僕らの距離

宇梶 純生

文字の大きさ
上 下
26 / 184

メダル

しおりを挟む
午後7時を過ぎ
肌寒い風が
商店街に流れ込む


清人の希望で
ゲーセンへ入店したが
どのゲーム機も
人だかりに埋もれていた


何機種も並ぶプリクラには
長蛇の列が出来


人々に押し潰されながら
必死で歩く清人の顔に
疲労の色が出始める


久我はメダルを購入し
競馬ゲームで遊ぶ
ベッタリと寄り添う
カップルの背後に立ち
威嚇的な待ち人を装った


しばらくして
予測通り 2人分の席が空き
清人を隣りへ座らせ
メダルの賭け方を説明したが


清人は 機械的に走る
馬の模型を 興味津々に眺め
一向に賭ける気配はなく

最終的には
久我の賭けた馬を
応援する側に徹した

「楽しいか?」

久我の素朴な疑問に
満面の笑みで応える清人

プリクラの列は
一段と増すばかりで
清人の願いは 叶いそうになく

腕時計の針は
午後八時半を示し
プリクラを諦め

久我は残りのメダルを
互いの誕生月である
⑧-⑪ ×50へ 投入し
花火が見える場所へ
移動するつもりだったが

1500枚のメダルが
舞い戻る結果となった

ジャラジャラと
払い戻されるメダルを
必死にカップへ掴み入れ


まさか競馬ゲームで
時間との戦いに
悪戦苦闘する嵌めになるとは
久我も清人も
思いも寄らなかった


メダルをゲーセンへ預け
カードを清人に手渡すと
既に清人の掌には
一枚のメダルが有り


 「メダルの方がいい」


嬉しそうに
メダルを握り締めた


駅から数百メートル先の河川敷へ
続々と流れてゆく人々とは
逆方向へ歩く久我


穴場中の穴場スポットへ
清人を連れてゆく


建ち並ぶビルの中に
古びたビルが取り残され
各階事に 飲み屋が入っている


エレベーターで4階へ上がり
居酒屋の亭主へ 
挨拶をする久我に
亭主は指でOKサインを出す


久我が子供の事から
父親に連れられ
訪れていた 馴染みの店


店の前を通り過ぎ
ビルの裏手にある
非常階段の扉を開ける


吹き上げる風を遮る様に
清人の体を抱える久我は


螺旋階段の踊り場へ
背後から 抱き抱える様に
清人を座らせ
大判タオルで
清人を包み込んだ


ビルの隙間から
打ち上がる花火が煌めき
清人の瞳が目映く揺れる


清人を階段から落さぬ様
抱き締める腕に 力が篭もり


終盤に打ち上がる
連発花火に
感動する清人は


久我の腕の中で
仰け反り 久我の顔を見た


前屈みになる久我は
あどけない清人の唇へ
久我の唇を重ね


時が止まる
接吻をした


身体ごと 振り返る清人を
胸に抱き寄せ


「悪い事は
   “ 何もしてない”」


久我は 縁の言葉に
言い訳をしていた
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

この愛のすべて

高嗣水清太
BL
 「妊娠しています」  そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。  俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。 ※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。  両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

【クズ攻寡黙受】なにひとつ残らない

りつ
BL
恋人にもっとあからさまに求めてほしくて浮気を繰り返すクズ攻めと上手に想いを返せなかった受けの薄暗い小話です。「#別れ終わり最後最期バイバイさよならを使わずに別れを表現する」タグで書いたお話でした。少しだけ喘いでいるのでご注意ください。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

処理中です...