僕らの距離

宇梶 純生

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十六歳

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駅の改札口で
待ち合わせ

電車に揺られる事
約20分

そこから
徒歩10分程の場所に
縁が住むマンションがあった

入り組んだ狭い階段を昇り
1Kの部屋が密集する
一人暮らし物件

狭い玄関に
何足ものスニーカーが重なり

廊下を挟み 
流し台とユニットバスが対面し
流し台の下には 真四角の冷蔵庫が
設置されている

廊下と同じ幅のドアで区切られた
縦長の部屋

パイプ式のベッドと
ステンレス製の洋服掛けがあるだけで
狭い部屋を埋め尽くす

これが バイトで生計を立てる
十六歳の現状


縁は夢を叶える為
親の仕送りもなく
必死で働きながら
ダンススクールへ通ったが

高額な入学金の後も
毎月の授業料や
レッスン代が嵩み

バイトを増やしても
家賃や光熱費と
生活費に吸い取られ
中途挫折した経験がある

それでも夢を諦めず
ダンススクール出身者が集う
ダンサー達を積極的にリスペクトし
テクニックを学びながら
路上で練習を重ねていた


縁が暮らす
贅沢ではない住居は
独立と自由を兼ね備えた
身の丈に合う城で


自立した十六歳の縁に
隆行は ただただ
自分の愚かさを
思い知らされた


縁のベッドへ
腰掛けた隆行は
惨めな等身大の姿を
晒し始める


「僕は 敷かれたレールの上を
  歩いてきた
  多分 これから先も ずっと

  それが 嫌な理由わけじゃない

  踏み外せば 
  父の信頼を失う恐怖に
  怯える情けない人間だ」


縁は 隆行の横へ座り
隆行の心の闇を探る


「それは “ 愛人の子”だから?」


隆行は 縁の想定を見透かす様に
朗らかの顔で 笑う


「 伯父と甥
   少し複雑な親子関係」


縁は首を捻り
核心の的を射抜く


「弟君も?」


隆行の顔から笑みが消え
虚ろな表情に戻り
口を閉ざした


縁は 隆行の手に
部屋の鍵を渡し
優しく微笑む


「無理には 聞かない

  だけれど
  もう隆行の家では 逢えないよ

  これなら いい?」


隆行は 鍵を握り
こくりと頷いた
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