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経緯

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「確かに自分からオシャレしようとするタイプじゃ無いし、何かあるとは思ってたけど話す気になったんだ」

「うん。話すかどうか迷ってたけど、話そうと思うよ」

「あ~。迷うくらいの事なら、嫌だったら話さなくてもいいよ。私はヒキトがさ。何を思って服を買うに至ったか興味ないわけじゃないけど、別にどんな理由であっても私は今日短い間だけどさヒキトの事ちょっと気に入ってんだよね。だから何があろうとその事実は変わらないし、手伝うことも変わりないし」

 そう言ってサッキーさんは優しげな笑みを浮かべ、にひひと笑った。

 本当に優しい人だ。そんな人が僕が復讐を目的にしていると聞いたらどんな反応するのだろうか。怖いやつだと引かれるのか、そんなことをするなと怒られるのかそれとも笑い飛ばしてくれるだろうか。
 正直サッキーさんに惹かれ始めている自分がいる。ここでわざわざ自分の株を下げる必要も無いこともわかってる。だけど、自分はサッキーさんに対して誠実でありたい。それにこんな事で揺らぐほど自分の復讐への決意は甘くない。

「いや、僕が話を聞いて欲しいんだ」

「そ。わかった。そこまでいうのなら聞かせてもらうわ!」

 そう言って、サッキーさんは幼子を褒めるように僕の頭をポンポンと叩いた。
 僕は一瞬呆気にとられたが、すぐにサッキーさんの目を見て口を開いた。

「えっとこうなったのは……」

「ちょっとストップ!」

「え……」

 僕が話し出そうとするとサッキーさんが口を挟んで来た。そして、僕が話をやめるのを見ると再び口を開いた。

「ねえ。その話ご飯食べながらにしない?立ち話じゃ疲れるでしょ?それに、そういう話はちゃんと頭の中でまとめてからの方が話しやすいっしょ?」

「それもそうか……」

「ね!そんじゃあ、私の好きなお店があるからそこで話そっか!じゃ、行くよ!店長また来まーす!」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 そう言い放ってお店から出ていくサッキーさんを追いかけるように店からでた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 サッキーさんについて行くまま店にたどり着いた。まず、オープンテラスの白い椅子とテーブルの席を抜け、見上げると英字で描かれた黒と白の文字でtorusと描かれていた看板が見えた。そして、店内は普通のファミレスと同じ配置で、椅子はソファタイプではあるが、小さなランプのようなオレンジの照明と深みを感じる木でできた机が配置されていた。オレンジの光と木でできた家具が店内に暖かい優しい雰囲気を作り上げた。

 オシャレだけど、どこか親しみやすい雰囲気のカフェだなあ。それに人の話し声がうるさくもなく静かでもなく本当に丁度いい。自分でも通いたくなる。

「席、奥でいい?」

「ああ。どこでも大丈夫だよ」

 サッキーさんについていき、奥の空いていた席に二人で腰をかけた。そして、サッキーさんが直ぐにテーブルに置いてあったメニューを開いて僕の方を向け、テーブルの上をスライドさせるように差し出してきた。

「なんする?」

「ありがとう。サッキーさんはもう決めたの?」

「うん!私はいつもここに来るとオムライス頼むの!めっちゃ美味しんだよね!」

 そう言ってサッキーさんは嬉しそうにオムライスのページを開ける。
 そのページにはデカデカと描かれたオムライスの写真があった。見るだけでもふわふわの卵がドンとチキンライスの上に乗せられており、本当に美味しそうだ。

「じゃあ僕もそれで」

「はいよ!絶対後悔させないから!」

 そう言ってサッキーさんは自慢げに笑い、注文のベルを押した。
 別にサッキーさんが作るわけじゃないのになんでそんなに自慢げなんだと苦笑する。

 そして、間も無く来た店員にサッキーさんが明るい声で注文を頼んだ。店員が去るとサッキーさんは、やんわりとした笑みを浮かべながらも真面目な声色で僕に尋ねた。

「で、考えはまとまった?なんで服を選ぼうと思ったの?」

 サッキーさんの瞳はまっすぐと僕の瞳だけを捉えていた。瞳と瞳が互いの瞳を映しあい、光がその中に永遠と囚われるように感じた。

「うん。まとまったよ。僕は、復讐するために頑張ろうとしているんだ」

 サッキーさんは表情を一切崩さずに口を開いた。

「なんで?」

「僕は実はオタクなんだ。実際、今日みたいに服を選ぼうとした事なんて今までなかったんだ」

「うん」

「そんな僕にも唯一親友が居てさ。そいつは本当に良い奴でそいつと昼休みにゲームの話題で盛り上がって居たんだよ」

「楽しそうね」

「ところが、その時に僕を昔からいじめて来たギャルが近づいて来て、キモいだとかウザイだとか家に帰れだとか言われてさ。そいつはクラスの中心だからさ、周りの人も僕達が虐げられてるのを見て笑っててさ。それで、親友との間でいたたまれない空気になってさ」

 サッキーさんの表情が曇り本当に怒っているような表情になる。

「……それは酷いね」

「ありがとうサッキーさん。サッキーさんにそう言って貰えるだけで救われた気持ちになるよ」

「それなら良かったけど、私が単純に腹が立ってるだけだから。それで復讐を決意したんだ?」

「うん!僕はそのギャルよりカーストの上に立って、どんなに自分が残酷なことをしたか味あわせてやると決めたんだよ!」

 僕はサッキーさんに堂々と宣言した。

「そうだね!それはヒキトは間違ってないっしょ!復讐なんてするべきことじゃないとはわかるけど、ヒキトに手を貸してあげるわ!」

 サッキーさんは僕の手をとりガシッと握ってはっきりした声で言った。柔らかく絹のようにすべすべの手からは想像できない力が伝わって来て、素で応援してくれているのが伝わって来る。

「ありがとうサッキーさん!僕は絶対に復讐するよ!」

「うん!何かあったら私に言って!復讐のために力になるから!」

 そう言って今度は互いに腕相撲のようにガシッと握手した。会ってそれ程立って居ないというのに、なんだか深い友情で結ばれた気がした。
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