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夏
宝箱
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最寄駅まで
二駅
乗り込む電車の中
久我の腕に寄り掛る
清人の頭が
コクリコクリと
小船を漕ぐ
電車を降り
覚束無い脚取りの
清人を支え
改札口まで歩かせ
神城家までの道程は
夢うつつの清人を背負い
帰路を進む
40キロ前後の
軽い清人の体重が
ずしりと重く
久我の背中に
のしかかり
体格の良い久我でも
流石に息が切れる
歩く振動に合わせ
揺れ動く清人の髪が
久我の頬を 擽り
寝ても覚めても
愛おしいと云う
言葉の綾を
噛み締め歩いた
必死で辿り着いた
神城邸では
待ち侘びた二匹の鬼が
仁王立ちで立ち塞がり
汗だくの久我を
労りもせず
「連れてけ」
隆行は顎で 2階を示す
立ち止まった久我は
清人を背負い直し
「だろうな」
軽い捨て台詞を吐き
よろよろと
階段を登った
清人の部屋のベッドへ
清人を降ろし
腰砕け 立ち上がれない久我は
ベッドの端へ座り込み
数分間 項垂れていた
明かりが灯る清人の部屋は
見覚えのない景色に映り
寝息を立てる
清人の寝顔も
寝ているベッドも
見慣れず
この場所で
清人を犯した記憶が
幻覚にすら思えてくる
清人に布団を掛け
顔に掛かる髪を
指先で掬い
頬を撫でた久我は
清人の部屋を見回した
備え付けのクローゼットと
壁に固定された
鏡付きの細長いドレッサーには
アンティーク調の椅子が一脚あり
ブックスタンドに挟まる
教科書類が 無けれは
ビジネスホテルの
一室にも見える
子供らしい玩具もなく
閑散とした部屋だからこそ
教科書と一緒に並ぶ
外国製の本型宝箱は
久我の眼を惹いた
ゆっくりとベッドから
立ち上がった久我は
本型の宝箱に手を伸ばし
静かに蓋を開ける
だが 中には
期待した 子供らしい小物はなく
1通の開封した封筒が
有るだけだった
“ 清人へ”と 書かれた封筒を裏返し
“ 清乃より”と書かれた達筆な文字に
久我は 封筒を宝箱へ戻し
電気を消して
清人の部屋を出た
ゾクリと走る悪寒に
1階で待ち構える
二匹の鬼が居る事を
思い出した久我は
重苦しい溜息を
長々と吐き続ける事しか
出来なかった
二駅
乗り込む電車の中
久我の腕に寄り掛る
清人の頭が
コクリコクリと
小船を漕ぐ
電車を降り
覚束無い脚取りの
清人を支え
改札口まで歩かせ
神城家までの道程は
夢うつつの清人を背負い
帰路を進む
40キロ前後の
軽い清人の体重が
ずしりと重く
久我の背中に
のしかかり
体格の良い久我でも
流石に息が切れる
歩く振動に合わせ
揺れ動く清人の髪が
久我の頬を 擽り
寝ても覚めても
愛おしいと云う
言葉の綾を
噛み締め歩いた
必死で辿り着いた
神城邸では
待ち侘びた二匹の鬼が
仁王立ちで立ち塞がり
汗だくの久我を
労りもせず
「連れてけ」
隆行は顎で 2階を示す
立ち止まった久我は
清人を背負い直し
「だろうな」
軽い捨て台詞を吐き
よろよろと
階段を登った
清人の部屋のベッドへ
清人を降ろし
腰砕け 立ち上がれない久我は
ベッドの端へ座り込み
数分間 項垂れていた
明かりが灯る清人の部屋は
見覚えのない景色に映り
寝息を立てる
清人の寝顔も
寝ているベッドも
見慣れず
この場所で
清人を犯した記憶が
幻覚にすら思えてくる
清人に布団を掛け
顔に掛かる髪を
指先で掬い
頬を撫でた久我は
清人の部屋を見回した
備え付けのクローゼットと
壁に固定された
鏡付きの細長いドレッサーには
アンティーク調の椅子が一脚あり
ブックスタンドに挟まる
教科書類が 無けれは
ビジネスホテルの
一室にも見える
子供らしい玩具もなく
閑散とした部屋だからこそ
教科書と一緒に並ぶ
外国製の本型宝箱は
久我の眼を惹いた
ゆっくりとベッドから
立ち上がった久我は
本型の宝箱に手を伸ばし
静かに蓋を開ける
だが 中には
期待した 子供らしい小物はなく
1通の開封した封筒が
有るだけだった
“ 清人へ”と 書かれた封筒を裏返し
“ 清乃より”と書かれた達筆な文字に
久我は 封筒を宝箱へ戻し
電気を消して
清人の部屋を出た
ゾクリと走る悪寒に
1階で待ち構える
二匹の鬼が居る事を
思い出した久我は
重苦しい溜息を
長々と吐き続ける事しか
出来なかった
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