手で払い、俺はノジャを見る。
「一人で歩けるか?」
 草履らしいものを履いているノジャに向かって言ったが、それはいらぬ心配だったとすぐにわかった。
 こいつ、浮いていたんだ。
「子ども扱いするな! わしはおぬしより年上だと思うぞ!」
「そんなわけあるか」
 さて、方向もわからないし、どうしたものか。
 俺は空を見てみた。快晴なのか太陽がよく見える。
「今の時間は……午後三時か」
 左手首に付いている父さんに買ってもらった皮の腕時計を見た。
 とりあえず、太陽の方向に歩いていこう。そして、来た道がわからなくならないように何か目印を置いていくか。
 持っていた鞄から、ノートを出して、それをリボン状に手で切り取る。それを近くの木の枝に巻き付ける。
「何をしとるのじゃ?」
「来た道がわからなくならないように、目印を付けている」
「ほー! かしこいのう、おぬし」
「さっきから、おぬし、おぬしって、俺には田仲伊吹たなかいぶきっていう立派な名前があるんだけど」
「おー! 伊吹というのか! よろしくのう」
 ノジャは嬉しそうに目を細めて笑った。
 呑気な奴だ。
「それで、君の名前は?」
「わしか? まあ、わしの名前は何でも良い。好きに呼ぶがよい。さすがに、蔑称で呼ばれたら返事せんがのう」
 名乗る気なしか。じゃあ、やっぱりノジャと呼んでおこう。
「少しの間よろしくな。ノジャ」
「ノジャ、か。いい呼び名じゃのう!」

 俺はノートの切れ端を何個か作り、スラックスのポケットに入れた。ノートは鞄に戻して進むことにした。
 ノジャもそれに着いてくるみたいだ。
 後ろをふわふわと浮かびながら歩くノジャと違って、多少ぬかるんでいる地面を歩くのは苦労が必要だった。今日に限って、スニーカーではなく、ローファーで来てしまったのが不幸かもしれない。しかも、新品だ。
 歩いてから三十分くらい経った頃、陽が少し傾き、夜になったらどうするのかが心配になってきた。明かりをつけるものもないし、ノジャにはそれを期待もできない。
「伊吹ー。疲れたのじゃ」
「浮いてて、なんで疲れるんだよ」
「浮くのにも力を使うのじゃ」
 そうなのか。納得はできないが、納得するしかないんだろうなと考える。
 ノジャは、近くの木にもたれかかった。
「今日は時止めも異界渡りもしたから疲れたのじゃー!」
「時止めってなんだよ」
「時を止めるのじゃ」
「そんな魔法みたいな……」
 魔法……今日は非現実的なことがよく起こる気がした。トラックはぶつかる寸前で止まっていたし、いつの間にか知らない土地にいるし。
「異世界転生でもあるまいし」
「ここは異世界じゃよ。伊吹の世界から考えるとな」
 ノジャはそうあっさりと言いのけた。
 俺はその言葉に、疑問しか浮かばなかった。
「それはフィクションの世界だろ?」
「ふぃく?」
「フィクション! 非現実的なことだろ!」
「現実じゃよ。伊吹の世界ではあまりないのか?」
「ない……というか、どこでも有り得ないだろ」
 ノジャはうーんと唸った。目を瞑り、何かを考えているようだった。
「わしは伊吹の世界には先程降り立ったばかりだから、どういう世界かわからんからのう。しかし、これは現実だし、伊吹から見ても、わしから見ても、ここは異世界じゃ」
「異世界ってなんだよ」
 俺はこれ以上考えるのが嫌になって、濡れるのも構いなく、地面に体育座りして、ひざに顔を埋めた。
「伊吹……」
 その時、ズシンと地響きが聞こえた。
「地震か!」
 俺は顔を上げて、周りを見渡した。木々は揺れ、葉が落ちる。地面が震えている。
 ズシンズシンと、地震とは違うような揺れがずっと起きている。その音はこちらに近づいてきてる。
「嫌な予感がするのう」
 ノジャはもたれていたのをやめて、俺の近くに来た。俺に立つようにうながしたので、立ち上がり、音のする方角をじっと見た。
 もうすぐ側にまで大きな音がする。揺れも大きくなり、ガサガサと音が鳴る。
「伊吹!」
 ノジャが叫ぶと、木々をかき分けて、巨体の男が現れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...