僕らの距離

宇梶 純生

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懲戒

虚脱

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見慣れた公園
見飽きた景色

入口付近の手摺りに据わり
冷えた両手へ息を吹き掛ける

背後から名前を呼ばれ
振り向く清人の目の前に
巨漢の男性が立っていた

頭を下げる清人を
冷酷な視線で物色する男性は
不機嫌を露わに示す

「地図 解り難い」
「…すいません」
「駅から遠いし」
「此処から少し歩きます」
「嘘だろ 聞いてないよ」

不服を洩らす男性に
謝罪する清人は
ブツブツと愚痴る男性を連れ
モーテルまで案内する

100キロを遥かに超える
巨漢の男性は
ダブつく服を着た
二十代半ばの若い男性で

清人が相手した客層の中では
一番若い部類に入り
見た目は 無職のニートに近く
自宅警備員と堂々と名乗る程の
ふてぶてしさを醸し出す

「紹介料 振り込んだけど
 ホテル代とか 二重取りしないよね」
「大丈夫です」
「本当かな 怪しいよね
 ヤバい人が出て来たら
 警察呼ぶからな」

足を止めた清人は
横に並び歩く巨漢の男性の顔を見つめ
正しい判断だと頷き

「そうして下さい」

男性に同意を示す

不機嫌に眼を反らす男性は
数秒 口を閉ざしたが

「まだ歩かせる気か
 嫌がらせだろ」

溢れる文句が止まる事はなかった

ホテルに着き
フロントで支配人と話す清人は 
男性の元へ戻り
ホテル代が支払われている事を告げ
エレベーターのボタンを押した

通い慣れた部屋へ
男性を誘導すると
部屋へ入るなり
暖房の効いたエアコンを
冷房に切り替える

「暑過ぎだろ」

肌寒い十月半ばの気候に
汗だくの男性が室温設定へ
腹を立て愚痴り出す

清人は風呂の湯加減を
温めに調整し室内へ戻ると
仁王立ちの男性が床へ
5万円札を投げ捨てる

「拾え!」

男性の前へ膝間づき
札を拾う清人の手を踏みつけ

背負っていたリュックサックから
久助の寿司詰めを取り出し
床へ中身をばら撒く

「這って食え!」

形が崩れた巻き寿司を
床へ這いつくばりながら
齧り付く清人の頭を踏みつけ

潰れる巻き寿司に
清人の顔が押し付けられ
顔にへばりつく酢飯が
ボロボロと剥がれ堕ちる

「お前みたいな
 産まれながらに
 得してる顔を見ると
 ムカつくんだよ!」

僻み妬み嫉みを
全面にぶつける男性は
怒りを抑え切れず

「俺みたいなブタ野郎に
 平伏すのは 屈辱だろ!
 散々チヤホヤされ
 生きて来た奴に
 この屈辱が分かるか!

 躰売って楽に金儲けする奴に
 仕事が決まらない屈辱も
 親にすら愚弄される屈辱も
 お前に 分かるのか!」

男性に背中を蹴られ
前のめりに倒れ込む清人は
床に散らばる巻き寿司を握り
口の中へ押し込んでいた

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