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荘重
諄諄
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微かな呻き声すら洩らさず
殴打した箇所と口元を抑え
躰だけを震わす清人
喚く事も泣く事も出来ず
傷みを堪え忍ぶ姿は
関の心を締め付け
汚れた清人のシャツを拾い
清人の口元へ当てると
痺れる手で受取る清人は
シャツを握り鼻を抑えた
数回 清人の肩が上がり
シャツで塞ぐ篭る声が
微かに聞こえる
「……吐く」
焦る関は
朦朧とする清人の両腕を持ち
背負い上げ 撮影所を抜けた
倉庫内のゲーム機の隙間を
掻い潜る途中で
金属製の音が床を鳴らし
転がってゆく音がした
「我慢しろ
すぐ部屋へ戻るからな」
清人を励ましながら
エレベーターに乗り込み
三階へ降り立ち
関の部屋へ雪崩込むと
玄関付近にある流し台へ
清人は前屈みに躰を倒し
透明な泡状の粘る痰と
逆流した血液を吐き続けた
シャワーを浴びた関は
店の制服に着替え
ソファーに座る清人へ
部屋着を手渡し
声を掛ける
「四時頃 戻る
飯 少し待ってくれ
それ迄 ベッドで寝てろ」
俯いたまま 頷く清人は
終始 関に顔を見せず
昼休憩を取るチーフと
交替する時間が押し迫り
やも得なく店へ向かった
腕時計の針は
午後12時を示し
僅か二時間程度の時間が
恐ろしく長く感じ
疲労困憊する関
「強姦未遂事件
まだ 揉めてるんすか?」
心配気にチーフが
関の顔を覗き込む
「顔色悪いっすよ」
関は両手で頬を軽く叩き
気合いを入れ直し
威勢よく鼻息を出し
「別件で 呼ばれていた
迷惑かけて すまない」
チーフへ謝罪する関の前へ
休憩に出掛けかけたチーフが
椅子に座り直す
「佐山とも話していたんですが
関さん 休暇取った方が いいっすよ」
チーフ達の心遣いに
張り詰めた心が癒され
表情が綻ぶ関は
幾度となく小さく頷き
「近々 頼むよ
ありがとう」
関の言葉に納得するチーフは
席を立ち昼休憩へ出掛けて行った
関が雇われ店長として
配属される前から
店で働いているチーフ
機械の事も経営状況も
何も解らない関を軽蔑し
反撥する事も多々あった
それでも仕事業務を教え
技術を学ばせてくれたチーフ
長い年月を掛け
信頼と云う評価を頂けるとは
関自身 思ってもいなかった
「…14年か」
独り言を呟く関は
ただ我武者羅に働き
過ぎ去った年月と
清人が生きた歳が重なり
深い溜息を吐いた
午後三時に
副店長が出勤し
午後五時に退勤するチーフ
その間 二時間程
休憩を挟む関は
コンビニ弁当を買い
部屋へ戻り
左顔面を赤紫色に腫らし
疲れ果てて眠る清人を
起こす気にはなれず
茫然と眺める事しか
出来なかった
殴打した箇所と口元を抑え
躰だけを震わす清人
喚く事も泣く事も出来ず
傷みを堪え忍ぶ姿は
関の心を締め付け
汚れた清人のシャツを拾い
清人の口元へ当てると
痺れる手で受取る清人は
シャツを握り鼻を抑えた
数回 清人の肩が上がり
シャツで塞ぐ篭る声が
微かに聞こえる
「……吐く」
焦る関は
朦朧とする清人の両腕を持ち
背負い上げ 撮影所を抜けた
倉庫内のゲーム機の隙間を
掻い潜る途中で
金属製の音が床を鳴らし
転がってゆく音がした
「我慢しろ
すぐ部屋へ戻るからな」
清人を励ましながら
エレベーターに乗り込み
三階へ降り立ち
関の部屋へ雪崩込むと
玄関付近にある流し台へ
清人は前屈みに躰を倒し
透明な泡状の粘る痰と
逆流した血液を吐き続けた
シャワーを浴びた関は
店の制服に着替え
ソファーに座る清人へ
部屋着を手渡し
声を掛ける
「四時頃 戻る
飯 少し待ってくれ
それ迄 ベッドで寝てろ」
俯いたまま 頷く清人は
終始 関に顔を見せず
昼休憩を取るチーフと
交替する時間が押し迫り
やも得なく店へ向かった
腕時計の針は
午後12時を示し
僅か二時間程度の時間が
恐ろしく長く感じ
疲労困憊する関
「強姦未遂事件
まだ 揉めてるんすか?」
心配気にチーフが
関の顔を覗き込む
「顔色悪いっすよ」
関は両手で頬を軽く叩き
気合いを入れ直し
威勢よく鼻息を出し
「別件で 呼ばれていた
迷惑かけて すまない」
チーフへ謝罪する関の前へ
休憩に出掛けかけたチーフが
椅子に座り直す
「佐山とも話していたんですが
関さん 休暇取った方が いいっすよ」
チーフ達の心遣いに
張り詰めた心が癒され
表情が綻ぶ関は
幾度となく小さく頷き
「近々 頼むよ
ありがとう」
関の言葉に納得するチーフは
席を立ち昼休憩へ出掛けて行った
関が雇われ店長として
配属される前から
店で働いているチーフ
機械の事も経営状況も
何も解らない関を軽蔑し
反撥する事も多々あった
それでも仕事業務を教え
技術を学ばせてくれたチーフ
長い年月を掛け
信頼と云う評価を頂けるとは
関自身 思ってもいなかった
「…14年か」
独り言を呟く関は
ただ我武者羅に働き
過ぎ去った年月と
清人が生きた歳が重なり
深い溜息を吐いた
午後三時に
副店長が出勤し
午後五時に退勤するチーフ
その間 二時間程
休憩を挟む関は
コンビニ弁当を買い
部屋へ戻り
左顔面を赤紫色に腫らし
疲れ果てて眠る清人を
起こす気にはなれず
茫然と眺める事しか
出来なかった
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