52 / 184
無想
飛礫
しおりを挟む
蛇口から落ちる
水滴の音
調理台で
宿題をする清人は
書き込む手を止め
数秒間隔で鳴る
水滴を眺めていた
久我の訪問が途切れ
二週間が過ぎ
独りに耐える事にも
慣れ始め
表面張力の気張る心は
箍が外れる様に
萎んでゆく
屋敷に取り残された
孤立と孤独
清人は常備灯を消し
フロア全体を照らす
照明を点けた
白い大理石は
薄らと埃を被り
幾つもの足跡が浮かび
マットレスを置いた跡が
微かに縁取り
何かを拭った跡も
浮かび上がった
清人は暇潰し程度に
ダストモップで
大理石の床を往復し
取れる埃の量に面食らう
4冊目のノートを開き
最後の日付
5月18日を確認し
小林が居なくなり
二ヶ月以上が経つ事を知る
日勤夜勤に関わらず
訪問する久我の存在が
小林の抜けた孤独を埋め
忘れていた感情
久我の訪問前にも
塾通いの隆行に
孤独な夜を越えてきた清人だが
不思議と孤立感は
抱かなかった
明日になれば
小林が訪問する真実が
寂しさや不安を
取り除く余裕があり
隆行がビジネスホテルへ
転居した後も
久我の訪問に甘んじ
頼り切っていた清人
そして
父親の訪問が
正式な飼主を定め
屋敷と云う檻の中に
身を潜めている
与えられた衣食住
手渡された餌代
何不自由ない暮らし
いつ訪問するか
わからない飼主を
待ち詫びる孤独が
モップに吸い付く埃の如く
清人の躰へ降り積もる
マットレスを置いた
大理石の床へ
寝転ぶ清人は
石の冷たさに躰を屈め
涙の枯れた瞳で
フロアの中を眺める
明日の終業式を見定め
訪れる夏休み
話す友達がいなくとも
学校へ通う理由は
揺れ動く人々の存在と
座喚く雑居うに
触れる為
そして
寂しさを紛らし
散らす為でもある
「久我さん」
ポツリと呟く清人の声が
白い大理石に吸い取られた
清人は蛇口を固く締め
フロアの照明を消し
小さな光を灯す
暖かな炊飯器を抱え
僅かばかり微笑んだ
「おやすみなさい」
清人以外
誰もいない屋敷で
唯一の話し相手は
白米を炊く
銀色の炊飯器だけだった
水滴の音
調理台で
宿題をする清人は
書き込む手を止め
数秒間隔で鳴る
水滴を眺めていた
久我の訪問が途切れ
二週間が過ぎ
独りに耐える事にも
慣れ始め
表面張力の気張る心は
箍が外れる様に
萎んでゆく
屋敷に取り残された
孤立と孤独
清人は常備灯を消し
フロア全体を照らす
照明を点けた
白い大理石は
薄らと埃を被り
幾つもの足跡が浮かび
マットレスを置いた跡が
微かに縁取り
何かを拭った跡も
浮かび上がった
清人は暇潰し程度に
ダストモップで
大理石の床を往復し
取れる埃の量に面食らう
4冊目のノートを開き
最後の日付
5月18日を確認し
小林が居なくなり
二ヶ月以上が経つ事を知る
日勤夜勤に関わらず
訪問する久我の存在が
小林の抜けた孤独を埋め
忘れていた感情
久我の訪問前にも
塾通いの隆行に
孤独な夜を越えてきた清人だが
不思議と孤立感は
抱かなかった
明日になれば
小林が訪問する真実が
寂しさや不安を
取り除く余裕があり
隆行がビジネスホテルへ
転居した後も
久我の訪問に甘んじ
頼り切っていた清人
そして
父親の訪問が
正式な飼主を定め
屋敷と云う檻の中に
身を潜めている
与えられた衣食住
手渡された餌代
何不自由ない暮らし
いつ訪問するか
わからない飼主を
待ち詫びる孤独が
モップに吸い付く埃の如く
清人の躰へ降り積もる
マットレスを置いた
大理石の床へ
寝転ぶ清人は
石の冷たさに躰を屈め
涙の枯れた瞳で
フロアの中を眺める
明日の終業式を見定め
訪れる夏休み
話す友達がいなくとも
学校へ通う理由は
揺れ動く人々の存在と
座喚く雑居うに
触れる為
そして
寂しさを紛らし
散らす為でもある
「久我さん」
ポツリと呟く清人の声が
白い大理石に吸い取られた
清人は蛇口を固く締め
フロアの照明を消し
小さな光を灯す
暖かな炊飯器を抱え
僅かばかり微笑んだ
「おやすみなさい」
清人以外
誰もいない屋敷で
唯一の話し相手は
白米を炊く
銀色の炊飯器だけだった
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
からっぽを満たせ
ゆきうさぎ
BL
両親を失ってから、叔父に引き取られていた柳要は、邪魔者として虐げられていた。
そんな要は大学に入るタイミングを機に叔父の家から出て一人暮らしを始めることで虐げられる日々から逃れることに成功する。
しかし、長く叔父一族から非人間的扱いを受けていたことで感情や感覚が鈍り、ただただ、生きるだけの日々を送る要……。
そんな時、バイト先のオーナーの友人、風間幸久に出会いーー
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる