僕らの距離

宇梶 純生

文字の大きさ
上 下
88 / 184
嚆矢

薄氷

しおりを挟む
午前1時過ぎ
帰宅した部屋

正面の窓は
細い路地を挟み
隣接するビル壁で埋まり

窓際へ佇めば
蓮斜に灯る
街灯の道が
微かに見える

磨いていない
薄雲る窓は
街灯の灯りを滲ませ
夜の静寂を彩った

テーブルの上には
コンビニ弁当が
手付かず置いてあり

ベッドの端には
痛々しい痣を晒し
清人が眠り続けている

制服を脱ぎ
部屋着に着替えた関は
ソファーへ腰掛け
清人の寝顔を眺めた

〝14歳の子供が居ても
 おかしくない年齢じゃない 〟

小夜子ママの言葉が
関の耳に残り
意識し清人を見たが
我が子と思える程
幼くは見えず

だが 実親が我が子を抱く
心境には 理解できずにいた

そう易々と息子を
抱けるものなのか

その時 清人は
無抵抗だったのか

兄に性的悪戯をされ
父親との性行為も
マンネリ化していたのか

渦巻く疑問に酔いが回り
ソファーの背へ頭を乗せ
関は眼を閉じた



出口のない
巨大迷路を彷徨う清人は
聳え立つ壁に囲まれ
灰色の世界へ埋もれる

コンクリートの壁伝いに
添えた腕は骨まで削れ
迷路を覗き込む酒井君の顔を
見上げる清人

清人目掛け
振り落とす巨大な鉛筆の芯が
足元の薄氷を貫き砕け散り

何十体もの腕が伸び
清人の脚を握り
水面下へ引きずり込む悪夢



突如 魘される清人に
驚く関はベッドへ走り寄り
清人を揺り起こし
清人の躰の冷たさに異変を感じ

必死で清人の名を呼び
揺さぶり続けた

薄ら眼を開けた清人は
揺すられるまま
カクカクと首を揺らし
再び眼を閉じる

「……眠い」

呟く清人に精気はなく
凍死寸前の遭難者の様に見え
関は力任せに清人を
ベッドから引き摺り出し
抱え込み激しく揺り起こす

「起きろ!清人!」

しばらくして
清人の意識が戻り
微かな反応を示す

「…起き…て…ます」

清人をベッドへ寄り掛からせ
布団で清人の躰を包む関

「すぐ戻る
 寝るなよ 清人」

小さく頷く清人を確認し
関はゲーセンの自販機で
暖かいココアを買った来た

満足に食事を取らず
飢餓状態の経験を
幾度か覚えがある関は

血糖値が下がりきり
全身の血の気が失せ
睡魔に襲われる清人と
重ね合わせていた

ゆっくりと紙コップのココアを
口に含む清人の顔色が
徐々に回復の兆しを滲ませ
関は胸を撫で下ろす

「まだ痛むか?」

清人の腫れ上がる痣へ
関の指先が触れ
若干 顔を歪める清人は

真っ赤に充血する
左眼球を掌で塞ぎ

「寝過ぎて
 頭が痛いです」

清人の腕を持ち
ソファーへ誘導する関は
清人の暖まる体温を確認し
コンビニ弁当を電子レンジで
温め直す

「米が硬くて無理でも
 おかずだけは食え」

清人は 命じられるまま
弁当の具材を箸で掴み
口へ運び続けていた
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

気の遣い方が斜め上

りこ
BL
俺には同棲している彼氏がいる。だけど、彼氏には俺以外に体の関係をもっている相手がいる。 あいつは優しいから俺に別れるとは言えない。……いや、優しさの使い方間違ってねえ? 気の遣い方が斜め上すぎんだよ!って思っている受けの話。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う

まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。 新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!! ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

貴方の事を心から愛していました。ありがとう。

天海みつき
BL
 穏やかな晴天のある日の事。僕は最愛の番の後宮で、ぼんやりと紅茶を手に己の生きざまを振り返っていた。ゆったり流れるその時を楽しんだ僕は、そのままカップを傾け、紅茶を喉へと流し込んだ。  ――混じり込んだ××と共に。  オメガバースの世界観です。運命の番でありながら、仮想敵国の王子同士に生まれた二人が辿る数奇な運命。勢いで書いたら真っ暗に。ピリリと主張する苦さをアクセントにどうぞ。  追記。本編完結済み。後程「彼」視点を追加投稿する……かも?

処理中です...