78 / 184
清濁
店長 2
しおりを挟む
捲る袖から
貧弱な細い腕が見え
隣席に座る清人の胸元が
シャツを泳がせ
華奢な躰を示す
傍で見る清人が
意外と小さく
大人びた表情に
幼さが残る
「名前 聞いていいか?」
店長の声を合図に
牛丼をテーブルへ置いた清人は
胸ポケットからコインを取出し
掌に乗せ 軽く握る
「…清人」
コインを握る右手を
左手で包み込む清人には
もう握り締める力すら失く
「宝物か?」
重なる両手を見つめる清人は
右手の指を開き
店長へコインを見せた
「店のメダルか?
… 結構 古い柄だ 」
しばらく コインの絵柄を
真剣に見ていた店長は
コインを清人の掌へ戻し
「俺の宝も 見せてやるよ」
ソファーから立ち
壁際に掛かる
シザーケースを取り
中の箱から丁寧に
1本のナルトシザーを
清人へ見せ
「髪を切る鋏
25万」
素早く箱へ片付け
壁際へ掛け戻す
「購入しただけで
実用しなかった
宝の持ち腐れ」
店長の骨張る長い指を
眺める清人は
頭に浮かぶ職業を呟く
「…美容師?」
店長は 清人の素朴な疑問に
ソファーへ頭を凭れ
天井目掛け煙草を煙りを吐き
「理容師だ」
そして 昔話を
清人へ語り出した
「俺の生まれ育った村は
理髪店が1軒しかないド田舎で
バスと電車を乗り継ぎ
片道二時間掛けて
理容美容専門学校へ通った
理容師の国家資格を取得し
カリスマ美容師の技術を学びに
上京し就職したが
学ぶ所か 雑用ばかり
チラシ配りに 髪処理
染髪剤の調合に後始末
客の髪を洗髪しても
カッティングをさせて貰えず
何年も下積み修行をさせられた」
灰皿へ煙草を捻り消し
数珠繋ぎの様に
新たな煙草に火を灯す
「雨の日に チラシを配れと言われ
俺は殆どヤケクソで雨の中
1日中 突っ立てた時
誰も受け取らない
ずぶ濡れのチラシを
手に取ってくれたのは
今居る店のオーナーだった
月に2回は 来店し
俺を指名しては
髪を切らせてくれた
あの店で
俺がカッティングした客は
オーナー ただ ひとりだ
……いい話だろ?」
清人の顔を見て
僅かばかり笑みを浮かべる店長は
指先に挟む煙草を咥え
消えゆく煙りを長く吐き出した
「数ヶ月後に
カリスマ店長の
専門学校の後輩が新人で入り
技術が どうたらこうたら
御託を並べ
挙句の果てには
新人にまで 馬鹿にされる始末
それでも オーナーが
俺を指名しに
店へ訪れるから
耐える事が出来た」
壁に掛かる
シザーケースを眺める店長は
重い腰を上げ壁際へ歩き
シザーケースを手に取り
軋むソファーへと
再び腰を下ろした
貧弱な細い腕が見え
隣席に座る清人の胸元が
シャツを泳がせ
華奢な躰を示す
傍で見る清人が
意外と小さく
大人びた表情に
幼さが残る
「名前 聞いていいか?」
店長の声を合図に
牛丼をテーブルへ置いた清人は
胸ポケットからコインを取出し
掌に乗せ 軽く握る
「…清人」
コインを握る右手を
左手で包み込む清人には
もう握り締める力すら失く
「宝物か?」
重なる両手を見つめる清人は
右手の指を開き
店長へコインを見せた
「店のメダルか?
… 結構 古い柄だ 」
しばらく コインの絵柄を
真剣に見ていた店長は
コインを清人の掌へ戻し
「俺の宝も 見せてやるよ」
ソファーから立ち
壁際に掛かる
シザーケースを取り
中の箱から丁寧に
1本のナルトシザーを
清人へ見せ
「髪を切る鋏
25万」
素早く箱へ片付け
壁際へ掛け戻す
「購入しただけで
実用しなかった
宝の持ち腐れ」
店長の骨張る長い指を
眺める清人は
頭に浮かぶ職業を呟く
「…美容師?」
店長は 清人の素朴な疑問に
ソファーへ頭を凭れ
天井目掛け煙草を煙りを吐き
「理容師だ」
そして 昔話を
清人へ語り出した
「俺の生まれ育った村は
理髪店が1軒しかないド田舎で
バスと電車を乗り継ぎ
片道二時間掛けて
理容美容専門学校へ通った
理容師の国家資格を取得し
カリスマ美容師の技術を学びに
上京し就職したが
学ぶ所か 雑用ばかり
チラシ配りに 髪処理
染髪剤の調合に後始末
客の髪を洗髪しても
カッティングをさせて貰えず
何年も下積み修行をさせられた」
灰皿へ煙草を捻り消し
数珠繋ぎの様に
新たな煙草に火を灯す
「雨の日に チラシを配れと言われ
俺は殆どヤケクソで雨の中
1日中 突っ立てた時
誰も受け取らない
ずぶ濡れのチラシを
手に取ってくれたのは
今居る店のオーナーだった
月に2回は 来店し
俺を指名しては
髪を切らせてくれた
あの店で
俺がカッティングした客は
オーナー ただ ひとりだ
……いい話だろ?」
清人の顔を見て
僅かばかり笑みを浮かべる店長は
指先に挟む煙草を咥え
消えゆく煙りを長く吐き出した
「数ヶ月後に
カリスマ店長の
専門学校の後輩が新人で入り
技術が どうたらこうたら
御託を並べ
挙句の果てには
新人にまで 馬鹿にされる始末
それでも オーナーが
俺を指名しに
店へ訪れるから
耐える事が出来た」
壁に掛かる
シザーケースを眺める店長は
重い腰を上げ壁際へ歩き
シザーケースを手に取り
軋むソファーへと
再び腰を下ろした
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。
無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。
そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。
でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。
___________________
異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分)
わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか
現在体調不良により休止中 2021/9月20日
最新話更新 2022/12月27日
気の遣い方が斜め上
りこ
BL
俺には同棲している彼氏がいる。だけど、彼氏には俺以外に体の関係をもっている相手がいる。
あいつは優しいから俺に別れるとは言えない。……いや、優しさの使い方間違ってねえ?
気の遣い方が斜め上すぎんだよ!って思っている受けの話。
貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う
まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。
新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!!
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
貴方の事を心から愛していました。ありがとう。
天海みつき
BL
穏やかな晴天のある日の事。僕は最愛の番の後宮で、ぼんやりと紅茶を手に己の生きざまを振り返っていた。ゆったり流れるその時を楽しんだ僕は、そのままカップを傾け、紅茶を喉へと流し込んだ。
――混じり込んだ××と共に。
オメガバースの世界観です。運命の番でありながら、仮想敵国の王子同士に生まれた二人が辿る数奇な運命。勢いで書いたら真っ暗に。ピリリと主張する苦さをアクセントにどうぞ。
追記。本編完結済み。後程「彼」視点を追加投稿する……かも?
反抗期真っ只中のヤンキー中学生君が、トイレのない課外授業でお漏らしするよ
こじらせた処女
BL
3時間目のホームルームが学校外だということを聞いていなかった矢場健。2時間目の数学の延長で休み時間も爆睡をかまし、終わり側担任の斉藤に叩き起こされる形で公園に連れてこられてしまう。トイレに行きたかった(それもかなり)彼は、バックれるフリをして案内板に行き、トイレの場所を探すも、見つからず…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる